見出し画像

【書籍】千年の先を見据える建築哲学ー西岡棟梁と古代技術の現代への適用

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp329「10月16日:千年先を見越していた日本人(白鷹幸伯 鍛冶)」を取り上げたいと思います。

 古代日本の建築技術と法隆寺専属の宮大工、西岡常一棟梁の建築哲学に焦点を当て、白鷹氏は述べています。西岡氏は、建築技術だけではなく、自然との調和や長期的な耐久性を重視した独自の建築観を持っていました。彼の建築へのアプローチは、単に技術的なスキル以上に、自然環境と文化的背景への深い理解と尊重に基づいています。

 西岡氏は特に、建築に使用される釘の製法について独特の見解を持ち、科学的データを重視する現代の視点とは異なり、経験と観察に基づく知識を重視しています。彼は「千年の風雪に耐えた釘を観察すると、バウムクーヘンのように積層になっている。一つの層が破れても、次の層が破れにくくなっているから千年持っているのだ」と述べています。この説明からは、釘一本に対する彼の深い洞察と、材料の微細な特性への理解が感じ取れます。

 さらに、建築材料の選定においても西岡氏は独自の方法を採用しています。彼は、自然の摂理を理解し、それに基づいて最適な材料を選ぶことを重要視していました。例えば、「山の南に育った木は建物の南に、山の北に育った木は北に配せよ」という彼の言葉には、自然環境によって異なる木材の特性を理解し、それを建築に活かす深い知識が表れています。人間関係も同等とのこと。

棟梁はよく、「山の南に育った木は建物の南に、山の北に育った木は北に配せよ」と言われていました。「南に育った木は太陽が昇る時に下から日が差すから節が多い。北に育った木は節は落ちてしまって綺麗だけれども材質は弱い。それをそのまま建物に使った方が自然の摂理にかなっている」というのです。それに「ねじれた木は、反対にねじれた木と対に組め。人もやんちゃな人同士は向かい合わせに使った方がいいんだ」とユーモアを込めつつ、お話しされていました。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p329より引用

 このような建築に対する彼の哲学は、建物そのものだけでなく、その建物を取り巻く環境や、後世に残す文化遺産としての価値を重んじる考え方に基づいています。特に、法隆寺のような古建築が長持ちする理由について、彼は「人間の崇高な信仰心と努力が鉄を一千年以上もたせてくれた」と語っています。これは、技術だけではなく、人々の信仰と継続的なメンテナンスが重要であることを示しています。

 西岡氏の建築へのアプローチは、彼の精神的な背景にも大きく影響されています。深く仏教に帰依し、その教えを日常の業務に反映させることで、彼はただの宮大工ではなく、その分野で尊敬される存在になりました。彼の講演活動から得た収入を寺に寄付するなど、彼の行動は常に自然と調和し、他者への貢献を意識したものでした。

 西岡氏がどのようにして古代の建築技術と現代の技術を融合させ、新たな建築の形を創造していったのかが見えてきます。彼の仕事における哲学的深さと、技術的な熟練度は、単なる建築を超えて、日本の文化と伝統を未来へと繋ぐ架け橋となっています。このような考え方は、現代の建築にも大きな影響を与え、自然との共生、持続可能な建築への関心を高めることに寄与しているのです。

人事としての応用

 現代の企業経営において、短期的な成果を追求することはしばしば強調されますが、持続可能な発展と組織の存続には長期的な視点が不可欠です。この長期視点は、古代の建築技術や棟梁の知恵にも見られる通り、千年先を見越した取り組みが現代の人事戦略にも非常に重要であることを示唆しています。この文章では、人事管理の観点から、長期的な視点をどのように組み込むべきかについて掘り下げていきます。

長期的視点の必要性

 企業における人事戦略に長期的な視点を持つことの重要性は、単に組織の成長だけではなく、持続可能性と適応性の向上にも寄与します。例えば、技術の急速な進化や市場環境の変化に対応するためには、予見力をもって戦略を練る必要があります。また、長期的な視点をもって人材を育成し、リーダーシップの継承計画を策定することは、組織の未来を安定させる上で極めて重要です。

 組織の持続可能性に対する考え方には、多くの場合、経済的、環境的、社会的な次元が含まれます。企業が社会的責任を果たすためには、これらのすべての側面でのバランスが求められます。長期的な視点をもって人事戦略を展開することは、これらの要素を統合し、企業が長期にわたって社会に貢献できる形で成長を遂げることを可能にします。

人事戦略における長期的視点の具体例

  1. キャリアパスの設計
    長期的な視点をもってキャリアパスを設計することで、従業員が自己実現を図りながらも組織の目標達成に寄与する道を築けます。このプロセスには、個々の能力だけでなく、そのポテンシャルを如何に引き出し、育成するかが含まれます。キャリアパスの設計においては、個人の興味や能力に応じた多様な選択肢を提供し、組織内での多様な経験を積む機会を提供することが重要です。これにより、従業員は自分自身のキャリアを主体的に形成し、組織全体の革新と成長に寄与する能力を高めることができます。

  2. 後継者計画
    鍛冶屋が千年もの建物を作るように、企業もまた千年企業を目指すべきです。これには、リーダーシップの継続性を保証する後継者計画が不可欠です。リーダーが退任する数年前から適切な後継者を育成し、スムーズな移行を計画することが望まれます。後継者計画には、ポテンシャルを持つ従業員を早期に特定し、彼らに必要なスキルと経験を積ませることが含まれます。また、リーダーシップの役割に対する継続的な教育と評価を通じて、後継者がその役割を効果的に果たすための準備が整えられます。

  3. 組織文化の育成
    長期的な視点を持って組織文化を育成することは、従業員のエンゲージメントと忠誠心を高めるために重要です。組織文化が深く根付くことで、従業員は企業のビジョンとミッションに共感しやすくなります。組織文化の育成には、価値観の明確化、行動規範の設定、そしてこれらが日常の業務にどのように反映されるかの具体的な示し方が含まれます。また、開かれたコミュニケーションを促進し、従業員が自らの意見やアイデアを自由に表現できる環境を整備することも、強固な組織文化の構築に寄与します。

  4. 持続可能な人材開発
    長期的な視点をもって人材を開発することで、将来の市場変動や技術進化に対応できる柔軟性が確保されます。これは、定期的なスキルアップトレーニングや学習機会の提供によって実現されます。持続可能な人材開発では、継続的な学習と自己改善を促す文化を根付かせることが重要です。また、技術の進展に対応するための再教育プログラムやキャリア変更支援も、従業員が変化に柔軟に対応できるようにするためには不可欠です。

経済的視点からの長期戦略

 経済的な側面でも、長期的な人事戦略は重要です。短期的な利益追求から一歩退き、長期的な投資としての人材育成や健康管理に資源を割り当てることが、結果として高いリターンを生む可能性があります。たとえば、健康管理プログラムに投資することで、長期的には病欠減少や生産性向上が期待できます。また、従業員の健康を重視することは、彼らの幸福感を高め、企業への忠誠心を促進することにもつながります。

長期的視点の組織に与える影響

 長期的な視点を組織全体に浸透させることで、単なるビジネスの成功を超え、企業が社会的にも持続可能な存在となることが期待されます。社会や環境に対しても責任を持ち、企業倫理を重んじる文化が根付くことは、企業のブランド価値を高め、より良い人材を引き寄せる要因となります。

まとめ

 長期的な視点は、古代の技術者が千年先を見越して行ったように、現代の人事戦略においても非常に重要です。これにより、持続可能で弾力的な組織を築くための基盤が形成されます。このような戦略的アプローチは、組織の未来を保証し、経済的にも社会的にも価値あるものとして、その存在を長く保つことを可能にします。


自然との調和や長期的な耐久性を重視する棟梁、西岡氏の建築哲学に焦点を当てた日本の伝統的な建築風景を描いてます。層になった釘を観察している様子が描かれており、彼の古代建築技術に対するユニークな視点を表現しています。周囲には自然の影響を受けた建築が配置されており、柔らかい画風で自然との深いつながりを感じさせる風景が広がっています。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




いいなと思ったら応援しよう!