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チンピラ風先生が教えてくれたこと

成績普通 勉強に関心なし

僕の中学生の成績は、どれをとっても平均点ぐらい。いや、数学なんかは、学校の先生からは塾を勧められるほど、ついていけなかった。どの教科も飛びぬけてよいものはなく、ただ数学だけがダントツにひどかった。

3年生になり、同級生のお父さんとお母さんが経営している個人塾に、友達と通い始めた。数学と英語だけをやっている塾。お父さんは英語を、お母さんは数学を担当していた。

チンピラ風先生

英語の先生は、軽いパーマをあてていて、前歯が1本かけていた。見た目は、ちょっとしたチンピラ風。いつも気軽に声をかけてくれたり、冗談を言って笑わしてくれたりと、僕は親しみを持っていた。どんな授業をしていたかはほとんど覚えていない。プレハブの2階建てに向かう細い階段を上ると、窓際で、たばこをかしながら、「ようっ!」と元気よく声をかけてくれた姿がほとんど記憶のすべてといっていい。

テスト前恒例の儀式 「お前は95点が取れる」

定期テストの直前になると、恒例の儀式のようなものがあった。先生が、生徒一人ひとりに、「たけし、お前は75点や。めぐみ、お前は、今回80以上は取れる!」とすべての生徒に点数予測をしていくというものだ。その点数予測の根拠は、おそらく授業中に、生徒をあてる中で理解度や定着度を見極めにあったものだろう。ぼくは、その風体から、何となく競馬の予想屋をイメージしてしまい、あまり本気にしていなかった。テスト結果が返ってきて、先生の予想がどれほど的確に当たっていたかというと……ほとんど記憶に残っていないので、的中率は驚くべきものではなかったのだと思う。

中学2年生の2学期の中間テスト。いつものように先生の恒例儀式が始まった。先生の授業のおかげかどうか、今となっては確証がないが、僕は英語で80点前後取れるようになっていた。
「お前は今回、95点取れる。」冷静に語りかけるように言った。
いやいや、90点以上なんて無理、無理、自分に取れるわけがない。95点といえば、5科目合計で、いつも480点以上取っている「先生の娘」の成績やないか。ちなみに英語はいつも100点の先生の娘。

ただ、心にひっかかった。これまでより高い点数、しかも95点を予測してきた。取れるのか? いや取れるわけがない。いや、もう一歩頑張ればとれるかもしれない。ちょっとした期待があった。

優等生に質問してきっかけをつかむ 期待感!

ほとんど話したことがなかったが、僕は、優等生である「先生の娘」に聞いてみた。

「いつもどんな勉強してんの?」 
「どうやったら100点取れるの?」
彼女は、決して偉ぶることのない優しい表情で、
「教科書本文、丸暗記!」
と笑顔で答えた。

そういえば塾での宿題は、毎週、教科書の本文を区切って日本語を英語に書くという小テストの勉強だった。
彼女はそれを徹底してやっていただけだった。

きっちりと本文を覚えこめば、95点が取れるかもしれない。

彼女の「教科書本文、丸暗記!」というはじけた言い方が、僕の頭の中でずっとこだましている。今回は、ちょっと英語を真剣に勉強してみようと思った。

彼女のノートも見せてもらい、左に日本語訳、右に英語訳という形式をまねた。ひたすら日本語訳をみて、英語に書き直した。
完璧と思えるくらい何度も繰り返した。テスト前には、ほんのりと、自分に対する期待が湧いた。
取れるかもしれない、95点が。
いやもっと取れるかも……。
その代わり、他の教科の勉強は、ほどほどだった。

結果、92点。
先生の予測にあと少し足りないぐらいの結果。
でも初めての90点越え。
嬉しさが爆発していた。

チンピラ風にたたかれる

先生に報告すると
窓際でたばこをふかす先生に結果を報告しに行った。
「92点やったわ!」
僕はてっきりほめてくれると思いこんでいた。
「アホか! ツメが甘いんじゃ!」 バシッ!!
薄めのテキストで、頭をはたかれた。

頭をはたかれたことが、何やらうれしかった。
僕を「できるヤツだ」と先生が認めてくれている気がした

特別、得意でもなかった英語。
英語だけなら、優等生ぶれるかも!
頑張ればできる気がした。 

その後、中学生時代は、定期テストでは100点を取れることはなかったが、90点以上をキープし続けた。
先生の娘さんとは、定期テストだけでなく、最終的に模試でも張り合えるようになった。ただ、他の4教科は、英語が上がった相乗効果か、そこそこ底上げはできた。
勉強に対した興味がなかった僕が、自信持って勉強に向き合えるようになった。
たぶん、このチンピラ風先生、そしてその優等生の娘さんと出会わなければ、この後の僕の人生はかなりかなり違ったものになっていると思う。

TOP校ではなかったが、なんとか高校に進学した僕は、うっすらと大学進学を思い描いた。
他の教科に比べて、成績のよかった英語をさらに学べる大学は? と考え、調べた結果、外国語大学に目標が定まった。
僕は完全に努力型タイプ。
人一倍がんばってようやく人並みになる時間が必要なタイプ。
それを自覚できたから、ものすごく時間をかけて勉強した。
英語の1点突破でなんとか志望大学にも合格できた。
1つのことにあれだけ集中できる感覚を体験できたことは、
その後の自分の自信になった。
何か苦しいことがあると、「あのとき、あれだけ頑張れたのだから!」 といまだに高校生の自分がモチベーションになっている。

目標への近づき方を教えくれた受験

高校受験・大学受験は、僕にとっては自分に向き合えた貴重な時間だった。
僕にとっては勉強内容そのものよりも、「どうやって点数をあげるのか」「そのためには何をすればいいか」という目標への近づき方を学んだことが大きかった。

PDCAが大事! 指導者の役割は?

中学生の当時の僕には知らない言葉だったが、成績が上がる過程は、まさにPDCAサイクルを回していたことになる。
勉強は、PDCAを回すことで、非常にわかりやすい成果を示してくれる。
きっと今の子どももそんなことはわかっている。
PDCAということばも知っている中学生も多い。
そのサイクルに向かうきっかけを作るのが、指導者としての大きな役割なのだと思う。
ただ、それが一番難しい……。

今思えば、あのチンピラ風先生は、僕のことを完璧に操っていた。
すごい人だった。




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