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ワン・プラス・ワン/ジャン=リュック・ゴダール監督

「ワン・プラス・ワン」は、ジャン=リュック・ゴダール監督の1968年の作品で、ザ・ローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」Sympathy For The Devilのレコーディング風景を撮影した映画だ。確かにドキュメンタリーではあるのだけれども、そこはゴダール、一筋縄ではいかない。

この映画で初めてゴダールに触れるとしたならば、ローリング・ストーンズとは無関係に(まあ外見上はそう見えるだろう)挿入され展開されるゴダール・ワールドに戸惑うに違いない。一方でまがいなりにも映画ファンを自認する者にとっては、近作に至るまで一貫するゴダール美学の哲学が、1968年製作のこの映画で既に完成されていることに、ただただ唖然とするわけだ。

ちなみに1968年のゴダールと言えば、第21回カンヌ映画祭を「粉砕」に追い込んだ男である。森の中で(おお…ゴダール)TVカメラに追われるのは「中国女」(1967年)でも主演する(…その後ゴダールと結婚する)アンヌ・ヴィアゼムスキーはゴダールのミューズなのだ。ついでだが、ロベール・ブレッソン監督の「バルタザールどこへ行く」のマリー役が彼女であった。当時であればそういう文脈でも読まれたはずだ。

映画は全編「英語」で語られる。アンヌ・ヴィアゼムスキーの応答(デモクラシー!)の他、2つの舞台設定で2つのテキストが読み上げられ、「政治の季節」をめぐる熱い「闘争」が描写される。とはいえローリング・ストーンズのドキュメンタリーとしても味わいがあり、手持ちのワンカメラでの撮影は、ミック・ジャガーのアコースティック・ギター(ギブソンのハミングバードかな)から立ち上がった「悪魔を憐れむ歌」が、日を追うごと楽曲が変化し完成に向かってゆくさまをしっかりと捉えていたりもする。自分はさほど詳しくはないのだけど、キース・リチャーズがギターだけでなくベースも弾いていて、その後のバントの動きを予見させもする。

Please allow me to introduce myself
I’m a man of wealth and taste

Sympathy For The Devil

ミック・ジャガーのこの歌の冒頭部分は、映画で何度も繰り返され特に印象的だ。歌詞には元ネタがあるとされるが、「悪魔語り」と言えばやはりゲーテの「ファウスト」を思い出させる、全体的には、直感的なのだろうが、60年代後半的事象が折り込まれている。日本語の「憐れむ」というよりはやはり「Sympathy」なのだろか。反語的にだが。ゴダールの方はレコーディングのドキュメントとしては押さえ気味に撮ってはいるものの、彼の創作部分を加味すれば、ローリング・ストーンズというバンドに対しては表面的な熱量以上に共感(Sympathy)を持っているようだ。

監督:ジャン=リュック・ゴダール  
出演:ザ・ローリング・ストーンズ | ミック・ジャガー | キース・リチャーズ


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