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文献なしのオペラ入門3 トリスタンとイゾルデ


ワーグナーは前回、パルジファルについて書いたので、今回はトリスタンとイゾルデについて書きます。この作品は第1幕への前奏曲と第3幕の最後の部分を前奏曲と愛の死としてくっつけて、よく演奏会で上演されます。全曲を上演すると、第1幕~第3幕それぞれ80分前後ですので、全体で約4時間かかります。さすがに4時間通しで音楽を聞く時間をとるのは難しいので、最近は専ら一日に1幕ずつ聞くか、2幕だけ聞くかして聞いています。

トリスタンの実演はほとんど接したことがなく、2012年にバーミンガムでやっていた演奏会形式の上演に接しただけです。隣に座っていた英国人が、マルケ王の歌唱はほめていましたが、イゾルデの歌唱は留保していました。

今回取り上げるのは2018年にバレンボイムがベルリン国立歌劇場で上演した映像作品です。

収録データは以下の通り
トリスタン…アンドレアス・シャーガー(テノール)
マルケ王…ステファン・ミリング(バス)
イゾルデ…アニヤ・カンペ(ソプラノ)
クルヴェナル…ボアズ・ダニエル(バリトン)
メロート…シュテファン・リューガマー(テノール)
ブランゲーネ…エカテリーナ・グバノヴァ(メゾ・ソプラノ)
舵取り…アダム・クトニー(バリトン)
羊飼い/若い船乗り…リナード・フリーリンク(テノール)
トリスタンの母…クリステン・ベッカー(俳優)
トリスタンの父…マイク・ホフマン(俳優)

ベルリン国立歌劇場管弦楽団&合唱団(合唱指揮: レイモンド・ヒューズ)
指揮: ダニエル・バレンボイム

演出&舞台美術: ドミトリー・チェルニアコフ
衣装: エレーナ・ザイツェヴァ
照明: グレブ・フィルシュティンスキー
ビデオ: ティエーニ・ブルクハルター
ドラマトゥルク: タチアーナ・ヴェルシャギーナ、デトレフ・ギーゼ

映像監督: アンディ・ゾンマー

収録: 2018年4月 ベルリン国立歌劇場(ドイツ)

いつもの通り、演出はよく見ていないのであまり理解していませんが、現代風の読み替え演出です。いくつか写真を挙げておきます。


第1幕 媚薬を飲んだ後になぜか笑い出すトリスタン(左、シャーガー)とイゾルデ(右、カンペ) 一番左に立っているのがブランゲーネ(グバノヴァ)


第2幕 おそらくトリスタン登場前のイゾルデ(左、カンペ)とブランゲーネ(右、グバノヴァ)


第2幕 トリスタン(左、シャーガー)とイゾルデ(右、カンペ)


第2幕 マルケ王登場シーン


第3幕 イゾルデ、マルケ王、メロート登場後のシーン


第3幕 トリスタン(右、シャーガー)とイゾルデ(左、カンペ) 


バレンボイムはこれ以外にもトリスタンの録音、映像をたくさん残しているようですが、聞いてないです。演奏は悪くなかったともいます。歌手の中で一番印象に残ったのが、シャーガーのトリスタンです。明るくよく通る声で、全3幕歌いきっています。

トリスタンとイゾルデをはじめて聞く場合、どう聞くかですが、1幕ずつじっくり聞いていくというやり方で普通に良いと思います。いきなり1幕全部聞くのはつらい場合は、
第1幕 前奏曲
第1幕 トリスタンとイゾルデが媚薬を飲んだところから最後まで
第2幕 前奏曲
第2幕 愛の二重唱
第3幕 真ん中あたりからから最後まで
などのように適当に抜粋して耳を慣らしてからでも良いでしょう。

さて、全曲通してみると、ほかのワーグナー作品全般にも言えますが、やはり冗長な部分というのは確実に存在します。そこについては適当に流しながら聞くしかありません。そういう時には映像が面白いとよいのですが、このバレンボイムの映像は映像面での楽しみは少ないように思います。

演奏面についてあれこれ言うつもりはありませんが、やはり、第2幕の愛の二重唱の部分が感銘深かったです。シャーガーの明るく伸びやかな歌唱が印象的です。イゾルデについては、第3幕の最後の愛の死の部分の歌唱がよかったように記憶しています。この映像ですが、まだ2、3回ぐらいしか見ていないので、もう少し聞きこみたいです。

トリスタンとイゾルデはこのディスク以外でも数多くの映像作品やCDが出ています。バイロイトで2010年代に上演された映像作品も見てみようと思います。指揮はティーレマンだったと思います。

基本的には最近の映像作品だけを紹介するつもりですが、トリスタンの場合、一つだけ音だけの録音を紹介します。フルトヴェングラーが1952年に録音した古い演奏です。

録音は1952年のモノラルですが、十分鮮明です。聞きどころとしては、第2幕の愛の二重奏のクライマックスで、愛の死のテーマを奏でる箇所ですが、いままで抑制して演奏していたフルトヴェングラーが突如、猛烈な加速をかける箇所で、ただただ圧倒されます。ちょっとほかに見ない迫力です。(もちろん第1幕への前奏曲から引き込まれる演奏ではありますが。)歌唱だと衰えているとはいえ、やはり、フラグスタートのイゾルデが圧倒的です。

フルトヴェングラー(左)とフラグスタート(右)
1952年のスタジオ録音時の写真か?


ワーグナーに入門する場合、どれが良いかは人それぞれでしょうが、パルジファルに比べるとトリスタンとイゾルデの方が女声の重要パートが多いので、女声のソプラノ、メゾ・ソプラノ好きの場合はトリスタンとイゾルデの方が良いでしょう。音楽自体は2,3回聞けば耳に馴染む音楽で、決して難解ではありません。一番最初に聞くオペラがこの作品であっても何も問題ないと思います。

パルジファル、トリスタンとイゾルデと書いてきましたが、次もワーグナーというのは偏りすぎていると思うので、次書くとしたらイタリアオペラにしようと思います。現在、ベッリーニを集中して聞いているので、おそらく、ベッリーニ最後のオペラとなった清教徒を取り上げます。

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