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ある女優の不在/ジャファル・パナヒ監督

イランのジャファル・パナヒ監督の『ある女優の不在』を見ました。
http://3faces.jp

最近のパナヒ監督の作品は見逃していて、前回見たのは1995年のカンヌのカメラドール(新人賞)の『白い風船』だから、すごく久しぶりです。『白い風船』は、大晦日のテヘランの日常風景(情景)を二人の兄妹を通して描いた素敵な映画。たぶん、同じイランのアッバス・キアロスタミ監督の『桜桃の味』(1997年のパルムドール。カンヌの最高賞です)が日本で公開された時に、その関連として次世代のイラン映画を担うパナヒ監督の『白い風船』が上映されたのではなかったか(うろ覚えですみません...)。このパナヒ監督は、実は反政府活動の咎で20年の映画製作禁止が言い渡されている、そんな人です。キアロスタミの作品を見ればわかるように、イランもかつては豊かな映画文化を誇る国だったのですが。

さてこの『ある女優の不在』。映画にはパナヒ監督本人が出演し、さらにイランの国民的女優ベーナズ・ジャファリも「本人」として出演しています。この二人が、ある少女の「動画メッセージ」の先の「真実」を、彼女の住む田舎の村へ探しに行く、そんな話(フィクション)です。

すでに頭が混乱している方もいるでしょうが、たとえ権力側に「映画を撮るな」と言われていても、そう簡単に引き下がるわけではないのです。今回の映画は、パナヒ監督の生まれ故郷の山奥の村落で秘密裏にロケを敢行し、それがイラン国内では上映されないにせよ、こうして国外の映画界のネットワークを通して日本でも公開されているわけです。

「イスラム社会」とは何か。少女は自由、特に自分を「普通に」表現することの自由を求めているわけですが、社会の強い抑圧に阻まれ、決死の覚悟で(パナヒを介して)女優ジャファリに助けを求めるわけです。そこにもう一世代前の女優で、キャリアを絶たれて村はずれの小さな家に住むシャールザードという女優の存在が関わってきます。つまり三世代の「女性」の姿を客観的に見据える(男性である)パナヒ監督自身の「物語」であり、また同時に現実のイランという国の人々の姿と、そしてその「希望」について描いた映画であるといえます。

それにしても、そこにあるのは絵に描いたような男尊女卑社会であり父権社会の共同体、村社会の現実なのですが、それを私たち日本人は笑えるかというと...。ほら日本の医大入試で男子学生に下駄を履かせたりしてますよね。少女は自分の自由を実現するために芸術大学に合格したのです。思うにテヘランの芸術大学って日本のそれよりリベラルなのでは。

『パラサイト』って、それはそれでとても面白かったのですが、この『ある女優の不在』は、映画の「奥深さ」について、それから私たち自身の「考えること」についての学びがあります。強いおすすめの1本。フロントガラスの「ひび」くらい何でもないのだ。

監督:ジャファル・パナヒ  出演:ベーナズ・ジャファリ | ジャファル・パナヒ
2020年2月26日鑑賞

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