散歩する侵略者/黒沢清監督
黒沢清監督の『散歩する侵略者』見ました。
何の変哲も無い郊外の住宅地から物語が始まるのがいかにも黒沢監督らしいところ。いきなり一家惨殺事件ですがホラー映画には進まず、移動距離の限りなく短いロードムービーであり、強いて言えばSF調のファンタジー映画かと(何のことやら)。
地球侵略を企てる宇宙人が三人の調査員を送り込みます。侵略者3人はそれぞれ人間の身体に乗り移り、人間の思考について調査を始めます。若者二人の侵略者のガイド役を偶然引き受けることになった雑誌記者の桜井(長谷川博己)。それからある日突然侵略者に乗り移られ別人となってしまった夫、真治(松田龍平)を愛し続ける妻、鳴海(長澤まさみ)。この二人の地球人と侵略者の三人の行為する日常がパラレルに動きながら、世界は(といってもかなり小さなものなのですが)日常から非日常へと傾斜しながら大きな結末へと向かう、そんな映画です。
興味深いのは、侵略者が人間について知るために行う、出会う人の言葉から「概念」を奪うという手法です。「それ、いただき」と。例えば、「家族」とか「自分」とか「仕事」という概念。概念を奪われてしまうと、概念に縛られている人間はまるで「腑抜け」になってしまうのですが、概念から解放された人の方は、それはそれで安堵感もあったりするわけです。一方政府は、一連の出来事を感染性のウイルスによるテロ行為と認識し、自衛隊を出動させ小さな郊外の住宅地はパニックに。
デビューの頃の黒沢監督のインタビューで「アートにはなりたくない」という発言があって、アート側の人間である自分はちょっと切ない気持ちになったものだけど、今はよくわかる。一級のエンターテイメントとしての映画。機会があれば是非どうぞ。
監督:黒沢清 出演:長澤まさみ | 松田龍平 | 高杉真宙
2017年10月30日鑑賞
ありがとうございます。サポート頂いたお金は今後の活動に役立てようと思います。