「コッホ先生と僕らの革命」の感想
タイトルを「ゴッホ先生と僕らの革命」と見間違えて、フィンセントヴァンゴッホに率いられた芸術家の卵達が武装蜂起するのか?どんな映画だ?とワクワクして見てみたら、そういう映画じゃなかった。コッホ先生だった。
あらすじをまとめるとこんな感じ。
コンラート・コッホという教師は実在していて、ドイツサッカーの父と呼ばれているらしい。
サッカーというミーム
サッカーにはあんまり興味ないけどミーム論的に面白かった。(補足1)この映画ではサッカーというミームがドイツに蔓延することになった端緒を描いている。
ミーム論っぽさを感じた部分をあげると、
・子供達にとってのゴールポストは、サッカーを知らない大人にはただの地面に突っ立った木の棒にしか見えない。
・クライマックスの交流戦では、試合に勝つことではなく、サッカーの面白さを視察団に伝えることが勝利条件として設定される。「視察団を感染させよう」こことかもろにミーム的な発言だ。
新しい概念が人々に広まりその思考を変容させていく。こういう感じの映画はあんまり見たことなかった。世界中にお金や宗教が広まったその始まりってどんなだったんだろうと思いを馳せながら見た。
(ミーム論関連の書籍ではこれが面白い。)
そういう目線で見ると大人達がサッカーを封じるために新聞を使ったのは悪手すぎたよな。イジワル大人チームは対戦相手を勘違いしたせいで負けた。対戦相手はコッホ先生や生徒ではなくサッカーそのものだ。新聞を使いサッカーの危険性を広め、コッホ先生を非難するというネガティブキャンペーンは、サッカーというミームを広める行為に他ならない。
子供を押し込め、服従や規律を良しとするドイツに、自由と平等を良しとするイギリスの価値観をサッカーに託して広めようとする。(ここでの、徹底してドイツを文化的、道徳的に劣った国として描く作劇の可否には触れないでおく、ちなみにこの映画はドイツ映画だ。)
そういう意味での革命がひとまず成功する終盤の交流試合では見ているこちらも盛り上がった。
コッホ先生が全能でないのも良かった。これは力による革命ではないので彼個人が戦う必要はない。何だったら革命に自覚的である必要すらない。それにミームは彼に制御できるものではないから暴走を起こしたりもする。(子供達が不服従に振れすぎて、嫌味な先生を宙吊りにしたり、片足の将校を笑ったりする)
ただ、あえて不満点を挙げるなら子供達がサッカーにハマっていく描写がまだ足りないと思った。コッホ先生が持ち込んだウイルスが子供達に感染する様子、つまり一次感染の様子だ。
意味も分からずボールを蹴らされている段階から、徐々にその面白さの虜になっていくまでの遷移をもっともっと丁寧に見せてほしかった。
ダニエルブリュール
あとは、陽気でスポーツの力を信じすぎてるダニエルブリュールが良かった。
彼がMCUで演じているクールなジモとは対照的なキャラだけど、どっちもかわいい。
押し付けがましくないのも良かった。生徒達に対して熱っぽく自由や平等なんかの素晴らしさを説いたりはせず、とにかくサッカーをやらせるだけ。
ともすれば道徳的なテーマを大声で叫ぶようなしょうもない映画にもなりかねなかったと思うけど(「人間は、平等なんだ!!」とか)、全然そんなことはなく、いいバランスだった。
サッカーにあまり興味のない人間が観ても十二分に面白い映画だった。
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