38. リトリート
2007年春。イスラエルを出てから、知り合いや友人、パーティーやフェスティバルに誘われるがままヨーロッパの国々を巡った。最初にポルトガルに入り1か月ほど過ごし、その間に3日間のリトリートに招待された。’リトリート’とは、日常から離れ自分を見つめ直す時間のことだ。
プレイしたヨガ·イベントで知り合ったシャーマン的なインストラクター·カリード。誘われるがままにポルトガル最南端の、今ではリゾート地で名高い’アルガルヴェ’に赴いた。当時はコンシャス系の人々が集まっているということで有名だった。
彼はブームフェスティバル·ヒーリングエリアでの人気コンテンツ、トランスダンスのファシリテーターだと後に知ったのだが、彼のリードするクラスは人で溢れかえり参加するには定員があるため早い者勝ちである。ちなみに彼はテマスカルやファイヤーウォーキングもリードしていて2008年にはそのどれもに参加した。
ここでまた、インドの瞑想指導者、神秘家で20世紀のヒッピーたちの多くが傾倒していた”オショー”が出てくる。シャンティクランティからも色々教わったけれど、カリードもまたオショーのメソッドを多用していた。ここイビサにもたくさんの弟子サニヤシンがいて、色々なワークショップやクラスが開催されていたが、昨今では新しいジェネレーションが出てきてアレンジにアレンジが重ねられ、もはや源流は形を成しておらず、ヒッピーがファッションでビジネスになったように、ウェルネスが今、ファッションでビジネスになっている。
オショーのメディテーションは、忙しい現代人に合わせアレンジしている。身体を動かすことで思考や感情を観察する手法を取り入れたものが多く、代表的なものにダイナミックメディテーション、クンダリーニメディテーションなどがある。それらのメソッドの数は100を超え、その瞑想テクニック集の本は80年代に出ていて、私はシャンティクランティに教えられて持っていた。
このリトリートは、カリードとその当時のパートナーのデヴァの二人によって構成されていて、十人ほどの参加者と共に、リゾートリトリート宿泊施設にて2泊3日で行われた。朝は7時ごろに起床し、夜も21時ごろまで動的なメディテーションを行い、最後は静的なメディテーションをして終わるという、過密プログラムだった。各個人のベッドルームの他にスイミングプールと円形のフローリングのテンプルともう一つヨガスタジオがあったかと記憶している。
デヴァが一人一人を’スマジング’によって浄化してくれ、目隠しをして踊る”トランスダンス”なるものを体験した時、ずっと求めていたものに出会えた気がした。
思い切り身体を動かし、汗をかき、誰かの目を気にせず、邪魔もされずに自由に音に溶け込める、そんなダンスをするのはいつぶりだったのだろうか?シーンが大きくなり、かつて私が東京芝浦の大箱クラブGOLDで体験していたようなバイブのダンスフロアを体験するのが段々難しくなっていた。ダンスフロアでは、お酒を片手におしゃべりする人も多いし、音楽やダンスに集中する人も少なく、音楽にハマることが難しく、すっかりソーシャルな場が大半に変わってしまっていたからだ。
新たに出会ったこの”ダンスフロア”は、ヨガスタジオで70平米ほどだっただろうか。”ダンサー”はほんの十人程度、サウンドシステムだなんて呼べないような普通のスピーカー、カリードが選曲してあった多分iTunesから流れる彼のプレイリスト。DJのような”ミックスの妙”なんてものもなければ、最新のダンスミュージックでもない。それでも、目隠しをした暗闇の中の私は、かつてGOLDで踊っていた時の感覚をまざまざと思い出し、ひたすら無心で踊りまくり、最後の柔らかい1曲が流れた時には、”内なる目”でくっきりと自分の紫色のエネルギー体の動きを見つめながら、幸福感と満足感に包まれていた。
このトランスダンスに出会ったあと、ファイブリズムス、ファイブエレメンタルダンス、エクスタティックダンスなど色々体験する機会があった。どうネーミングされようが、どういうアプローチであろうが基本は同じである。喋らない。ただ自由に身体が動くがままに踊る。
これらの総称’ダンスセラピー’はそれぞれの中の滞っているエネルギーや感情を、身体を動かすことで流動させ、ヒーリングしてしまうこともあれば、気づきを得ることもあれば、エネルギーを生み出すサポートもしてくれる。
他者と喋らない、コンタクトしないことで、音楽に集中してダンスに入り込める環境が作られる。あとはそこに参加した個々人がどこまで自分を解放できるか、どこまで自分のダンスに入り込めるか、動けるかにもよるのだが、2~3曲も踊ると身体が勝手に自由に動き出す。それぞれ個人が、こんな音楽は嫌だと思って踊らなければそれまでだし、どんな音楽であろうが、環境であろうが入り込んでしまえた人は、ランニングハイの状態になって、楽しさとエネルギーのピークに達することが出来る。そうすることで、身体に滞っていたエネルギーが動き出す。滞ったエネルギーは、感情がスタックしたものだったり、トラウマだったり、身体的に硬くなったところだったりと様々だけれど、本人の意識とは関わりのないところで流れ出す。自分が動くことで出来るヒーリングみたいなものだ。歌詞やメロディーに同調して泣けば癒しが起きるだろう。あらゆるヒーリング·アートの効果は自分の意図や意志によるところは大きい。
その後、ベルギー、ドイツ、イタリア、ギリシャ、マケドニア、イビサには1年の半分くらいは滞在し、帰国もしつつ、訪れる先々でプレイし、他のミュージシャンとコラボレーションしたりしつつ、2008年夏のロシア·アルタイの皆既日食フェスティバル、2度目のブームフェスティバルなどを経て、2008年10月、品川のお寺で、数人の友人達とチームになって、独自のダンスセラピー”ダンスメディテーション”を開催した。
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