「文舵」 練習問題 (その3)

ル=グイン著「文体の舵を取れ」の練習問題に対するワークです
〈第2章 練習問題②「ジョゼ・サラマーゴのつもりで」〉

句読点のない語りを執筆する

A これは、蓮實重彦先生の『陥没地帯』ですよね。あの小説大好きなのでこのワークは楽しかったです。


 (本文)

【928w】

 近ごろ霞んできた左目の中央にそもそも網膜上の異常があると診断されて飯田橋のデカい病院の眼科にはこの手の手術をさせたら恐らく日本で一番の腕をしているという何せ人工レンズを埋め込む白内障の手術をたったの15分で完璧に仕上げるというのだからそんじょそこらの医師に比べたら雲泥どころか赤色超巨星のおおいぬ座VY星と寿町公園の砂場の砂くらいの差があるという噂の名医がおるというのでさっそくかかりつけのクソいいかげんな糖尿病主治医の中村ちゃんに紹介状を書いてもらってお礼を言ったあとに気づいたのだが紹介状だって仕事だからというかそれお金支払ってるわけだから別に感謝する筋合いのものでもないなぁとか思いながら気づいたのはそもそも中村ちゃんは飯田橋の大病院の先生を知ってて紹介してくれるというわけじゃなくて俺が病院名も先生の名前も言った上で書いてもらってるわけだから紹介状といっても相手をまったく知らない人がその知らない人を紹介するという意味不明なことになっているわけだがそれが医療界隈の当たり前ならばそこのところを云々するのも大人としてどうなのかという感じでお茶を濁しながらよく晴れた秋の日の午後を選んで気持ち良いそよ風を背負いながら秋葉原で中央線各停の黄色い電車に乗り換え飯田橋駅で降車したんだけどそれがあなた飯田橋駅ってば俺が昔知っていた古臭くてボロくてホームがぐにゃりと曲がっているうえにホームと電車の間の隙間が半端ないという危険極まりない駅からあらまぁよくもここまでというほどに改築されていてしかもその改築も終わった様子ではなく永遠に増殖し続ける「横浜駅SF」のような感じで日々進化して四谷新宿中野吉祥寺八王子あたりまで拡張されてしまうのではないかという印象を受けるのだがそんなのはもとより俺の印象というか「単なるあなたの主観ですよね」みたいな一言で「ロンパ」されてしまうような軽薄でひ弱で心細い思いに過ぎないわけだからくだらない妄想が広がって収拾がつかなくなってしまうより病院に急いだほうが残りの人生のことを考えると有意義な気もするのでエスカレーターを降りApple WatchのSuicaで改札を抜け歩き出しながらふと考えたわけだがやっぱり殺されたのはむしろナイフの側だったんじゃないの?

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