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【書籍】方向性を失わないための哲学:三浦朱門の教訓

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp266「8月17日:哲学とは、砂漠の中の懐中電灯である
(三浦朱門 作家)」を取り上げたいと思います。

 三浦氏の言葉「哲学とは、砂漠の中の懐中電灯である」という表現には深い意味が込められています。この比喩は、彼自身の砂漠での体験に基づいています。砂漠での一夜、彼は夜間に目を覚まし、小便のために寝袋から出る必要がありました。他人の目を気にして適当な距離を歩き、懐中電灯を頼りにその場所を離れましたが、問題はその後でした。一面に広がる砂漠の中で方向感覚を失い、元の場所、つまり寝袋のある場所に戻ることが困難になってしまったのです。この経験から、彼は夜間に野営地を離れる際には、懐中電灯を持ち歩くのではなく、寝袋の場所で明かりを点けておくべきだと学びました。この明かりが、砂漠の中での方向感覚を失わないための目印となるのです。

 哲学についても同様の比喩を用いて語る三浦氏は、日常生活における意識的な瞬間の重要性を強調しています。日々の生活の中で、私たちはさまざまな選択を迫られることがあります。そうした瞬間において、哲学が明確であれば、的確な方向性を見極め、正しい判断を下すことができると彼は述べています。哲学とは、文字通り人生の道しるべとなる思想の光であり、私たちが目指すべき方向を照らし出してくれるものなのです。

毎日の中には必ず意識的にならなければならない場面があります。そういう時に哲学が明確だと、的確に方向を選び取っていけるということですよ。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p266より引用

 三浦氏はさらに、自身が文化庁で働いていた時の経験を通じて、制約の中での意識的な取り組みの価値についても語っています。文化庁の予算は膨大な額にも関わらず、そのほとんどが既に決定された使途に充てられており、自由に使える金額はほんの一部に過ぎませんでした。最初はこれに落胆した三浦氏でしたが、やがてこの限られた裁量の中で何ができるか、どう活用するかを深く考えることの重要性を理解しました。たとえ小さな裁量であっても、それを意識的に、かつ賢く活用することで、全体に対して大きな影響を及ぼし、変化を促すことが可能になるというのです。

しかし、違うんですね。わずか数%でも、自分の裁量のうちにあるものを意識的に動かしていく。すると、それが動かせない九十%に逆作用して、動かせないはずのものが徐々に動き出していく。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p266より引用

 三浦氏は哲学を人生の指針として捉え、日々の選択や判断において重要な役割を果たすものと位置づけています。砂漠での懐中電灯が方向性を示すように、哲学もまた、人生という広大な砂漠を歩む私たちにとって、方向性を示し、迷いから導き出してくれる存在なのです。そして、限られた資源や機会の中で最大限の効果を引き出すためには、意識的な取り組みが不可欠であるという教訓も、彼の言葉から学ぶことができます。

人事としてどう応用するか

 三浦氏の哲学と砂漠の中の懐中電灯に関する逸話は、組織におけるさまざまな課題や状況に対して、人事専門家に深い洞察を提供しています。この物語が教えるのは、限られたリソースの中で、複雑な人間関係や組織内外の変化に立ち向かいながらも、一貫した方向性と明確な目的意識を持つことの重要性です。

組織の哲学と人事部門の中核的役割

 組織の哲学とは、その存在意義を表すビジョン、ミッション、そして組織を支える中核となる価値観の体系のことを指します。この哲学は組織の根幹を成すものであり、人事部門の役割は、まさにこの哲学を組織全体に浸透させることにあります。採用から退職に至るまでの従業員ライフサイクル全般を通じて、組織の哲学を具現化することが求められます。

 具体的には、採用プロセスにおいて、組織の哲学に共感し、その実現に貢献できる人材を見極める必要があります。また、研修や能力開発プログラムを通じて、従業員一人ひとりが組織の哲学を深く理解し、内在化できるよう支援することが重要です。さらに、パフォーマンス評価やキャリア開発支援では、組織の哲学に沿った行動や成果を適切に評価し、フィードバックを行うことで、従業員の成長と組織の発展を両立させる必要があります。

 このように、人事部門は組織の哲学を従業員の行動や意識、そして組織文化全体に浸透させるキーロールを担っています。一人ひとりの従業員が組織のビジョンと目標に共感し、そこに向かって努力することで、組織全体の発展が促進されるのです。

方向性を照らす懐中電灯としての役割

 砂漠での懐中電灯の喩えは、人事部門が組織内で果たすべき役割を的確に表しています。組織は時に荒れ狂う砂漠のように、不確実な環境に曝されることがあります。そのような中で、人事部門は従業員一人ひとりが自己実現を果たしながらも、組織の目標達成に確実に貢献できるよう、適切な方向性を照らし続けなければなりません。

 この役割は、目標設定、パフォーマンス評価、キャリア開発支援など、さまざまな人事活動を通じて実現されます。目標設定においては、組織の長期的なビジョンと個人の目標を整合させ、それに向かって従業員を導くことが求められます。パフォーマンス評価では、組織と個人の目標達成に向けた具体的な行動や成果を評価し、適切な承認やフィードバックを行うことで、従業員の動機づけと能力開発を促進することができます。

 また、キャリア開発支援を通じて、従業員一人ひとりの強みや関心を踏まえながら、組織の目標実現に貢献できるようなキャリアパスを描き、その実現を支援することが重要です。このように、人事部門は様々な活動を通じて、組織と個人の目標を共に実現できる道筋を照らし続ける役割を担っているのです。

限られたリソースの戦略的活用

 文化庁の予算運用の例は、限られたリソースをいかに戦略的に活用するかという点において、人事部門にも多くの示唆を与えてくれます。人事部門においても、予算、時間、人材といった限られたリソースの中で、最大の効果を上げるための戦略的な思考が不可欠です。

 まずは、組織全体の戦略とビジョンに基づいて、人事部門としての優先順位を明確にする必要があります。その上で、限られたリソースをどの領域に集中的に投資するかを決定し、焦点を絞った取り組みを進めることが重要になります。たとえば、優秀な人材の確保と定着が最優先課題である場合には、効果的な採用戦略や報酬制度の構築、魅力的なキャリア開発プログラムの提供などに注力することになるでしょう。

 また、従業員の能力開発が重視される場合には、最も効果的な研修プログラムを選定し、限られた予算の中で最大の学習効果を得られるよう、工夫を重ねることが求められます。さらに、企業文化の強化が課題であれば、リーダーシップ開発や組織内コミュニケーションの促進、従業員エンゲージメント向上のための施策に注力することになるでしょう。

 このように、人事部門は組織の戦略的な優先事項を踏まえ、限られたリソースを最も効果的な領域に集中投下することで、最大の成果を上げることができます。戦略的な意思決定と適切なリソース配分こそが、持続可能な成長と発展の鍵を握っているのです。

組織文化との連携による相乗効果

 組織の哲学と密接に関係するのが、その組織文化です。組織文化とは、従業員が業務を遂行する際の価値観や行動様式、コミュニケーションの在り方などを規定する、組織固有の雰囲気や文化的な特性を指します。この組織文化は、従業員が日々の業務を遂行する際の重要な指針となります。

 人事部門の役割は、この組織文化を育むことによって、従業員が組織の大きな目標に向かって一丸となり、協力し合える環境を整備することにあります。具体的には、新入社員研修を通じて組織の哲学と文化を体得させること、リーダーシップ開発プログラムによって組織文化を体現するリーダーを育成すること、積極的なコミュニケーションを促進することで組織文化の共有を図ることなどが考えられます。

 組織の哲学と組織文化が適切に連携することで、相乗的な効果が生まれます。従業員一人ひとりが組織の哲学を理解し、その実現に向けて行動する一方で、組織文化の影響を受けることで、お互いに影響を与え合いながら、組織全体としての一体感と目的意識が高まっていくのです。このように、人事部門は組織の哲学と文化の両輪を回すことで、組織が目標達成に向けて邁進できる環境を整備する重要な役割を担っているといえます。

まとめ

 三浦氏の逸話から学ぶべき教訓は、組織の中で人事部門が果たすべき役割と責任に新たな光を当てるものです。組織の哲学を明確にし、それを従業員と組織文化に浸透させることで、人事部門は組織が直面するさまざまな困難を乗り越え、目標達成へと導くことができるのです。

 そのためには、限られたリソースの中で、戦略的な意思決定を行い、最も重要な領域に的を絞って取り組むことが不可欠です。このようなアプローチを通じて、持続可能な成長と発展のための基盤を築くことができます。

 人事部門が本当の意味での組織の「懐中電灯」としての役割を果たすためには、組織の哲学に基づいた戦略的なアプローチが欠かせません。そして何より、一人ひとりの従業員がその哲学を深く理解し、共有することで、組織全体が真の意味での方向性と目的を持つことができるのです。

 これからの時代、組織を取り巻く環境はますます複雑さを増していくでしょう。そのような中で、人事部門は組織の哲学的な指針を示し、従業員に方向性を照らし続けることが強く求められます。組織と個人の発展を両立させながら、目標達成に向けて歩みを進めていくことが、人事部門の使命なのです。

星空の下の広大な砂漠で、一人の人物が寝袋から出て手にした懐中電灯の光が砂に道を照らす瞬間を捉えています。この光は、哲学が生命の広がりの中で導きの光として機能し、前方の道を明確に照らし出すという比喩を体現しています。懐中電灯の光が砂に作るはっきりとした道は、存在の砂漠で哲学が提供する方向性と導きを象徴しています。柔らかい画風で描かれたこのイメージは、哲学と砂漠の中の懐中電灯との間の深い類似を反映し、深い思索と内省の感覚を伝えています。生活の複雑さを航行する際の明確さと目的の源泉として、哲学と懐中電灯の比喩の意味深さを表しています。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




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