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春を告げる町/島田隆一監督

東日本大震災・原発事故から9年。島田隆一監督(1981年生まれ)のドキュメンタリー映画『春を告げる町』を見てきました。
https://hirono-movie.com/#intro

映画の舞台の広野町は福島第一原発から20キロの地点にあります。タイトルの「春を告げる町」というのは、町のキャッチフレーズ「東北に春を告げる町」からきているそうです。全町避難を経て、線量が低いこの町では翌年の2012年3月に避難解除されています。

ところで、広野といえば(正確に言えば楢葉町との境界付近)「Jヴィレッジ」が原発事故対応の前線拠点だったことを覚えているでしょうか。今年7月に予定されていた東京オリンピックの「聖火リレー」の出発地点と言った方が多くの人に伝わるかもしれません。映画の中でも出てくる東京電力広野火力発電所の高い煙突は町のシンボルでもあります。

それから演劇部の高校生たちが出てきますが、彼らは双葉未来学園の生徒で、震災で双葉郡にある5校の県立高校が閉鎖される中、2015年に新たに開校された中高一貫教育校です。襟にパイピングお洒落なブレザー。全寮制だと聞きます。部員は3年生までいましたから2017年頃の撮影でしょうか。震災当時は小学生だった彼らが、彼ら自身の演劇のテーマに「復興」に据えたのはそういう意味でもあるわけです。

福島の震災関連のドキュメンタリーは色々あるのですが、この『春を告げる町』という映画の特徴を一言で言えば「優しい」映画でしょうか。そこに変わりゆく土地(被災地)に「帰って来た人」の生活が描かれているからだろうと思います。住民の7割が帰還し、さらに原発関連の作業員の人たちが共に暮らす町。歴史的にも炭鉱の時代があり、火力発電所、原子力発電所と移り変わるも、その地に代々暮らす人と出稼ぎの人たちとが混在しているわけですね。そこで「何を」考えるのか。

高校の演劇部の生徒を中心に何組かの家族と住民の方々が撮られているのですが、物語としては、それぞれがそれぞれの「復興」を考える、あるいは「生きる」、そういう延長の中の「未来」を描いた映画でもあります。それはわかりにくいと言えばわかりにくい(実際そういうコメントを書いている人もいましたが)ものではあるのですが、「当事者」としても本来的に同様であって、その不安や葛藤をそのまま受け止めることを見つめる映画でもあります。震災体験の無い女子生徒(この子が演劇の主役を務めています)の「ありよう」に、強く心を動かされます。

良い映画です。機会があればぜひ。あの演劇部の顧問の先生は「優しい」ですね...。

監督:島田隆一
2020年6月28日鑑賞

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