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見えない損失を防ぐためにーアブセンティーイズムとプレゼンティーイズムへの対策

 企業が直面する損失には、従業員の不在による「アブセンティーイズム」と、出勤しているにも関わらず生産性が低下する「プレゼンティーイズム」という、2つの異なる側面が存在します。これらは、氷山のように水面下で企業の業績を蝕む可能性を秘めており、その影響は多岐にわたります。

アブセンティーイズム

 アブセンティーイズムは、従業員が物理的に職場から離れることによって発生する損失です。病気や怪我といった身体的な問題だけでなく、メンタルヘルスの不調や育児・介護といった個人的な事情、さらには災害や感染症の流行など、様々な要因がアブセンティーイズムを引き起こします。例えば、インフルエンザの流行により、コールセンターのオペレーターが多数欠勤した場合、顧客対応が滞り、顧客満足度の低下や解約に繋がりかねません。また、近年では、新型感染症の蔓延により、感染拡大防止のための休業やテレワーク導入など、新たなアブセンティーイズムの形態も出現し、企業は対応に追われています。

プレゼンティーイズム

 一方、プレゼンティーイズムは、従業員が心身の不調を抱えながらも出勤し、業務を続けることによって生じる損失です。慢性的な疲労やストレス、睡眠不足、人間関係の悩み、さらには経済的な不安など、様々な要因がプレゼンティーイズムを引き起こします。例えば、過重労働により疲弊したシステムエンジニアは、集中力や注意力が散漫になり、バグの発見や修正が遅れ、プロジェクト全体の遅延に繋がる可能性があります。また、精神的なストレスを抱えた営業担当者は、顧客とのコミュニケーションが円滑に進まず、成約率の低下やクレームの増加を招く恐れもあります。

プレゼンティーイズムの損失は大きい

 プレゼンティーイズムは、アブセンティーイズムのように目に見えにくい損失であるため、その深刻さが認識されにくいという特徴があります。しかし、その影響は決して小さくありません。ある調査によると、プレゼンティーイズムによる生産性の損失は、アブセンティーイズムよりもはるかに大きいともいわれています。これは、従業員が無理をして出勤することで、かえって企業に大きな損害を与えていることを意味します。

働く世代が抱える見過ごされている健康課題への対応の必要性(2021年6月 株式会社日本総合研究所)p4より引用

 プレゼンティーイズムは、個々の従業員のパフォーマンス低下だけでなく、組織全体の生産性や創造性、そして企業文化にも悪影響を及ぼします。例えば、プレゼンティーイズムが蔓延する職場では、従業員のモチベーションが低下し、離職率が高まる傾向があります。優秀な人材が流出し、採用コストや教育コストが増加するだけでなく、企業の競争力低下にも繋がります。また、新しいアイデアが生まれにくくなり、イノベーションの阻害要因となる可能性も考えられます。

従業員の健康と生産性を向上させるための対策を講じることが重要

 企業は、アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムの両面から、従業員の健康と生産性を向上させるための対策を講じることが重要です。例えば、定期的な健康診断やストレスチェックの実施、メンタルヘルスケアへのアクセス向上、柔軟な働き方の導入、職場環境の改善などが挙げられます。また、従業員が安心して休暇を取得できるような雰囲気づくりや、悩みやストレスを相談できる窓口の設置も有効です。さらに、管理職向けの研修を実施し、プレゼンティーイズムの兆候を早期に発見し、適切な対応を取れるようにすることも重要です。

従業員自身の意識も必要

 従業員自身も、自身の健康状態に気を配り、無理をせず休養を取ることや、ストレスを軽減するためのセルフケアを実践することが求められます。企業と従業員が協力して、アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムの両方に取り組むことで、より健康的で活力に満ちた職場環境を実現し、企業の持続的な成長を促すことができるでしょう。

人事の視点から考えること

 人事として、アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムは、従業員の ウェルビーイング と企業の持続的な成長を脅かす深刻な課題として捉えなければなりません。これらの問題は、氷山の一角のように見えにくい部分で企業に多大な損失を与え、組織全体の士気や生産性、ひいては企業の競争力にも悪影響を及ぼします。

 アブセンティーイズムは、従業員の欠勤や休職によって生じる損失であり、その要因は多岐にわたります。例えば、病気や怪我といった身体的な問題だけでなく、メンタルヘルスの不調、育児や介護といった家庭の事情、さらには災害や感染症の流行など、様々な要因が考えられます。近年では、新型コロナウイルスのパンデミックにより、感染拡大防止のための休業や自宅待機が増加し、企業活動に大きな影響を与えました。

 一方、プレゼンティーイズムは、従業員が心身の不調を抱えながらも出勤し、業務を続けることによって生じる損失です。慢性的な疲労やストレス、睡眠不足、人間関係の悩み、経済的な不安など、様々な要因がプレゼンティーイズムを引き起こします。例えば、過重労働により疲弊した従業員は、集中力や判断力が低下し、ミスや事故のリスクが高まります。また、精神的なストレスを抱えた従業員は、コミュニケーションが円滑に進まず、チームワークの低下や顧客満足度の低下を招く可能性があります。

 プレゼンティーイズムは、アブセンティーイズムのように目に見えにくい損失であるため、その深刻さが軽視されがちです。しかし、その影響は決して小さくありません。ある調査によると、プレゼンティーイズムによる経済的損失は、アブセンティーイズムよりもはるかに大きいです。これは、従業員が無理をして出勤することで、かえって企業に大きな損害を与えていることを示しています。

 人事として、これらの問題に対して、包括的な対策を講じることが求められます。アブセンティーイズム対策としては、年次有給休暇の取得促進、健康経営の推進、柔軟な働き方の導入、ハラスメント対策などが挙げられます。例えば、企業によっては、年次有給休暇の取得率向上を目指し、「アニバーサリー休暇」や「リフレッシュ休暇」といった独自の休暇制度を導入しているケースもあります。

 プレゼンティーイズム対策としては、休職制度の周知徹底、相談窓口の設置、人事評価制度の見直し、管理職研修の実施などが挙げられます。特に、管理職研修では、プレゼンティーイズムの兆候を早期に発見し、適切な対応ができるようにするための知識やスキルを習得することが重要です。

 共通の対策としては、組織文化の醸成、コミュニケーションの活性化、データ分析などが挙げられます。例えば、従業員同士の交流を深めるための社内イベントや部活動の開催、1on1ミーティングの実施などを通じて、従業員が安心して悩みや相談事を打ち明けられるような環境づくりが重要です。

これらの対策を総合的に実施することで、従業員のエンゲージメントを高め、企業の生産性向上と持続的な成長に貢献することができます。人事としても、これらの問題に対する理解を深め、適切な知識とスキルを身につけることで、より効果的な対策を立案・実行できるようになるでしょう。

企業が直面する「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーイズム」の2つの側面をリアルに表現しています。左側では、空席のオフィスデスクと椅子、病気や育児用品、リモートワークのサインが見え、アブセンティーイズムの理由を示しています。右側では、出勤しているものの疲れ切ったりストレスを感じている従業員が描かれており、プレゼンティーイズムの影響を表現しています。背景には「企業に隠れたコスト」を象徴する氷山が描かれ、パフォーマンスと生産性に対する隠れた影響を示しています。

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