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The NET 網に囚われた男/キム・ギドク監督

キム・ギドク監督の『The NET 網に囚われた男』を見ました。『嘆きのピエタ』でベネチアの金獅子賞(2012年)を取った韓国のキム・ギドク監督の最新作。

網がエンジンに絡まり、主人公のチョルの小さなボートは領海を超えて韓国へ流されてしまう。スパイ容疑で厳しい取り調べを受けるのだが、ただただ妻子のいる北朝鮮の貧しくも穏やかな日々に戻りたいチョルの実直さに、若い警護官ジヌは心を通わていく。国同士の政治的な思惑によってチョルは北朝鮮に送還されるのだけれど、祖国の表向きの歓迎とは裏腹に、結局そこでも韓国と全く同じような過酷な状況が繰り返される様子を、キム・ギドク監督の眼は巧妙に捉えている。

今日も韓国では大きな出来事があったし、北朝鮮では相変わらずの体制が続いている。だが国境を引かれたこのふたつの国にどれほどの違いがあるのか、そしてその分断によって犠牲を強いられる人間について、キム・ギドク監督はスクリーンを通して強く語りかけている。『嘆きのピエタ』の時のような露骨な暴力シーンは、ブラインドの後ろに隠されてはいるが、組織の中で小さな権力を持つ人間の欲望は(それは無自覚であるがゆえにあらゆる場所で相似形だ)、人の心をさらに暴力的に蝕んでいく。若いジヌの善意は彼の手を離れたところでもチョルを救おうとするのだが。

私たちはこの映画を人ごとのようには見られないし、それは歴史的な責任においても、日々迫り来る社会の崩壊という点においても、よくよく考えるべきことなのだと思う。

監督:キム・ギドク  出演:リュ・スンボム | イ・ウォングン | キム・ヨンミン
2017年3月10日鑑賞

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