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Werewolf Cop ~人狼の雄叫び~  第24話

↓前話はこちらです。

↓初見の方は第1話からどうぞ。



○ 49

 園田と3人の部下は、神社の横手から林を登り、まず御厨の自宅を確認することになっていた。

 あと僅かで御厨宅の裏に着く。ここから見たところ、二階の一室と一階に灯りがついている。しかし、それは見せかけかもしれない。充分気をつける必要がある。

 平地となった所で部下達に目配せする。二手に分かれ、御厨宅へ密やかに忍び込むつもりだ。

 だが、不意に今登ってきた林の方から何かの気配がした。

 素早く視線を送る園田。

 そこに、4人の男が立っていた。皆、きっちりとしたスーツを身につけている。

 今現在園田達は戦闘服だが、通常はあれと同じ格好だ。つまり、仲間?

 よく見ると、行方不明になった隊員の何人かと体格が似ている。こんなところで何をしているのだ?

 「おまえ達、どうし……」

 言いかけて不自然さに気づいた。

 男達の顔の前に、黒い靄のようなものが漂っている。他の部分は月明かりに照らされてよく見えるのだが、顔だけは確認できない。

 ぞくり、と背筋が寒くなる。これは、人間じゃない。

 部下3人も戸惑い、そして怯え始めた。

 スーツ姿の4人の顔の前から、靄がとれていく。すると、現れたのは、紅く輝く眼光、異様に突き出た口と鼻、そして、鋭い牙。

 人狼?!

 息を呑む園田。即座に銃を取り出した。部下達も肩にかけていたサブマシンガンを構える。




 激しい銃声が響き渡る。

 人狼達は銃撃を受け、仰け反るようにして倒れた。

 殺ったか?

 園田も部下達も、たいした動きをしていないにもかかわらず息を切らしていた。全身に汗が滲んでいるのがわかる。

 黙ったまま様子を見ていると、倒れた4体の人狼達がむっくりと起き上がった。

 「う、うわぁぁっ!」

 部下の1人が恐怖から叫び声をあげ、再びサブマシンガンを撃つ。つられて他の者達も。

 人狼達は今度は素早く散り、全ての弾丸を避けた。

 そして、人の目では追うのが困難なほど速い動きで迫ってくる。

 跳ね上がった2体の人狼が、部下2人の上に飛び降りるとともに、その首筋に食らいついた。

 1体は地を駆け抜け、もう1人の部下の腰のあたりに食らいつくと、その身体を持ち上げ振り回す。

 園田は銃を構えたまま硬直する。目の前の光景を受け入れるのが、一瞬遅れた。

 背後に気配。振り向くと、高々と右手を掲げる人狼――。

 叫ぶ暇もなかった。翻された人狼の腕。その先に煌めく鋭い爪によって、園田の首は切り裂かれた。

 彼が最後に見たのは、噴水のように吹き上がる自分の血だった。

 4体の人狼達は、各自が殺害した者からそれぞれ心臓をくり抜くと、握りつぶした。




○ 50

 先ほどから銃声が何度も聞こえてきていた。一カ所からではない。拳銃だけでなく、サブマシンガンらしきものも含まれていた。

 これは、公安裏部隊とエリカが争っているだけじゃない。やはり、人狼も現れた――。

 池上は拝殿の柱の一つに身を隠しながら様子を探っていた。

 境内にはまだ何者も侵入していない。

 チラリと見ると、拝殿の奥まった部屋の窓から陽奈が顔をのぞかせていた。不安げな表情だ。御厨と陽奈はどこかに連れ出そうと思ったのだが、2人がそれを拒否して残っていた。

 「陽奈ちゃん、隠れていてくれ。これからもっと激しくなる」

 そう言うと、彼女は息を呑み「すみません」と小声で言いながら顔を引っ込めた。

 ん? と振り返る。

 本殿の向こう側の塀の上に、一瞬何者かの顔らしきものが見えた。目出し帽をしていたことからすると、公安の裏部隊だろう。

 エリカが予想したとおりの場所に現れた。さすがだ。先ほど打ち合わせでこの地形を見た彼女は、敵が侵入してくると思われる場所をいくつか示した。それを元に対策を練っておいたのだ。

 池上は銃を手に打ち合わせ通りの場所に移動し、待ち構える。

 隙のない動きで、4人の男達が塀を乗り越えて境内に忍び込んできた。2人がサブマシンガンを構え前に出る。

 池上はポケットに忍ばせていたリモコンのスイッチを押した。

 境内の隅に立つ太い一本の樹。その上に取り付けられていた高電圧のライトが光を放つ。

 突然強力な光で照らされた裏部隊4人が慌てた。目を押さえる者もいる。

 乱れた彼等の動きが一旦止まる頃を見計らって、池上は一歩前に出る。しっかりとした射撃姿勢をとり、落ち着いて銃爪《ひきがね》を引く。4発の銃弾が、彼等の心臓を撃ち抜いた。こちらを殺すためにやって来たのだから、射殺もやむなし、と自分に言い聞かせる。

 ライトを消し、一つ息を吐く。

 だがすぐに、ぞわりと背筋を冷たいものが這い上がる感覚――。




 振り返ると、反対側の塀の引き戸が開けられた。御厨の自宅の方だ。

 そちらからゆっくりと姿を現したのは、4体の人狼だった。それぞれが、ギロリと辺りをその紅い目で見まわしている。鋭い牙がのぞく口元から血が滴り落ちる人狼もいる。

 1体の視線と池上の視線がぶつかった。

 くっ、まずい。連中、見境なく襲ってくるつもりか? あるいは、こちらが人狼を滅するために動き始めたことに気づいて、阻止しようとしているのか?

 銀の短刀と棒手裏剣を取り出す池上。エリカのように上手く放つ自信など微塵もないが、構えるだけでも牽制にはなるだろう。

 そう考え棒手裏剣を投げる直前の姿勢をとる。

 思った通り、人狼達は一瞬狼狽うろたえたようだ。

 その時、今度は別の箇所から塀を乗り越え、裏部隊の4人が現れた。銃撃音がしたからか、密やかでなく堂々と境内に降り立つ。

 そこもエリカがあらかじめ予想していた場所だ。照明の細工も同様にしてあったが、光を見舞うヒマはない。彼等は人狼達に気づくと、一斉にサブマシンガンや拳銃を向けた。

 銃撃がはじまる。人狼達が素早く動く。

 2体は被弾していったん倒れた。他の2体は裏部隊のど真ん中に飛び込んでいく。

 サブマシンガンの2人が首筋に食らいつかれ、悲鳴と血飛沫をあげた。

 拳銃の2人が慌てて仲間に食いついた人狼達を撃つ。

 だがそうなると、もう撃たれても止まらないようだ。人狼達が頭を振るたびに、男達の身体が宙を舞う。おびただしい血が辺りに飛び散り、境内が紅く染まっていく。

 被弾して一旦倒れた人狼2体も起き上がり、高々と跳躍した。

 残っていた2人の裏部隊の男達が逃げようとするが、動きの速さが段違いだ。あっという間に追いつかれ、1人は後首を咬み裂かれる。もう1人は鋭い爪で背中から心臓を一突きにされた。

 人狼達が、襲った男達から心臓をくり抜くところまで、池上は呆然と見ていることしかできなかった。




○ 51

 男に力任せに立たされたエリカの身体が、グラグラと揺れる。

 羽黒が近づき、指で彼女の顎を持ち上げた。

 その瞬間、エリカの目がカッと見開かれた。勢いよく頭を持ち上げ、頭頂部を後ろの男の鼻に叩きつける。

 どんなに辛くても絶対に諦めない彼女は、窮地の中でも活路を見いだすべく、朧気な意識になりながらもチャンスを待っていた。一瞬の隙も見逃さない。

 「ぐわぁぁっ!」と叫び声をあげ、男が仰け反る。

 エリカはクルッと回転しながら羽黒に後ろ回し蹴りを放つ。

 羽黒はとっさにスエーバックするが、僅かに右頬をエリカの踵が掠りよろける。しかし、そのまま回転して距離をとるのはさすがだった。

 仰け反った男が怒りの形相でエリカに掴みかかる。彼女は身を屈めながら男の膝に蹴りを打ち込んだ。

 男の身体が回転して倒れる。その顔面、レバー、そして股間の急所を恐るべき早さで蹴りつけるエリカ。

 男は獣のような呻き声をあげたかと思うと、泡をふいて痙攣しながら意識を失った。

 銃で男の心臓を撃ちとどめを刺し、キッと羽黒の方を向くエリカ。

 木の陰に隠れ、銃を構えていた。

 横へ飛んで別の木の陰に隠れる。銃ではなく棒手裏剣を取り出す。それは羽黒に対抗するためではない。鋭いほどの危機感を覚え、気配を感じた方を見る。

 先ほど逃げていった人狼2体が、勢いよく斜面を駆け下りてくる。1体は間違いなくエリカを目指していた。すぐそこまで迫っている。

 鋭い爪が目の前に繰り出された。エリカは背中から後ろへ倒れ避けるとともに、人狼の腹部を蹴り上げた。柔道の巴投げのような形で人狼の身体が飛んでいく。

 人狼は、くるりと宙で回転して立った。

 エリカも同時に飛び上がるように起き、素早く腕を翻す。

 彼女の手から放たれた棒手裏剣が、人狼の胸に突き刺さった。一瞬でも遅かったら、逆にエリカが鋭い爪で切り裂かれていただろう。

 ふうっ、と一息つくが、先ほどと同じ轍は踏まない。素早く振り返り、羽黒ともう1体の人狼を確認する。

 離れた場所で、羽黒が転がっていた。まだ被害は受けていない。何発か発砲し、迫る人狼を牽制している。とはいえ、あれでは、餌食になるのも時間の問題だ。

 しかし、境内の方で激しい銃声が何度も響き始めると、人狼はそちらを向き、斜面を駆け登っていった。

 エリカは人狼を追う。境内での戦いが激化して陽奈達に危険が及ぶのが心配だ。一刻も早く駆けつけたい。

 後方で羽黒も動き出したようだが、エリカはかまわず走った。


○ ↓第25話(最終話)に続く


  


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