#79 コロナ関連の最新の情報(大阪大学・宮坂昌之招へい教授の解説記事)
最近、コロナのワクチンや特効薬(抗ウイルス薬・アビガンも含む)に関する明るいニュースが少しずつ出てきていますが、万人にすぐに行き渡るわけでもなく、また、有効性についてもこれからしっかりと検証していく必要があることから、そもそも感染しないこと、あるいは感染しても重症化しないことが重要であることはこれからも変わらないと思います。
もうこれ以上やれることはないよ、という方もいらっしゃると思いますが、いま一度、免疫の基礎から最新の情報までをおさらいしておくことをお勧めします。
さて、今回の記事では、NHKで山中先生とも共演されていた大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之先生が監修した一連の記事についてシェアしたいと思います。
できればそれぞれの記事を読んでいただきたいですが、重要なポイントについて抜粋しましたので、ぜひご参考になさってください。
第1回 新型コロナから身を守る「免疫力」、その驚くべき仕組み
ウイルスや細菌などの病原体が体に入ってきたとき、防御壁を1つ通り抜けたとしても、その次にも手ごわい2つ目の壁があるため、そう簡単に感染することはない。免疫は「2段構え」という、重層的な仕組みを持っているのだ。
1つ目の壁は「自然免疫」と呼ばれ、健康な人には生まれつき備わっているものだという。病原体が体に入ろうとすると、自然免疫は早くて数分、遅くとも数時間のうちに対応し始める。最初の関門だけあって、素早く立ち上がるのが特徴だ。
病原体が体に侵入しようとして最初に出会うのは、皮膚や粘膜などによって病原体を寄せつけないようにする、物理的バリアだ。そこには病原体を殺す成分が存在するため、化学的バリアとしても機能している。
病原体が物理的・化学的バリアを通り抜けると、次に待ち構えるのは、病原体を食べて殺してしまう細胞、「食細胞」だ。これは細胞性バリアと呼ばれる。
「食細胞は白血球の1つで、自然免疫を担う代表格といえる細胞です。城の中に病原体が入り込まないように見張る、番兵にあたります」(宮坂さん)
「新型コロナウイルスの場合も同様で、食細胞の働きが強ければ、感染をここでせき止めることができます。食細胞を主体とする自然免疫だけで、およそ1割の人は新型コロナウイルスを撃退できていると思われます」(宮坂さん)
その自然免疫では防ぎ切れない場合、病原体はいよいよ本丸めがけて城の中へと入り込んでいく。そこで待ち受けるのが2つ目の壁、「獲得免疫」だ。
自然免疫を通り抜けた病原体が最初に出会うのが「ヘルパーTリンパ球」だ。ヘルパーTリンパ球は、獲得免疫における司令官にあたる。そこからBリンパ球に向けて「抗体を作ってください」という指令が出されると、Bリンパ球は抗体を作ってウイルスを殺すよう働く。
ただし、獲得免疫では抗体のほかにも、病原体をやっつけようと働くものがある。それがヘルパーTリンパ球の兄弟分「キラーTリンパ球」だ。
(略)
ヘルパーTリンパ球からの指令を受けたキラーTリンパ球は、ウイルスに感染した細胞を見つけ出し、ウイルスを細胞ごと殺すよう働く。
つまり、細胞の外にいるウイルスは抗体が、感染細胞内のウイルスはキラーTリンパ球が殺すというチームプレーが成り立っているということだ。
「冒頭で、『抗体は免疫のほんの一部に過ぎない』とお話ししたのはそういうことです。抗体がなくても、自然免疫が強かったり、キラーTリンパ球が強かったりすれば、たとえ感染しても回復することができます」(宮坂さん)
「免疫といえば抗体。抗体があるかどうかが明暗を決める」とは限らず、自然免疫と獲得免疫、リンパ球や抗体など、あらゆる仕組みがバランスよく機能することが大切だ。そのためには「血管系とリンパの流れを良くすること」が欠かせない。今回説明した通り、免疫に関わるリンパ球は、血管とリンパ管を介して、病原体がいないかと全身をパトロールしている。つまり、リンパ球が全身を循環しやすくすることが免疫の力をうまく活用するには不可欠なのだ。
第2回 「新型コロナは抗体さえあれば大丈夫」ではない理由
「抗体」と聞くと、何か1つのものを想像するかもしれないが、実は1つだけとは限らない。「抗体は3種類あります」と宮坂さんは話す。
「ウイルスを攻撃し、殺してくれる抗体しか存在しないと思われがちですが、そうではありません。抗体の中には、別の働きをするものもあります」(宮坂さん)
それが、善玉抗体・役なし抗体・悪玉抗体の3つだ。
新型コロナウイルスに関していえば、感染によって作られる抗体が善玉抗体かどうかを調べなければ意味がありません。しかし現時点では、高度な設備を持つ研究施設でなければ、善玉抗体の量を測るのは困難です。そのため、通常の抗体検査では善玉、悪玉など関係なく抗体全体の量を見ているようですが、それでは感染を防ぐ力があるかどうかは分かりません」(宮坂さん)
近い将来ワクチンができたとしても、実際に新型コロナウイルスの感染をどの程度防げるか、現時点では不明なのだ。そうであれば、適切なワクチンが完成するのをただ待つしかないのだろうか?
宮坂さんは、抗体のある・なしに頼るだけでなく、「免疫をバランスよく働かせることも有効です」と話す。
免疫は加齢と大きく関係していて、免疫力は50代に入ると半分になるという。さまざまな病原体と戦ってきたベテランの免疫細胞も、寄る年波には逆らえず老兵化してしまうのだ。「新型コロナウイルス感染者のうち、重症化した人の90%以上が60歳以上というのも納得できるわけです」と宮坂さんは話す。
それでは、免疫をうまく活用するためにできることはないのか。手洗い、マスク、消毒などの対策は新しい生活様式として定着してきたが、それ以外にできることは何だろうか?
宮坂さんによると、大切なのは、免疫をバランスよくコントロールする、「調節力」であるという。
「免疫が悪い方向に暴走しないよう、うまく調節された状態を維持できればいいわけです。バランスの取れた免疫の仕組みを、良い状態に保つことが大事です」(宮坂さん)
そのポイントとは、血流を良くする、体温を上げる、ストレスを避けるなど、日常のちょっとした心がけを変えるだけだという。
第3回 免疫をうまく働かせ、病原体を撃退しやすくする方法
感染症にかかりにくくするためには何が必要か。大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之さんによると、科学的エビデンスのある免疫増強法としてお勧めできるのは、肺炎球菌による肺炎や、インフルエンザなど、ワクチンがある感染症についてはワクチンを接種することだという。
しかし、ワクチンを接種すると副反応が起こることもあると聞く。インフルエンザの場合、免疫が続くのはわずか4カ月程度で、しかも感染を避けられないことも多い。免疫学の第一人者がワクチンを勧める理由とは何だろうか。
「確かに、インフルエンザのワクチンを接種すると、まれに重篤な副反応が起こることがあります。しかし、そのリスクは、ワクチンを接種しなかった人が感染して重大な合併症を起こすのに比べたら許容できる範囲です。それに、万一感染しても軽症で済むなら、特に高齢者や持病がある人などハイリスクの人にとっては接種する意義が大きいと思います」(宮坂さん)
ワクチンを接種する機会の多い子どもは、自然免疫と獲得免疫がそのたびに刺激され、訓練されている。子どもが新型コロナに感染しにくく重症化しにくいのは、そのことが一因ではないかと宮坂さんは話す(第2回参照)。しかし、年をとってワクチン接種の機会が減ると、免疫が訓練される機会も減ってしまう。「高齢者も、毎年秋にインフルエンザ、そして肺炎球菌のワクチンを所定の時期にきちんと受けておけば、その病気の発症や重症化を防ぐだけでなく、免疫を訓練するという恩恵があるかもしれません」(宮坂さん)
だが、新型コロナに関しては、ワクチンも治療薬もまだ存在しない。そんなウイルスに対し、体の防衛能力を高めるためにできることとして、宮坂さんは「血管系やリンパ系の流れを良くすることが大切です」と話す。
「リンパ球は免疫に関わる細胞で、白血球の1つです。リンパ球は、血管とリンパ管を介して、病原体が侵入するリンパ組織(リンパ節や扁桃など)に出たり入ったりを繰り返し、全身をパトロールしています。ということは、リンパ球が病原体と出会う確率が高くなれば、病原体を撃退しやすくなります。そこで、リンパ球が全身を循環しやすいよう、血液やリンパの流れを良くすればいいわけです」(宮坂さん)
血液やリンパの流れを良くするには、「過度のストレスを避ける」「適度な運動をする」「体温を少し上げる」の3つが主なポイントだという。
過度のストレスは、免疫細胞を減らすホルモンを作ってしまう
過度のストレスを避ける
「ストレスがたまると『コルチゾール』という副腎皮質ホルモンがたくさん作られます。コルチゾールは免疫系に関わるすべての細胞の数を減らしてしまうホルモンで、コルチゾールが増えるとストレス症状が引き起こされることが明らかになっています。ストレスがあると、口唇ヘルペスができたり、風邪をひきやすくなったりするのは、皆さんも経験があるのではないでしょうか」(宮坂さん)
適度な運動は免疫に対してプラスに働くが、やり過ぎは禁物
適度な運動をする
「運動すると、筋肉や骨から免疫を調節する物質が作られます。それがサイトカインという、免疫系をうまく働かせる潤滑油のような役割を持つホルモンです。サイトカインが増え過ぎると、免疫が暴走して体に悪影響を及ぼす現象(サイトカインストームと呼ばれる)が起こりますが、適量であれば自然免疫と獲得免疫の両方がうまく働いてくれます。運動によって筋肉や骨を動かすと、サイトカインが適量作られ、免疫の仕組みが潤滑に機能するのです」(宮坂さん)
せっかくの運動もやり過ぎるとストレスとなる
「激しい運動を長時間続けるのは、身体的にも心理的にも大きなストレスとなります。運動をやり過ぎた人と、適度に運動した人、運動しなかった人では、適度に運動する人が圧倒的に呼吸器感染症にかかりにくいとされています。反対に、呼吸器感染症に最もかかりやすいのが、運動をやり過ぎた人だと言われています」(宮坂さん)
体温を少し上げると、リンパ球の機能が高まる
宮坂さんによると、体温を上げることにも、血液やリンパの流れを良くする効果があるという。
発熱はリンパ球の働きを高めるための防御反応の1つであり、体温が少し上がると免疫の力は全体的に高まると考えられています。体温を少し上げるためには、適度な運動に加えて、入浴もお勧めです」(宮坂さん)
入浴時に注意しておきたいのは、運動のやり過ぎが良くないのと同様に、体温も上げ過ぎは禁物であること。入浴時の温度は熱過ぎず、ストレスにならない程度にとどめることが肝要だ。
規則正しい生活で「体内時計」を整える
「免疫機能は昼間は高く、夜は下がるとされていて、その仕組みを司るのが体内時計です。体内時計をきちんと動かすには、朝早く起きて朝日を浴び、体内時計をリセットするのが一番です。朝日を浴びながら散歩やラジオ体操を楽しむ、帰ってきたらストレッチでクールダウンして、食事をとる。食事に関しては、特定の食品やサプリメントに頼るより、バランスの良い食事で必要な栄養分を補給し、食べ過ぎない、飲み過ぎない。そして夜更かしはしない。どれも当たり前のことですが、体内時計をうまく働かせる上で大切なことです」(宮坂さん)
ストレスをできるだけ避け、適度に運動し、規則正しい生活を送る…今回紹介した生活のポイントはすべて当たり前といえば当たり前のことばかりだ。だが、なぜそうする必要があるのか、背景を知れば知るほど説得力が増したのではないだろうか? 新型コロナのようにワクチンも治療薬もないウイルスと共生することが求められる今こそ、こうした “当たり前”の生活を大切にして、体を守る免疫の働きを維持していこう。
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それではまた!
<了>
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