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WANDA/バーバラ・ローデン監督

バーバラ・ローデン監督の「WANDA/ワンダ」(1970年)を見る。バーバラ・ローデン(1932〜1980)唯一の監督作で、主人公のワンダも彼女自身が演じている。ヴェネチアやカンヌでは評価があったものの自国アメリカでは黙殺される。当時のアメリカでは女性監督作品が劇場公開されることすら稀有であった。

窓のすぐ外の採掘場で重機が唸りをあげる。ペンシルベニアのとある炭鉱の町。ひとり砂山の間を彷徨うワンダの姿をロングショットのカメラが捉える。アメリカの貧困の原風景とさえ見える。家庭生活は崩壊し縫製の仕事も解雇された。理不尽さには口をつぐみバーでビールを買ってくれる男を待つ。

追い討ちをかけるように映画館で眠りこける間に有り金全てを奪われてしまう。トイレを借りるため入ったバーで、その店に強盗に押し入っていたノーマン・デニス(マイケル・ヒギンズ)と遭遇してしまう。カウンターの内側のデニスは外の様子を伺いピリピリとする。

映画はロードムービーであり、ワンダとMr.デニス(ワンダは男のことをそう呼ぶ)それぞれの逃避行であり、移動する二人のやり取りから彼らの人となりを少しずつ描出していく。デニスは傲慢で「愚かな女」であるワンダを見下し始終高圧的な態度を取る。「自分には何もない」とワンダは言う。「求めなければ何も得られない」「何も無いならそれは死んでいるも同然だ」「アメリカ合衆国の市民ですらない」とデニスは諭す。「自分は死んでいるのだと思う」「どちらも大差は無いけれど、一般的に生きている方が望ましいと考えられているだけなのよ」とワンダは静かに微笑む。ワンダの諦めと孤独のありようが露呈する場面だが、彼女を見捨てない唯一の男として、デニスの言葉は彼女の心に響いていく。

買ったばかりのミニの白いワンピースを纏い、ハイヒールを履き、花飾りのついた帽子を被ったワンダに、デニスは別れた彼女の夫と子どもたちのことについて尋ねる。彼女はピンクのマニキュアを塗りながら「I’m just no good, no good!」と答えるのであった。

もっともデニスのが抱える孤独と苛立ちも、彼と父親との関係の表裏でもあろう。車椅子の父親は言う。「汚れた金は受け取らない」「ちゃんとした仕事につけ」 だがその父親の言葉は、彼の引き返せない「運命」を決定付けることとなる。「You can do it. You can do it !」 ワンダの肩を掴み揺さぶり諭すデニスの言葉は、そのまま彼自身へ投げかける最後の言葉でもあろうか。

監督:バーバラ・ローデン  
出演:バーバラ・ローデン | マイケル・ヒギンズ | ドロシー・シュペネ


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