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「みんなのヴァカンス」の感想

ずーっと面白かった。出てくる登場人物みんな最高だったので、これは最高の映画。

前半部分での話の推進力はフェリックスとアルマによって生み出されていて、アルマがフェリックスを振り回すことで話を1日ずつひっぱっていく。
だけど、他の人にとっちゃそんなこと割とどうでもいいので(もちろん友人として応援はしてるけど)シェリフとエドゥアールは何故か辿り着いてしまったヴァカンスで、今日1日をどう潰そうかなと、なんとなく時間を過ごしていく。
それが、昔、夏休みに祖父の生家に連れられていったときの過ごし方と似ていて懐かしかった。

ヴァカンス中の彼らは、それまで過ごしてきた日常から切り離された、何者でもない存在として互いに緩く関係していく。
そんな中で、彼らはみんな少しずつ互いに対してラインを超えてしまう。
お母さんはヴァカンス中に出会っただけのシェリフに子供をまかせてマッサージに行こうとするし、シェリフはこれまで心から楽しく赤ちゃんと遊んでいたのに(お母さんからしたら)急に機嫌を悪くして立ち去る。序盤の、サービスエリア?でエドゥアールを置いてシェリフとフェリックスの2人だけで会話するシーンといい、部分部分でガチで嫌な空気を出してきてる。
でもそれら全部を、否定的には描かず、人と人が接する上で不可避な摩擦として描いていた。彼らはこういう失敗を繰り返して自分と相手の距離感を見極めていく。(そしてその距離を変化させていく)

ヴァカンスは日常から浮いた時間なので、彼らは根本的に分かりあったりはしない。3人でやってきた彼らは最後には別々の場所で過ごしている。
そんな風に、人生を変えるほどでもない(だからこそ何物にも代え難い)時間を美しく楽しく描いた傑作だった。

テンポ良く話が進むのも良い。

その他、細かな感想。

というか、明らかにこういう細かな部分こそがこの映画の肝だった。

・シェリフはおおかみこどもの雨と雪のTシャツを着ていた。彼の子供好きという気質に、変な意味を見出しそうになってしまったので考えるのをやめた。

・サプライズを電話で彼女に告げて、ドン引きされる時のフェリックスの表情の変化!(背景色も、日が落ちて青く変化していってる?)

・3人が仲良くなるまでの描写が最高。
2人きりになったタイミングで仲良くなってる。
自転車で峠を登るときに、フェリックスに抜かれてムキになるエドゥアールがかわいい。

・マウスピースをつけた途端に話しかけられて、外して返事をするのを何度も繰り返すくだりも最高。

・渓流下りで修羅場、からのご機嫌に赤ちゃんと遊ぶシェリフのシーンで爆笑。

・「本当におばあちゃんが死んだときには休ませないぞ」みたいなことを言う店長にもウケた。

・「私の親はオープンだから(私が黒人と付き合ってても気にしないよ)」とか、「お前は捕まらないよ、ヤバいのは俺達2人だけだ」とか、ヴァカンスの外の世界に接するタイミングでは、この世界の世知辛さが垣間見えていた。

・エドゥアールやシェリフ達やアルマやエレナはきっと今後会うことも無いんだろうし、それが凄い良い。これまで旅行中に会って、それっきり、もう顔も覚えていない人たちのことを思い出した。

ユーロスペースで見たけど、袖の幕がせり出てきて画面比が変わるのを見るのは初めてでワクワクした。

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