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死霊魂/王兵監督

好きな映画監督は結構多いのだけど、尊敬する映画監督となると王兵(ワン・ビン)かな。1967年生まれだからほぼ同世代でもある。デビュー作の『鉄西区』(2003年)からして9時間を超えるドキュメンタリーで、中古のデジタルカメラを使いひとりで撮影した映画だが、とにかくその圧倒的な存在感で私たちを魅了するのだ。

その後、劇映画の『無言歌』から『三姉妹~雲南の子』『収容病棟』『苦い銭』とドキュメンタリーを見たけが、どれも現代の中国を、そこに生きる人間を映画に描き切る。画面の外側にいるワン・ビン監督の眼差しが、その一人ひとりの人間を「開いて」いく過程が全て写し込まれる。そんな映画の撮り方をする監督は他にはいないのだ。

今回の『死霊魂』は、『鉄西区』から程なく撮影が開始されている。例えば「文化大革命」は中国映画ではよく取り上げられるのだけど、それに先立つ「反右派闘争」は、粛清とその悲劇の歴史であり、59年から61年にかけ辺境にある再教育収容所に送られた「右派」(とされた)の人々が、折からの大飢饉の影響で機能不全となった施設の中で命を落とした。まさに「虐殺」とも比するその歴史を、その生き残りの人たちの証言から炙り出していく映画だ。キャプションを見ると撮影は2005年〜2006年(一部2007年)、その後2013年にも撮影されている。その時点で40年以上も前の話で、撮影に協力した方の多くは今回の公開を待たずに亡くなってしまった。

公式サイトの「予告編」は実は少しドラマチックになりすぎているきらいがあるが、多くの人は堰を切ったように自らの体験を語り続ける(時に武勇伝を語るようにも見えるが、それは当然だろう)。カメラはほぼ固定され(今回は2カメのようだ)、ワン・ビン監督は彼らの言葉を一言たりとも聞き漏らさないように耳を傾けているのがわかる。証言は少しづつ重なり合い、そしてより大きな像を結ぶ。

今回も8時間を超える大作となっているのだけど(三部に分かれ、途中休憩が2回入る)関東圏での公開はほぼ終わりのためか、地元の100席規模のミニシアターも40人程の観客が集った。圧巻。

監督:ワン・ビン
2020年11月5日鑑賞

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