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不正義の果て/クロード・ランズマン監督

渋谷のイメージフォーラムでクロード・ランズマン監督の最新作『不正義の果て』を見る。
http://mermaidfilms.co.jp/70/introduction.html

ランズマン監督といえば、ホロコーストを関係者の証言で綴る4部で9時間半を超えるドキュメンタリー映画『ショア』で有名だ。前回東中野で公開された時に一度ではとても見られなかった。ドキュメンタリー映画の傑作なのだけれども、何しろとてつもなく「長い」。もちろんこの長さでなくては描けないことだ。

『不正義の果て』は、テレージエンシュタット強制収容所のユダヤ人評議会最後の長老ベンヤミン・ムルメルシュタイン(1905-1989)へのインタビューで、もともとは上の『ショア』のために1975年に撮られたものの、本編には組み込めず長らくそのままになっていたものを再編集し、2013年に公開された。

ユダヤ人評議会は、ナチスがゲットーを管理する機構であり、つまりムルメルシュタインはユダヤ人として、あのアドルフ・アイヒマンと強制収容所について直接の交渉があった人物だ。ちなみに裁判でムルメルシュタインはすべて無罪となっている。

ムルメルシュタインへのインタビューは、知られざるアイヒマン像を次々に白日に曝す。その中で彼はハンナ・アーレントがアイヒマンについて語る「悪の凡庸さ」という解釈を否定し、また非難さえするのだが、その当時の記憶を「とめどもなく」喋り続けるムルメルシュタインの姿こそが、その「凡庸さ」をまとっているようにしかみえない。

映画は現在のランズマン監督によって語られ、その中に1975年当時のインタビューが組み込まれる形となっている。これも3時間半に近い長さ。しかし平日の朝のイメージフォーラムはほぼ満席状態で、戦後70年を経て、このテーマへの人々の関心の高さがうかがわれる。当時のランズマンのインタビュー能力は驚きとしかいいようがない。

監督:クロード・ランズマン
2015年3月4日鑑賞

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