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象は静かに座っている/胡波(フー・ボー)監督

『象は静かに座っている』。昨日からずっと打ちのめされたままでいる。
http://www.bitters.co.jp/elephant/

1988年山東省生まれの胡波(フー・ボー)監督は、4時間に近いこの映画を世に出し、そして自ら命を絶った。享年29歳。作品は昨年のベルリン映画祭で最優秀新人監督賞を受賞したが、本人はその場に立つことは無かった。

中国のある寂れた街で、変わらないそして終わることの無い日常に、誰もが苛立ちを抱えて生きている。画面全体はずっと薄暗く、そして極めて浅い被写体深度で撮られている。確かにそういう映画は他にもあるのだけれど、対面する相手の姿がぼやけて見えない程浅く撮られるのはあまり無いことだ思う。おそらく「切り返し」を使わず「長回し」で撮っていることとも関係があると思う。言葉は交わせど、それが家族にしろ友人にしろ互いの心の距離は離れて交わることは無い、ということだろうか。

「満州里の動物園には座ったままの像がいる」。つまりそれだけのことだ。

ただその奇妙な象の存在について、とある日常のとある1日に、4人それぞれの人間が興味を持ち、徐々に接近していくさまが丹念に描かれている。それがこの映画の4時間だ。

ところで、フー・ボー監督が命を絶ったのは、この「時間」についてのプロデューサーとの対立が原因だったとも言われている。商業的に「長すぎる」のだと。しかし私が見る限り、この映画で余分なカットはひとつも無かったし、2300キロ離れたどうやら満州里らしい場所にバスが到着し、その暗闇の中に「見えた」もの...。
ひとつの物語に必要な時間というのはそれぞれであって、この映画ではそれが234分という時間なのだ。師匠であるタル・ベーラの映画は7時間ある。霞んでぼやけていた画面が、3人(ひとりはその場にたどり着けなかった)の像を同時に抱え込んだとき、そこに映り込んでいた「希望」が私には見えた。

『象は静かに座っている』。この映画こそは本当に皆さんにも見てもらいたい。「満州里の動物園には座ったままの像がいる」という言葉に何かしら心が「ざわめいた」人なら、きっと満州里で会うことができると思う。

監督:フー・ボー  出演:チャン・ユー | ポン・ユーチャン
2019年12月21日鑑賞

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