「ファンタジーの秘密」の読書メモ。
ファンタジーの秘密/脇明子を読みながらとったメモ。
はじめに
どういう本なのか?
著者はファンタジーの根幹の条件には不思議さの気配が必要と考えている。
その不思議さの気配とはなんなのかを定義するのが今作の狙い。
不思議さの気配とかいうあやふやなものが、読み手側の感想ではなく、作品の内に客観的に存在していることを示そうということ
1章 魔法の復活
魔法には語りの能率化と視覚化のはたらきがある。登場人物達の人生の転機を能率的かつ印象的に語るためのもの。そういうときの不思議さは、人生そのもの、運命の巡り合わせの不思議さ。
昔話の中のものだった魔法は、リアリズムによる文学の中で、物語を動かす道具ではなく奇異なモチーフとして扱われるようになった。
合理主義の中で魔法がモチーフとして使われると、エヴリデイマジックというジャンルが出来た。妖精は1日ひとつ魔法を使って願いを叶えてくれるが、日が沈むと後には何も残らない。それが厄介な結果をもたらし、登場人物達は願い事なんてしなければよかったと後悔する。
転機でも何でもないところで使われる魔法。これは白々しく見えても仕方ない。例として砂の妖精、メリーポピンズ、などを挙げている。
登場人物の子ども達はどこまで行っても観客にすぎない。その証拠に話が2冊3冊と進んでも子供達の行動パターンは変わらない。
このパターンの固定こそが人気を産んでいるのかも知れないが、それが魔法やファンタジーへの本当の愛へと育っていく人気だとは思えない。
魔法の陳腐化。
トールキンの指輪物語シリーズは、シリーズが進むうちに、のどかなおとぎ話からリアルな世界へと発展した。
その中でガンダルフは魔法をやすやすとは使おうとしなくなった。
ルグウィンのゲド戦記は、統御と抑制を魔法使いの責務としてより強く打ち出した。この世界の中心をなす魔法学院で魔法を学ぶ主人公。魔法そのものが物語の主題になっている作品は以前にはない。
魔法使いが主人公になったというのも革命。
魔法は便利な道具から、危険をはらんだ現実味のある術になった。何が起こるかわからない未知の部分に、魔法の不思議さが垣間見える。ルグウィンは、魔法の困難さを進んで認めることで、逆にリアルな世界の中に魔法を出現させている。
これを合理主義によって葬り去られた魔法の復活と言ってもいいが、厳密には創造の世界において魔法がリアルなものになるという、全く新しい種類の出来事というべきかもしれない。
そして現れはじめた、自分の持つ力の正体が善か悪かわからず、成長していく力に抵抗する新しいタイプの主人公。
2章 善と悪、闇と笑い
指輪物語の頃は一致していた善と善良さが、主人公の心理を素朴とは程遠いリアルなものとして書くようになった結果一致しないようになった。『闇の戦い』の4巻「灰色の王」で、善の側の主人公は、善なる目的のためには手段を選んでいられないという。
ナルニア国物語の最終巻。子供達は鉄道事故で死んで厩にやってくる。ナルニアの全てが崩壊し、闇が訪れる。そしてアスランを愛するものだけはその終焉を逃れて真のナルニアに旅立つ。
ナルニアを放棄して新たな世界に旅立つ。じゃあこれまでみんなで必死に守ってきたのは何だったんだ?善の側で戦ったものは救済されるらしいのだが、世界が滅びても構わないのであれば、戦うことは善の側に着くという態度表明の意味しか持たなくなる。
善の側にいれば救われるというのは教訓物語の論法。
ナルニア国物語ははっきりとその流れを汲んでいる。子供達は抱えた欠点を反省して良い子になる。ナルニアは冒険の世界だけでなく、教育の場でもある。たとえば、3巻の、貪欲さのせいで竜になり、心を入れ替えて人間に戻るユーチラスの話。明らかに教訓に終始しているこういう挿話は大人から見ると退屈。
3章 時の不思議
サトクリフの「ともしびをかかげて」
不思議の雰囲気が消えてしまいがちな歴史もの、克明に解き明かしてしまうとつまらなくなる。
「ともしびをかかげて」では、「闇の向こうの人々は我々のことを覚えていてくれるだろうか」というアクイラの問いに「おまえだの、わしだの、そういった連中は忘れられてしまうだろう……アンブロシウスのことはすこしはおぼえているだろうな。しかし、あれ(アストル)は人が歌にして千年も歌い続ける類の男だよ」ここで登場人物の1人が後にあのアーサー王になることが読者に明かされる。主人公の未来へ向いた視線と、読者の過去に向いた視線が重なる時に不思議の雰囲気が生まれる。
5章 象徴を見る目
大人に手ずから魚を与えられた少年が、これまでとは全く異なる目線で世界を見るようになる。
これは文化人類学などで言う通過儀礼と考えるとわかりやすい。
こうした説明は、物語を物語として外から見たときにだけなりたつもので、物語の中で実際に起こっている事件の理解には役に立たない。
しかし、物語の中では意味を持たないそうした脈絡は、読者の無意識に働きかける。
感想
最後まで読んだけど、結局不思議さとはなんなのかがスッキリとは分からなくてモヤモヤする。
これも不思議さだね、あれも不思議さだね、と羅列はしてくれるんだけど、その不思議さ達に共通する条件にまで手が届いていない。
しかしまあ簡単に定義できてしまったら果たしてそれは不思議さと言えるのか?って感じもするし、これは仕方がないかも。定義不能と不思議は近い言葉だし。
ファンタジーの歴史を辿るエッセイとして読めばかなり面白かった。
ざっくりした感想はここ。
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