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【書籍】USJの躍進と森岡毅の信念ー顧客エンゲージメントと従業員モチベーションの向上

『一生学べる仕事力大全』(致知出版社、2023年)のp364「地球上で最も必死に考えている人のところにアイデアの神様は降りてくる(森岡毅さん)」を取り上げたいと思います。

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の集客数を劇的に増加させた森岡毅氏の改革とその背後にある哲学に焦点を当てています。森岡氏の主な目標は、お客様一人ひとりに最高の満足を提供し、彼らの笑顔を増やすことでした。彼のビジョンは、お客様に忘れられない体験を提供することにより、USJを訪れるすべての人々を幸せにすることでしたが、実際にはその目標にまだ達していないと自覚していました。彼は、自身の取り組みと従業員の増加、外部からの肯定的なフィードバックにもかかわらず、まだ多くのお客様の最高の満足を実現していないと感じていました。

 森岡氏は、P&Gでの豊富なマーケティング経験をUSJへと持ち込み、マーケティング戦略の全面的な見直しを行いました。彼のリーダーシップのもと、USJは顧客エンゲージメントと従業員のモチベーションを高める多くの革新的な取り組みを実施しました。その中でも、「スマイル・キッズフリーパス」という斬新なアイデアは特に注目に値します。これは、大人一人につき子供一人を無料にするというもので、東日本大震災の影響で減少した来場者数を回復させるための重要な施策でした。このアイデアは多くの反対に遭いましたが、森岡氏の強い信念とリスクを恐れない姿勢のもと、実行に移されました。結果として、この施策は大成功を収め、USJの集客数増加に大きく貢献しました。

 さらに、森岡氏はUSJにおける家族連れ向けのアトラクションの強化にも尽力しました。彼のリーダーシップの下で、ユニバーサル・ワンダーランドの開業や、世界的に有名なハリー・ポッターのエリア開発など、家族連れにアピールするコンテンツが充実しました。これらの取り組みは、USJが一時期低迷していた集客数を劇的に増加させることに成功し、年間来場者数を一千万人にまで回復させることができました。

 森岡氏の哲学は、「個を捨て公のために生きる」という信念に基づいています。彼は、困難な時期においても、個人の利益を超えて社会や共同体に貢献することの重要性を説いています。

 自分の人生の軸をどこに置くかと考えた時に、私は個人の幸せを最大化させるために頑張りましたっていう人生よりも、周りのために自らを顧みず、情熱をもって働いたという人生のほうがいい。それが私の目指すリーダー像です。
 いまでも自我が揺らぎそうになる時はありますけど、最後のところで「この行動は自分の共同体のためになるか」という冷静な問いかけを頭の中に常に置いておくと、闘うべき時に闘えるんです。
 個を捨てて公のために生きる。心の底か個そう思えたら、世界の見え方が変わって、できることは無限に広がると思います。

『一生学べる仕事力大全』(致知出版社、2023年)p373より引用


 彼の取り組みは、USJだけでなく、組織や個人が直面する様々な課題を乗り越えるための普遍的な教訓を提供しています。森岡氏は、逆境に立ち向かい、挑戦し続けることの大切さを強調しており、彼のストーリーは多くの人々にとって大きなインスピレーションとなっています。彼のリーダーシップと革新的なアイデアは、USJを訪れるすべての人々に最高の体験を提供するための強固な基盤を築き上げました。

<人事としてどのように応用するか>

 従業員一人ひとりが笑顔を作り、元気を与えることが、組織にとって重要な役割を果たすというのは、人事の立場から見ても非常に共感できる話です。企業や組織が成長し、社外の人々からの評価を受けるようになると、自然と従業員の意識も高まり、その結果として良好な働き方や組織文化が形成されていくものです。しかし、それだけでは十分ではなく、実際にはまだ多くの課題が残されていることも現実です。

 特に大規模な顧客接点を持つ企業では、一人ひとりの顧客に最高の満足を提供することが求められますが、これは非常に困難な目標です。この目標に向かって努力する中で、人事が果たすべき役割は極めて重要です。従業員がプロとしてのパフォーマンスを発揮できるようにするために、適切な教育、評価、フィードバックのシステムを設計・運用する必要があります。

 さらに、USJの例から学べることは、従業員だけでなく、組織全体が困難な状況を乗り越えるためには、革新的なアイデアとそれを実現するための行動が不可欠であるということです。あるいは、人事が直接関与する分野ではないかもしれません。しかし、従業員が自ら考え、行動できるような環境を整えることは人事の重要な責務の一つです。そのためには、従業員が自信を持って挑戦できる文化を育むこと、失敗を恐れずに新しいことに挑戦する姿勢を奨励することが必要です。

 この点において、人事は組織開発、人材開発、パフォーマンスマネジメントなど、従業員が自己実現を果たし、組織の目標達成に貢献できるような様々なプログラムや制度を設計・提供する役割を担います。また、従業員のエンゲージメントを高めるための福利厚生制度やキャリア開発の機会を提供することも重要です。

 USJの成功例は、困難な状況に直面しても、従業員と組織が一丸となって挑戦し続けることの重要性を示しています。人事の立場からは、そのような挑戦を支え、促進するためには、従業員一人ひとりのモチベーションを理解し、適切な支援を提供することが欠かせないと言えるでしょう。具体的には、個々の従業員の能力や興味に応じた教育プログラムの提供、パフォーマンスと目標達成に対する公正な評価と適切な報酬、そしてキャリアパスの提案と支援が挙げられます。

 人事は従業員と組織の架け橋となり、両者が最大限のポテンシャルを発揮できるように支援する役割を担っています。この役割を果たすためには、絶えず変化するビジネス環境に対応する柔軟性と、従業員の成長と組織の成功のために必要なリソースを確保するための戦略的思考が求められます。


 792頁にのぼる大作です。まさに仕事のバイブルとなります。名経営者のインタビューや伝説の名講演、一度きりの師弟対談、創業者同士の対談などが、54話を収録されています。



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