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【書籍】創造とレジリエンスーよど号事件から学ぶ、日野原重明氏の教訓

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp309「9月28日:人は創めることさえ忘れなければいつまでも若い(日野原重明 聖路加国際病院理事長・名誉院長)」を取り上げたいと思います。

 1970年に発生したよど号ハイジャック事件の生存者としての経験、それが日野原氏の人生観に与えた影響、そしてその後の彼の行動と信念についての内容です。話は日野原氏が58歳の時に経験した、若者たちによるハイジャック事件という極限状態から始まります。事件が起こったのは、美しい朝、飛行機が富士山の真上を飛んでいる時でした。若者たちは突如として立ち上がり、飛行機を北朝鮮に向けてハイジャックすると宣言しました。この瞬間、日野原氏を含む乗客と乗務員は全員が麻縄で縛られるという恐怖に晒されましたが、機長の機転により一時的に福岡への降下と給油が行われ、子供や老人は解放されるという一筋の希望が生まれました。

 この緊張の中、ハイジャッカーたちは乗客に読書を提案し、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を含む本を読む機会を提供しました。他の誰も手を挙げなかった中、日野原氏だけがこの本を読むことを選び、その中の『聖書』の一節に心を打たれました。「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、死なば多くの実を結ぶべし」という言葉は、彼に自身の状況を超えた大きな視野を提供しました。これは彼にとって、もし自分がこの場で死ぬことになっても、その行動が後に続く人々に影響を与えるかもしれないという希望を持つことを意味しました。

私一人だけが「『カラマーゾフの兄弟』を貸してください」と手を挙げた。開いてみると冒頭に『聖書』の教えの一節が出ていました。「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、死なば多くの実を結ぶべし」。私もここで一粒の麦となって死んでしまうかもしれない。けれども私のこれからの振る舞いが、後に続く人たちに何かの結果を及ぼすかもしれない――。そういう気持ちを持って心を静かにし、皆のためにできるだけのことをやろうと考えたんです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p309より引用

 事件からの解放後、日野原氏は生きることの意味と、与えられた人生を如何に生きるべきかについて深く考えるようになりました。多くの人々からのお見舞いやお花に対する感謝の気持ちを表す中で、彼の妻が添えた言葉「いつの日か、いづこの場所かで、どなたかにこのうけました大きなお恵みの一部でもお返し出来ればと願っております」は、彼らの人生観を象徴するものとなりました。この経験は、彼らに深い感謝の気持ちと将来への恩返しの意志を植え付けました。

 その後、日野原氏は人生において創造することの重要性に気づき、マルティン・ブーバーの言葉「人は創めることさえ忘れなければ、いつまでも若い」という考えに深く影響を受けます。これに触発されて、彼はライフ・プランニングセンターを設立し、予防医学の重要性を訴え、さらには「新老人の会」を立ち上げ、75歳以上の人々に新しい生き方を提案しました。彼の人生のモットー「愛し愛されること、創めること、耐えること」は、彼の過去の経験から生まれたものであり、よど号ハイジャック事件を通じて、彼に真の生きる意味を教えてくれたのです。この物語は、極限状態の中で見出した人生の意味、希望、そして創造の力についての、深い内省と学びを示しています。

人事の視点から考えること

 日野原の経験は、人事分野においても幾つかの根本的な教訓を示しています。彼の話から学ぶべき点は多岐にわたり、人事のプロフェッショナルとして私の日々の業務や長期的な戦略に深い洞察を与えてくれるものでした。

人間の可能性とレジリエンスに

 日野原氏のハイジャック事件における経験は、人間が極限状態でも驚異的な精神力を発揮できることを示しています。人事としても、このような人間の内に秘められた力を認識し、それを引き出すことができる環境と文化を作り出すことが求められます。たとえば、従業員が新しいプロジェクトや挑戦的なタスクに取り組む際には、彼らの能力を信じ、必要なリソースやサポートを提供することが重要です。また、失敗を恐れずに挑戦する文化を育むことで、従業員は自己の限界を超えた成長を遂げることができます。

組織内での人間関係の重要性

 良好な人間関係は、協力的な職場環境を構築し、組織全体の生産性を向上させます。日野原氏の経験からは、共通の目標に向かって団結することの力が伺えます。チームビルディングの取り組みやコミュニケーションの強化が重要です。例えば、定期的なチームビルディング活動、オープンなコミュニケーションを促進するためのワークショップ、多様性と包摂性を重視したイニシアティブなどが挙げられます。これらの活動を通じて、従業員間の相互理解を深め、信頼関係を築くことができます。

人材開発と生涯学習の強化

 日野原氏の「人は創めることさえ忘れなければ、いつまでも若い」という言葉は、常に新しいことに挑戦し、学び続けることの重要性を教えてくれます。人事管理では、従業員が自己のスキルとキャリアを発展させるための機会を提供することが不可欠です。これには、専門的な研修プログラムの提供、メンターシップやコーチングのプログラム、そしてキャリアパスの計画と支援が含まれます。また、学習と成長を組織文化の一部として組み込むことで、従業員は新しい知識や技能を積極的に求めるようになります。

クライシスマネジメントとリーダーシップ

 ハイジャック事件での日野原氏の行動は、クライシスマネジメントとリーダーシップの重要性も浮き彫りにしています。困難な状況に直面した際には、冷静さを保ち、前向きな姿勢を示すことが極めて重要です。人事管理者としては、緊急事態や不確実性の高い状況でリーダーシップを発揮し、従業員を支援し、指導する能力が求められます。これには、コミュニケーションスキル、危機管理計画の策定、そして従業員の安全とウェルビーイングを最優先する姿勢が含まれます。

まとめ

 日野原氏の経験は、多くの価値ある教訓を提供しています。人間の可能性を信じ、良好な人間関係を構築し、絶えず学び成長する文化を育むこと。これらは、個人と組織の両方にとって成功をもたらすための鍵です。また、リーダーシップとクライシスマネジメントの重要性を理解し、従業員のサポートと指導を行うことで、どのような困難にも立ち向かうことができる組織を作り上げることができます。日野原氏の言葉と彼の人生から学んだ教訓を心に留め、人事の実践に活かしていくことが重要と感じました。

静かで美しい朝の一瞬を捉えています。富士山の雄大な姿とその上を飛ぶ飛行機が、平和と突然の混乱の対比を表現しています。柔らかい画風は、この出来事が後に日野原氏の人生観に与えた深い影響と内省を映し出しています。画像全体には、穏やかで美しい雰囲気が漂い、これから起こる劇的な出来事への予兆を静かに示唆しています。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




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