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あなたの顔/ツァイ・ミンリャン(蔡 明亮)監督

ツァイ・ミンリャン(蔡 明亮)監督の『あなたの顔』を見た。
http://www.zaziefilms.com/yourface/

初めに思ったのはストローブ=ユイレ監督の『セザンヌ』だろうか。その『セザンヌ』という映画は、リシャール・ガスケの著作「セザンヌ」の朗読をバックに、セザンヌの「絵」(動かない)をひたすら固定カメラで撮り続ける映画なのだが、大抵の人は瞬時に睡魔に襲われ、しかも次に目覚めた時も同じ絵が映っていたりする。もちろん「もの/絵画」ではなく「時間」を撮っているということになる。「見ること」についての映画なのだ。

それで、ツァイ監督のこの『あなたの顔』は、13名(12人の「普通の」人と俳優リー・カンション)の「顔」のアップを固定カメラで撮り続ける。被写体と監督との間でどういう取り決めがあるのか、5分、6分と、見つめ合う(カメラと?)ことに耐えきれず、ある人は自分の過去を語り始め(そうすると監督は対話に応じも知る)、またある者はハモニカを吹き、別の者は眠りに落ちる。

若くはない、それぞれの人の「顔」の、その皺のひとつ一つがその人の人生を「物語る」。最後に切り取られた「背景」であり「撮影現場」である、日本統治時代に建てられた台北中山堂 (旧台北公会堂)が、やはりストローブ=ユイレ監督の『セザンヌ』のエンディングのように「固定カメラ」で、そして13名の「顔」のように「長回し」で映される。途中「光」が変わるのがわかる。繰り返すが「時間」の映画なのである。

音楽は坂本龍一。どちらかと言えばアルバム『async』のような、断片的かつ空間的な音楽で、撮影時の環境音とともに、映画の空間に「滲み入る」ように流れている。
ツァイ・ミンリャン監督が前作『郊遊 <ピクニック>』(2013年)でヴェネチア国際映画祭審査員大賞を受賞後「商業映画」から引退し「アート」の世界にいたようだ。正直なところ「アート」はそれほど素敵な場所ではないから、私としては彼が「映画」に戻って来たことの方が嬉しい。だが「アート」の人間ならば、この映画『あなたの顔』は見た方が良いとも思う。

監督:ツァイ・ミンリャン  出演:リー・カンション
2020年9月5日鑑賞

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