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大野駅から夜ノ森駅まで

2022年7月11日(月) Day 2

東京地方裁判所は、元会長ら4人に合わせて13兆3000億円余りの賠償を命じる判決を言い渡した。巨大津波を予見できたのにもかかわらず、対策を先送りして事故を招いたと認定した。


月齢は11

竜田駅 朝

小雨降る週明け月曜日の朝。楢葉町役場から、庁内に献花台と記帳所を開設した旨の放送が流れている。

小さな駅舎だけだった竜田駅は、今ではタクシーも常駐する大きなロータリーができた。駅前には建設会社の大きな社屋、その奥には単身者用のアパートが立ち並ぶ大規模な開発だ。

竜田駅東口
手前の線路は使われていない

大野駅へ

竜田駅8:24発 原ノ町行きに乗車。向かうのは大野駅。大熊町にある福島第一原子力発電所の最寄り駅だ。8:39 大野駅着。数人が駅を降りた。自分を除きみな迎えが来ていたから彼らは原発関連の仕事に来たのだろう。原発から4キロ。すぐ先に中間貯蔵施設があるはずだ。

大野駅東口

大熊町では6月30日に特定復興再生拠点区域の避難指示が解除された。避難区域の地図をよくよく見れば、大野駅から隣の夜ノ森駅までなんとか歩けそうなのだ。夜ノ森駅は富岡町にあり、やはり特定復興再生拠点区域の避難指示が解除された後、2021年2月に訪れている。Google マップには距離7キロで1時間27分の道のりが提案される。

駅西側が旧市街地だ。すぐに建物の解体作業をする人の姿が見える。原発事故の被災地ではいつもの光景だが、たとえ津波の被害は無くとも、10年以上も無人の街に放置された家屋はなんとも痛ましい。商店街はかつての人の気配を残しながらも深い傷に沈んでいる。

ようこそおおくまへいらっしゃいました

ここからは線量計のスイッチを入れる。0.3 μ Sv/hから0.8 μ Sv/hぐらいだろうか。数値的には少し高いかなという程度だ(0.23 μ Sv/hで年間の被曝量が1m Sv)。

奥に双葉翔洋高校

家は壊れても庭木は残っており、ノウゼンカズラも紫陽花も今が見頃である。不思議と合歓ねむの木が多いことに気づく。赤紫色の糸のような花が咲き乱れる。

住民の方と目が合い軽く会釈する。自分の方も見られていることに気づく。線量計のスイッチを切る。

街を抜け、しばらく歩くと穏やかで美しい風景が広がる。小川が流れ、林をくぐり抜けると鶯の声に包まれる。もちろん携帯の電波が途切れることもない。森の中で道を間違えても引き返すこともできる。

風景が少し変わってくる。富岡町に入ったようだ。富岡町は夜ノ森駅周辺以外の区域は2017年に避難指示が解除されている。国がお金をかけて除染するまでは良いのだが、それが地元自治体に渡された後しばらくすると人の手が入らない場所は少しづつ荒れていく。

旧福島県立富岡養護学校

夜ノ森駅と理想郷

バリケードは取り払われた

2時間ほどかけて夜ノ森に到着する。

前回はバリケードで封鎖されていた桜並木の中にも立ち入ることができた。1年半で除染も進み、壊れた家屋も取り壊されて更地が増えてきた。この先町はどのように変わるのか。大野駅前と竜田駅前とを交互に思い浮かべてみる。「ゲームセンター理想郷」の黄色い看板はまだそこに残っていた。

黄色い看板
理想郷の行方

<了>


8月30日午前0時に避難指示解除 福島県双葉町の復興拠点 居住再開へ 県内3例目/福島民報 2022/07/15

お知らせ


以下販売しております。

  • テキスト集『ちいさなくに /木戸駅と』(2021年)
    2013年9月に初めてこの場所に、福島県双葉郡楢葉町の木戸駅から海に向かうこの土地に、降り立ってから後2021年2月までの7回の訪問の手記(ブログ)を収録したもの。

  • 写真集『木戸駅と』(2冊組/2020年)
    福島県双葉郡楢葉町にあるJR常磐線木戸駅をめぐる作品集。

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