見出し画像

「事業を創る人」育成のための組織戦略は?ー田中聡氏

 会社を変える社内起業家育成 4ー「事業を創る人」の大研究(田中聡氏(立教大学経営学部 准教授))を拝聴しました。

 多くの企業において、新規事業の創出は重要ではありますが、では、どのような人材が必要であり、その人材をいかに育成し、組織全体で支援するかという議論は多くはないように思います。新規事業は企業の成長と持続可能性において重要な役割を果たしますが、それを成功させるためには適切な人材の育成と支援体制が不可欠になります。

事業を創る人の特徴

 新規事業を創出する人には、特定の資質や能力が求められます。経営層が新規事業担当者に期待する能力として、「推進力」「構想力」「挑戦心」が挙げられます。これらは、ビジョンを持ち、困難に立ち向かい、果敢に挑戦する姿勢を示す能力です。
 しかし、実際に新規事業を成功させた人々が重視するのは、「観察力」と「他者活用力」とのことです。観察力とは、組織の状況や市場の動向を的確に把握する力であり、他者活用力とは、周囲の人々やリソースを上手に活用し、事業を前進させる力です。これらの能力は、組織内で孤立しがちな新規事業担当者にとって重要です。新規事業を担当する人々は、社内での孤立感や既存事業部門との対立など、多くの課題に直面します。そのため、観察力や他者活用力を駆使して、周囲のサポートを得ることが不可欠です。

新規事業への挑戦

 新規事業担当者は、しばしば社内で孤立し、既存事業の論理や抵抗勢力と対峙する必要があります。新規事業は、未来の収益源として期待されますが、既存事業の安定した収益に比べて、成功の確度が低いことから、社内で批判されることが多いです。新規事業が成功するためには、既存事業の論理を理解し、既存事業部門の協力を得ることが重要です。これにより、社内での支持を得やすくなり、事業を前進させるためのリソースやサポートを確保することができます。

 社内での新規事業担当者は、社内の既存事業部門との調整や対立に直面することが多く、そのための戦略的なコミュニケーションが求められます。また、新規事業の担当者は、社内での孤立感を感じやすく、心理的な支援も重要です。

支える人と育てる組織

 新規事業を成功させるには、担当者を支える上司やアクセラレーター、そして組織全体の支援が不可欠です。特に経営層の直接の関与は非常に効果的であり、新規事業の成功率を高める要因となります。組織としては、新規事業担当者が孤立しないように、支援体制を整えることが重要です。

 例えば、評価の仕組みを見直し、新規事業に対する努力を正当に評価することや、失敗を学習の機会と捉える風土を醸成することが求められます。新規事業担当者を支えるためには、組織全体の協力と理解が必要です。特に、経営層のサポートが重要であり、経営層が新規事業に対して積極的に関与することで、担当者は安心してリスクを取ることができます。また、アクセラレーターやメンターの存在も、新規事業の成功に大きく寄与します。

事業創出経験の重要性

 新規事業を担当することは、経営人材の育成にとって非常に有用な経験です。事業創出の過程で得られる学びや挑戦は、経営者としての視野を広げ、長期的な視点で会社の成長を捉える力を養います。特に、新規事業に対する「学習志向」が重要です。成長を意識し、学び続ける姿勢を持つ担当者は、新規事業の成果を高めることができるとされています。

 一方で、単に業績達成を目指すだけの姿勢では、成果が上がりにくいことがデータで示されています。新規事業担当者は、多くの困難や失敗を経験することがありますが、これらの経験を通じて学び、成長することが重要です。事業創出経験は、経営人材としてのスキルや視野を広げるための貴重な機会です。

社内起業家育成の課題と対策

 社内で新規事業を担当する人々は、しばしば社内の抵抗勢力や既存事業との対立に直面します。これに対する対策として、抵抗勢力を理解し、戦略的に関わることが重要です。合理的反対者や競合リスクを懸念する人々の心理を分析し、彼らの支持を得るためのコミュニケーションが必要です。組織としては、新規事業担当者が孤立しないよう、支援体制を整えることが求められます。経営層の直接的な支援や、社外の創業者とのネットワーキングを通じて、新規事業の推進力を強化することが推奨されています。

 さらに、組織全体で新規事業を推進する風土を醸成することが重要です。挑戦を奨励し、失敗を学習の機会と捉える文化を育むことで、新規事業の成功確率を高めることができます。

まとめ

 観察力と他者活用力を持つ人材が、組織内外のリソースを活用しながら事業を進めることが求められます。また、組織全体としては、これらの人材を支える体制を整え、挑戦を奨励する風土を醸成することが重要です。経営層の直接的な関与と、社内外のネットワーキングを通じて、新規事業の成功を支援することが求められます。新規事業の経験は、経営人材の育成にとって非常に有用であり、長期的な視野で会社の成長を捉える力を養います。

 新規事業の成功には、個々の能力だけでなく、組織全体の協力と支援が不可欠です。組織全体で新規事業を支える風土を育み、担当者が安心して挑戦できる環境を整えることが、新規事業の成功に繋がるのでしょう。

人事の視点から考えること

 今度は人事の視点から新規事業創出と社内起業家育成について考察して見たいと思います。

新規事業創出における人事の役割は何か

 まず、人事が新規事業創出に果たすべき重要な役割について考えます。新規事業は企業の成長と持続可能性にとって極めて重要であり、その成功には適切な人材の選抜と配置が不可欠です。人事は、個々の社員の能力や適性を評価し、新規事業に適した人材を見つけ出し、彼らを適切なポジションに配置できるようにすることでしょう。観察力や他者活用力が高い人材を選抜し、新規事業の担当者として配置することで、その成功確率を高めることができます。これには、各社員の持つ潜在能力や過去の業績、さらには彼らのリーダーシップや問題解決能力を包括的に評価する仕組みが必要です。

教育とトレーニングプログラムの設計

 新規事業担当者の能力を向上させるために、人事は観察力や他者活用力、リーダーシップなどのスキルを強化するトレーニングプログラムを提供するべきです。また、失敗から学ぶ姿勢や挑戦するマインドセットを養うための教育プログラムも重要です。これにより、担当者は困難に立ち向かう力を養い、実際の業務でその力を発揮することができるようになります。具体的には、ケーススタディを用いた実践的なトレーニングや、外部の専門家を招いたセミナーなど、多様な学習機会を提供します。さらに、社員が自己啓発に取り組むための支援制度や、学習成果を評価・報酬に反映する仕組みを導入することも効果的です。

メンター制度の導入

 新規事業担当者は孤立しがちであり、そのためのサポートが必要です。人事部門は、経験豊富な先輩社員や外部の専門家をメンターとして配置し、定期的なフィードバックやアドバイスを提供する仕組みをつくることでしょう。メンターは、担当者が直面する問題を共有し、解決策を一緒に考える役割を果たします。これにより、担当者は孤立感を感じることなく、安心して業務に取り組むことができます。メンター制度の効果を最大限に引き出すためには、メンターとメンティーのマッチングを慎重に行い、両者の信頼関係を築くためのサポートを提供することが重要です。また、メンター自身も継続的に学び続けるためのプログラムを用意し、最新の知識やスキルをメンティーに伝えられるようにします。

評価と報酬システムの見直し

 新規事業の成功にはリスクが伴いますが、失敗も学習の一環として評価する風土が必要です。人事部門は、失敗を恐れず挑戦できる環境を作るために、失敗をも評価するシステムを導入します。また、新規事業担当者の努力や成果を正当に評価し、報酬や昇進に反映させることで、彼らのモチベーションを維持することができます。これにより、担当者はリスクを恐れずに挑戦し続けることができます。具体的な施策としては、評価基準に「挑戦度」や「学習成果」を加えることや、失敗事例を共有し、全社的に学ぶ機会を設けることが考えられます。さらに、成功した場合には、その成果を大々的に評価し、報酬や昇進、表彰などを通じて担当者の貢献を認めることが重要です。

組織文化の醸成

 挑戦を奨励し、失敗を学びの機会と捉える組織文化を醸成することも重要です。人事部門は、全社的なコミュニケーションを通じて、挑戦することの重要性を伝え、成功事例や失敗事例を共有することで、社員の意識を変えていきます。また、新規事業担当者が既存事業部門と協力しやすい環境を整えるために、部門間の連携を強化し、情報共有を促進します。これには、社内報やイントラネット、定期的な全社ミーティングなどを活用して、透明性の高い情報共有を行うことが含まれます。さらに、リーダーシップ層が積極的に新規事業の重要性を発信し、自らが挑戦する姿勢を示すことで、社員全体に対するメッセージを強化することができます。

キャリアパスの構築

 新規事業の経験がキャリアの中で重要なステップとなるように、明確なキャリアパスを提供します。新規事業での経験を積むことが、将来的な経営人材としての成長に繋がることを示し、担当者のモチベーションを高めます。社内での異動や昇進の際に、新規事業の経験がうまく活かせる仕組みを整備することも一手でしょう。具体的には、新規事業経験者が管理職や経営層に昇進する際の優遇措置を設けることや、キャリア開発プログラムの中で新規事業の経験を積むことを必須要件とすることが考えられます。また、キャリアパスの透明性を高めるために、昇進基準や評価基準を明確に示し、社員に対して定期的にフィードバックを提供することが重要です。

リーダーシップの育成

 新規事業を成功させるには、リーダーシップが欠かせません。リーダーシップ研修やワークショップを通じて、担当者のリーダーシップスキルを強化します。特に、困難な状況での意思決定やチームのモチベーション維持、ビジョンの共有といったリーダーシップの要素を重視します。これにより、担当者はリーダーシップを発揮し、新規事業を成功に導くことができます。リーダーシップ育成の一環として、担当者がリーダーとしての役割を実践的に経験する機会を提供することが重要です。例えば、プロジェクトチームのリーダーを任せたり、社外のリーダーシッププログラムに参加させたりすることで、実践的なリーダーシップスキルを磨くことができます。

フィードバックと評価のループ

 定期的なフィードバックと評価を行い、担当者が自身の成長を実感できるようにします。成功事例や失敗事例から学び、次の挑戦に活かすための仕組みを整えます。フィードバックは単に結果を評価するだけでなく、プロセスや取り組み姿勢をも評価し、改善点を明確に伝えることが重要です。これにより、担当者は継続的に成長し、次の挑戦に向けて準備を整えることができます。フィードバックと評価のプロセスは透明性を保ち、公平かつ客観的に行われることが求められます。また、フィードバックの内容は具体的で建設的なものであり、担当者が改善点を明確に理解し、具体的な行動計画を立てられるようにサポートします。

まとめ

 適切な人材の選抜と配置、教育とトレーニング、メンター制度の導入、評価と報酬システムの見直し、組織文化の醸成、キャリアパスの構築、リーダーシップの育成、フィードバックと評価のループといった取り組みを通じて、新規事業担当者が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることが求められます。

 新規事業の成功は、企業の成長と持続可能性に直結するため、人事の役割は非常に重要です。この資料の示唆を基に、具体的な人事戦略を策定し、組織全体で新規事業創出を推進していくことが重要です。新規事業の成功には、個々の能力だけでなく、組織全体の協力と支援が不可欠です。組織全体で新規事業を支える風土を育み、担当者が安心して挑戦できる環境を整えることが、新規事業の成功に繋がります。

 したがって、人事部門は継続的な取り組みを通じて、社員一人ひとりの成長と組織の発展を支援し、新規事業の推進力となるべきでしょう。

活気に満ちたオフィス環境です。多様な社員がディスカッションやブレインストーミングを行い、白板には図やチャート、付箋が貼られています。中央には、メンターや上司が小グループに指導を行っている姿が見られ、協力的で創造的な文化を反映しています。このような環境は、新規事業の成功と持続的な成長を促進するために重要です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?