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【書籍】経営の現場力ー佐久間曻二氏による実践と学び

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp143「4月22日:君はそれ、自分で確かめたんか?(佐久間曻二 さん、WOWOW相談役)」を取り上げたいと思います。

 佐久間曻二氏が松下幸之助氏の指示で、あるミシン会社の貸借対照表を調査したエピソードを語っています。調査の結果、ミシン会社が予約販売制度を採用していたことが明らかになりました。佐久間氏がこの制度について報告した際、松下氏は「自分で確かめたか」と問い、実際に現場を見て自分の目で確認したことを重視しました。佐久間氏が予約販売制度の採用に反対した理由を述べると、幸之助は即座にその提案を受け入れ、制度の採用をやめる決断をしました。

 このエピソードは、松下氏が実際に現場を見て確認することの重要性を認識していたこと、そして提案者自身が自分の提案に責任を持つべきだという考えを持っていたことを示しています。また、消費者との契約を巡るトラブルのリスクや、長期的な視点から見た制度の持続可能性を考慮して決断が下されたことが強調されています。佐久間氏はこの経験を通じて、現場の重要性と自分の提案に対する責任感を深く理解したと述べています。

私が「全部自分で確認しております」と答えたところ、「そうか、それは結構や。ところで君、そのミシン会社は一流やろ。その一流会社がやってることを、うちがやったらなぜあかんのや」とおっしゃいました。私は「一流会社がやっているからいいというのではありません。この制度を採用することが一流会社として本当にふさわしいものかどうかで判断してください」と述べました。すると幸之助さんは「よし、分かった。やめとこう」と即断されたのです。驚いたのはこちらです。普通なら「後は我われで預かるから」というふうになるものでしょう。幸之助さんがそうでなかったのは、実際に現場を見てきた者に対する信頼と、もう一つは経営者としての「勘」ではないかと思います。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p143より引用

人事の視点から考えること

 このエピソードは、現場主義の重要性と経営者の決断力、さらには調査や提案を行う際の姿勢について多くの教訓を教えてくれます。佐久間氏が松下氏から受けた「自分で確かめたんか?」という質問は、単なる情報収集を超えた深い洞察と実体験に基づく確認の重要性を浮き彫りにします。この質問は、ただ事実を集めるだけではなく、その背景にある理由や状況を自らの目で確かめ、理解することの大切さを示しています。

 この教訓はリーダーシップ、人材開発、そして組織文化の構築において非常に重要な意味を持ちます。まず、リーダーシップにおいては、松下氏のように、部下の意見に耳を傾け、それを尊重することで、組織内のコミュニケーションと信頼関係を強化します。このアプローチは、部下が自らの意見や提案に責任を持ち、自信を持って行動するよう促します。

 人材開発の観点からは、自ら現場を歩き、実際に手を動かして確かめる経験が、従業員の成長に不可欠であることを示しています。このような経験は、問題解決能力や批判的思考力を養い、より実践的な学びを提供します。さらに、実際の業務や市場の状況を深く理解することで、より実効性のある戦略や提案が可能になるでしょう。

 組織文化の構築においては、このエピソードが示す現場主義は、従業員に対して現場の重要性と、自らの目で物事を確認する価値を強調します。組織全体がこの姿勢を共有することで、より柔軟で迅速な意思決定が可能になり、変化に強い組織を作り上げることができます。

 また、佐久間氏の話からは、提案や意見を述べる際には、それが組織や社会にとって正しいかどうか、自信を持って言えるかどうかを自問自答することの重要性も学べます。これは、組織内での意思決定プロセスにおいて、品質と責任の高い議論を促進するために不可欠です。

 このエピソードは、人事のプロフェッショナルが目指すべきリーダーシップのモデルを示しています。それは、現場の声に耳を傾け、従業員の成長を支援し、組織文化を育むことで、組織全体としての強さと柔軟性を高めるリーダーシップです。これらの教訓は、人事領域におけるあらゆる業務—採用、人材開発、組織開発、パフォーマンスマネジメントなど—に適用可能であり、これらを通じて、組織と従業員の両方の成功を実現するための指針を示しています。

若手社員と賢明な上級役員との間の思慮深い議論を描いており、事実を確認し、直接の観察に基づいて決定を下す重要性を象徴する文書に向かって上級役員が手を振っている様子が示されています。柔らかな照明が部屋を満たし、支持的で理解ある環境を示唆しています。このシーンは、ビジネス決定におけるメンターシップ、責任、及び現場作業の価値の本質を体現しています。相互の尊敬と学びの瞬間を捉え、リーダーシップと経営慣行における個人の経験と説明責任の重要性を強調しています。画風は柔らかく詳細で、交流の温かさと深みを強調しています。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。




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