見出し画像

【書籍】トヨタの心髄ー林南八氏の手法と人生哲学

『一生学べる仕事力大全』(致知出版社、2023年)のp478「かくてトヨタ生産方式を伝承してきた(林南八 トヨタ自動車元技監)」を取り上げたいと思います。

 この林氏の物語は、トヨタ自動車における長年の勤務、トヨタ生産方式(TPS)の精神の継承者としての役割、そして数多くの後進の指導に費やされた一生を紹介しています。林氏は、戦時中の困難な時期に生まれ、トヨタでの厳しい現場経験を経て、多くの指導者から学び、自身も優れたリーダーとして後進を育て上げました。

 林氏の話は、仕事に対する姿勢、問題解決の方法、部下を育てる上での心構えなど、多岐にわたります。林氏は、実際に現場で汗を流し、手を動かして学ぶことの重要性、問題に直面した時にはその原因を深く掘り下げること、そして上司としては、部下に考える力を育てるために自分も一緒に考え、手本を示すことの大切さを強調しました。さらに、トヨタ生産方式の精神を現代にも引き継ぎ、持続可能なものづくりの文化を守り続けることの重要性についても語っています。

 林氏の物語は、自動車製造業界の中での成功譚に留まらず、一人の人間がどのようにして困難を乗り越え、自らの道を切り拓き、その過程で周囲にポジティブな影響を与えていくかを示しています。彼の人生哲学は、仕事だけでなく人生におけるあらゆる挑戦に対する貴重な示唆を与えてくれます。

 具体的には「現場で汗を流し、一緒に働くことで信頼を築き、コミュニケーションを取りながら問題を解決する」というトヨタ生産方式の根底にある考え方を実践しました。彼は、これがただの業務ではなく、自身の成長と現場の改善につながる訓練であると捉えていました。また、林氏は問題解決において「なぜ?」を5回繰り返し、真の原因を探求することの重要性を説き、これが深い洞察と実践的な解決策を導く基礎であると語っています。

 後進の育成において重視したのは、部下自身が問題に向き合い、自ら考え解決策を見出す力を育てることでした。林氏は、上司が結果を急ぐあまり部下に手取り足取り指導することの弊害を指摘し、部下に「自分で考える」ことの大切さを伝えました。このアプローチは、単に知識を提供するのではなく、部下の意識を高め、自立した思考能力を育てることを目指しています。

 「どうしたらいいんですか」って聞かれた時に、分かってても手段や方法を答えないで、「自分で考えろ」と。これはある程度の訓練を積めばできるようになる。
 ところが、課題を与えた瞬間から自分も考える。これは難しい。謙虚さがなきゃできません。

ー謙虚さに加えて、部下の可能性を心から信じる力がないとできないのでしょうね。

 そうそう。どんな人間でも皆考える力はある。考えさせてないだけなんです。
 だから、よく「最近の若い者は指示待ち族ばかりでいかん」「考えるやつがいない」って愚痴をこぼしてる上司がいますけど、それは部下に考えさせないで、すぐ答えを教えている自分の責任だと自覚しなきゃダメだと思います。

『一生学べる仕事力大全』(致知出版社、2023年)p487より引用

 林氏自身のキャリアは、トヨタの技術職の最高ポストである技監を務め上げ、その後も顧問やアドバイザーとして活躍しています。退任後も、トヨタに対する深い愛情と、ものづくりに対する情熱は変わらず、日本の製造業の未来に対する期待と懸念を持ち続けています。林氏は、「鍛える」という文化が失われつつある現代においても、厳しい指導と愛情ある育成を通じて、人財を育て上げることの重要性を説いています。

 林氏の物語は、彼の個人的な成功だけでなく、トヨタという企業が世界的な成功を収めるに至った背景にある人材育成の哲学と実践を示しています。彼の経験から得られる教訓は、リーダーシップ、問題解決、人材育成に関わるすべての人々にとって、貴重な洞察とインスピレーションを提供します。

人事としてどう考えるか

 ここからは、人事の視点で考えてみたいと思います。林氏の半世紀に及ぶキャリアは、トヨタ自動車と共に歩み、日本のものづくりの精神を体現する物語そのものです。彼の経歴からは、技術者としての成長過程、トヨタ生産方式(TPS)への深い洞察、そして後進への知識と技術の継承が見て取れます。特に、大野耐一氏や鈴村喜久男氏といった巨匠たちから受けた指導は、林氏のキャリアにおいて重要な役割を果たしました。

 林氏の人生は、技術的知識を超えた深い教訓を提供します。彼が経験した現場での苦労、失敗、そして成功は、問題解決能力、観察力、自己規律を養う基盤となりました。これらは、トヨタの技監としての彼の長年の役割において不可欠な資質であり、TPSの哲学を体現しています。

 林氏は、TPSをものづくりの現場における単なる生産手法以上のものとして捉え、現代に適用し続けてきました。TPSは、問題を特定し、解決策を見つけるための思考プロセスとして機能します。このプロセスは、絶えず改善を目指すカイゼンの精神と密接に関連しています。林氏の経験からは、実践的な知識と理論が融合し、実効性のある生産システムへと昇華されたことが分かります。

 林氏のリーダーシップに関する考え方は、彼のキャリアを通じての学びからも派生しています。彼は、部下を指導するだけでなく、彼らに自ら考えさせ、また自身も問題解決に積極的に参加することの重要性を説いています。このアプローチは、組織内で自立した思考を促進し、より強固なチームワークを構築する上で極めて効果的です。彼の指導法は、指示待ちの姿勢を超え、自ら積極的に行動する人材を育成することに重点を置いています。

 また、林氏の人生観は、彼の幼少期の経験に深く根ざしています。厳格な父親と温かい母親のもとで育った彼は、強さと優しさのバランスを理解し、それを自身のリーダーシップスタイルに取り入れてきました。このバランスは、彼が直面した多くの挑戦を乗り越える上で、大きな力となりました。

 林氏の物語は、変化と挑戦に満ちた時代であっても、基本に忠実であり続けることの重要性を教えてくれます。ものづくりの現場だけでなく、あらゆる分野において、彼の経験から学べる教訓は豊富です。林氏のキャリアは、技術的なスキルだけでなく、人間としての成長、リーダーシップ、そして組織内での協働の精神を伝えています

 彼がトヨタ生産方式に貢献した方法、特に現場での直接的な観察と実践を通じて問題を解決するアプローチは、現代のビジネスリーダーにとっても重要な教訓を提供します。林氏は、単に問題を解決する方法を教えるのではなく、問題解決のための思考プロセスを育てることの重要性を強調しています。これは、迅速に変化する市場環境において、組織が持続的な競争優位を確保する上で不可欠な能力です。

 林氏の人生とキャリアから学ぶべき点は多岐にわたりますが、特に強調されるべきは、彼の不断の学びと成長への姿勢です。彼は、自身の経験をもとに、後進の育成と指導に情熱を注ぎ、トヨタだけでなく、日本のものづくり文化全体に貢献しました。林氏の遺産は、彼が築き上げた知識、スキル、そしてものづくりへの深い理解によって、後世に長く受け継がれるでしょう。彼の物語は、変わりゆく世界においても根本的な価値と原則を大切にすることの重要性を、我々に思い起こさせてくれます。


自動車産業における尊敬されるリーダーの人生物語を幅広く描いたものです。トヨタ自動車とトヨタ生産方式(TPS)に人生を捧げた人物の物語に触発されています。戦時中の困難な時期に生まれ、トヨタでの厳しい現場経験を経て、多くの後進の指導者として精神を体現しました。このイラストは、彼のキャリアからの重要な瞬間を反映しており、工場の床でチームメンバーと密接に協力し、問題解決プロセスを深掘りし、若い同僚を指導する様子を示しています。この人物は、実践的な学習、深い問題分析の重要性を強調し、持続可能な製造と継続的な改善の文化を育成することで、手本を示しています。シーンは、自動車工場の環境のさまざまな文脈の中で設定され、協力、革新、およびリーダーシップの瞬間が展示されています。イラストスタイルは柔らかく、アプローチしやすく、個人と専門の両方のレベルでリーダーの哲学の影響と、献身、成長の本質を捉えています。背景は、TPSと職人の精神の要素を微妙に統合し、才能を育成し、業界およびそれを超えて重要な貢献をしたリーダーの遺産の重要性を強調しています。


 792頁にのぼる大作です。まさに仕事のバイブルとなります。名経営者のインタビューや伝説の名講演、一度きりの師弟対談、創業者同士の対談などが、54話を収録されています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?