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【書籍】『致知』2024年3月号(特集「丹田常充実」)読後感

 致知2024年3月号(特集「丹田常充実」)における自身の読後感を紹介します。なお、すべてを網羅するものでなく、今後の読み返し状況によって、追記・変更する可能性があります。

「丹田常充実(たんでんじょうじゅうじつ)」とは

 「丹田常充実」ということばは、中国の伝統的な気功や武術における重要な概念に関連しています。丹田とは、体の中心部、特におへその下約三寸(約7.5cm)の位置にあるとされるエネルギーの中心を指します。このエネルギーの中心を通じて、身体の内部エネルギー(気)を調整し、増強することができるとされています。

 「常充実」とは、「常に充実している」または「常に満たされている」という意味で、この文脈では丹田のエネルギーが常に充実している状態を意味します。丹田が充実していると、体が健康でバランスが取れており、心身ともに安定している状態とされています。

 気功や太極拳、その他の内功武術を実践する際には、この丹田のエネルギーを培養し、維持することが重要とされています。これにより、内側からの健康や強さを促進し、精神的な明瞭さや平和ももたらされるともいわれています。


巻頭:青山俊董さん「仏教は大人(だいじん)になる宗教」p2

 青山氏は、仏教が「大人になる宗教」であると述べ、仏教の精神とその実践について深く考察しています。特に、沢木興道老師と内山興正老師の「宿なし、行動、掃除、興道」という生き方や、釈尊の涅槃とその教えを重視し、自己の怠惰を省みる機会としています。

 「八大人覚」という教えを核として、仏教の実践がどうあるべきかを掘り下げ、特に「不戯論」に焦点を当てています。沢木老師は、現代の仏法が傍観者的であり、観念的な遊戯に陥っていると批判し、真の仏法の実践は「立ち見席の仏法」「言伝仏法」から離れ、理論や教義だけに囚われず、実生活で生かすことが重要だと強調しています。

 青山氏は、仏教の教えを楽譜にたとえ、その学びを生演奏、つまり実生活での実践に移すことの重要性を説いています。ただ学ぶだけではなく、その教えを自分の生活に生かし、実践していくことが「不戯論」の精神だと述べています。そして、深い教えに触れるほどに自身の未熟さに気づき、それが真の学びであり、自己凝視の姿が「不戯論」の真髄であるとしています。

 特に「大人になる宗教」としての側面は、人事担当者が組織内で担うべき役割と密接に関連しています。人事担当者は、組織内の調和を保ち、個々の従業員の成長を促し、組織の目標達成を支援する立場にあります。思いだけに止まり、生演奏をしていない場面がないか、振り返る必要があります。

 たった一度のやりなおしのできない私の人生の今を少しでも悔いのないように生演奏するにはどうしたらよいか。それを学ぶのが楽譜の学びである。 楽譜だけの学びで、人生の今ここでの生き方として実践しないのを戯論という。
 楽譜の学び、言葉の学びでいる間は、その深遠な教えに酔っぱらっていることができるが、私の人生の今ここに生かそうとすると、一句も実践できない自分に気づく。
 「深まるほどに足りない自分に気づく」
とおっしゃった沢木老師の自己凝視の姿こそ、まさに不戯論といえよう。

『致知』2024年3月号 p3より引用

 「不戯論」、つまり空論を避けることは、人事担当者にとって特に重要です。理論や方針は重要ですが、実際の業務では、具体的な行動や実践に重きを置く必要があります。たとえば、パフォーマンスマネジメントやタレントマネジメントにおいては、単に方針を策定するだけでなく、それが実際の職場でどのように機能するか、また従業員の日常の業務にどのように統合されるかを考慮することが求められます。

リード:藤尾秀昭さん 特集「丹田常充実」p9

「丹田常充実」の精神を持つことが、人生における成功と実りある生活への鍵であると述べています。これは、『致知』に登場する多くの人物や、『一生学べる仕事力大全』に収録された人物たちが共通して持つ特徴だと指摘しています(同書籍は2023年末に発刊。800ページにものぼる超大作。私も少しずつ読み始めています。)。特に、明治時代の人物たちの言葉や、御木本幸吉、平櫛田中、浅野総一郎といった偉人たちの言葉が引用されており、それぞれが「丹田常充実」の精神で生きたことが強調されています。

勉強とは学問だけでなく仕事を通じて自分を磨くことで、その勉強に真剣勝負の心構えで臨むことが必要、それを積み重ねて一年に達した時、 人生学の教場の一学年を卒業させてもらえる、と言葉を重ね、 浅野総一郎はこう結んでいる。
「私にとってはこの人生学の教場を卒業するのはまず百歳だろうとちゃんと腹に決めている。 昔から男の盛りは八十か"という。あなたは五十代だそうですが、 五十などは青年、大いにやりなさい」

『致知』2024年3月号 p11より引用

 浅野総一郎の言葉は特に印象的で、年を重ねることを学びと成長の機会と捉え、常に前進し続ける姿勢を示しています。さらに、永平寺古跡館所蔵の書にある言葉は、長寿を全うするまでの闘志を表しています。これらの例を通じて、筆者は「丹田常充実」を保ち続けることが、人生における持続的な挑戦と成長、そして最終的な達成へと繋がると強調しています。

 「丹田常充実」の精神が、どのように人生の多様な局面で重要な役割を果たし、成功へと導くかを、詩、教訓、歴史的人物の言葉という異なる要素を織り交ぜながら強力に訴えかけています。常に気合いを入れ、人生に挑む姿勢が、どれほど価値あるものかを示唆しています。

 「丹田常充実」という概念を組織や人事管理に生かすことで、個々の従業員が持つ無限の可能性を引き出し、組織全体としてもより強靭で、創造的なものへと成長していくでしょう。このような人事管理のアプローチは、絶えず変化するビジネス環境の中で、持続的な競争力を維持し、新たな価値を創造するために、不可欠なものです。
 たとえば、企業文化として、失敗を恐れずに新しいことにチャレンジする姿勢や、絶えずスキルアップを目指す環境を推進することが重要です。また、リーダーシップ開発プログラムを通じて、経営陣から一般社員までこの価値観を浸透させることが求められます。


ソーシャルビジネスで世界を変える——業界を牽引するリーダーに学ぶ将の器、志の磨き方 更家悠介さん、出雲充さん p12


 サラヤの更家悠介社長とユーグレナの出雲充社長によるもので、持続可能な社会実現に向けたビジネスの役割とリーダーシップについて語り合っています。ご両名はSDGsや環境問題への取り組み、ビジネスを通じた社会貢献、そしてリーダーとしての心構えについて深く掘り下げています。出雲社長は、ユーグレナを用いた栄養問題の解決やバイオ燃料事業への挑戦を通じて、環境問題への貢献を目指しています。一方、更家社長は、サラヤが衛生と健康を軸に環境保全活動に取り組み、持続可能な製品を提供することで社会課題への解決を目指しています。

 対談では、リーダーとしての志や情熱、そして行動する勇気が強調されています。二人は、ビジネスを通じて社会に貢献することの重要性を共有し、それぞれの企業が直面する課題に対して前向きに取り組む姿勢を示しています。また、持続可能な社会を実現するためには、一企業の努力だけでなく、社会全体での意識変革が必要であるという認識を共有しています。
 この対談は、持続可能な社会実現に向けたビジネスの役割と、それを推進するリーダーの資質について深い洞察を提供しています。社会課題への真摯な取り組みと、それを支える強い信念と情熱が、持続可能な未来への道を切り開く鍵であることを示しています。

 人事の立場においても多くの示唆を教えてくれます。対談からは、リーダーに求められる「胆力」とは、単にビジネスを成功させるための戦略的思考能力だけでなく、持続可能な未来を目指して社会的責任を果たす決意と、それを実現するための情熱と行動力であることが分かります。更家社長と出雲社長は、自社のビジネスを通じて社会問題に取り組むことで、利益追求だけではなく、世界をより良い場所にするという大きな目的に貢献しています。

更家 様々な国や団体はボランティアとしてお金を集め、地球のために活動していますが、我われはビジネスを通じてダイレクトに、地球に貢献する活動をしていくというのが私の一つの信条です。持続可能性という面に関してはビジネスのほうが優れている面が多いと思います。ボランティアは人の好意で成り立っている分、どうしても継続性に課題がありますが、ビジネスは世の中の役に立つことで売り上げを上げ、その利益から再投資して事業を続けていくわけですから。
出雲 いま更家社長がおっしゃった通りです。持続可能性という面で言えば、人類がこのままのペースで生活を続けていれば、いずれ地球に人が住めなくなります。 私たちの子どもや孫の世代がまとも実な生活ができなくなるかもしれないという、いままさに分水嶺に立たされています。 その危機感をもっと多くの人たちが持ち、できる人から、できる会社から、改善に向けて取り組んでいくしかないと痛切に感じています。

『致知』2024年3月号 p20より引用

また、彼らは個人の成長と自己研鑽の重要性にも触れています。自らの「器」を磨き、広い視野を持って物事を考え、常に学び続けることが、リーダーとして社会に貢献する上で不可欠であると語っています。これは、経営者だけでなく、すべての人にとって大切なメッセージです。

私は二十五歳の時に会社を立ち上げているんですけど、身近に相談相手がいなかったので経営者の先輩はどうされているのかと調べて、三十歳頃からこうした坐禅会や勉強会に参加するようになりました。そして勉強するうちに、 先経営者の皆さん方はこうしてよい先生について学んだり、古典や『致知』を読んだりして、本当にいろんなことを学んでいるのだと痛感しました。やっぱりリーダーは自らの器を磨き高めて、長期的な目線に立って勉強されているから、会社を導いていけるんですね。

『致知』2024年3月号 p17より引用

 持続可能な社会の実現に向けては、企業の社会的責任の果たし方が重要ですが、それを推進するリーダーの資質、個々人の価値観や行動が基盤となります。更家社長と出雲社長の対談は、これらの要素が如何に相互に関連し合っているか、そしてそれらが持続可能な未来への道を切り拓く上でどのように機能するかを示しています。彼らの話は、今日のビジネスリーダーや次世代のリーダーたちにとって、大いなる学びとインスピレーションを提供しています。

【国難の時代のリーダーシップ】 いま、濱口梧陵に学ぶべきものー濱口和久さん(拓殖大学防災教育研究センター長)p32


 濱口和久氏は、幕末期に紀伊半島で巨大地震と津波から村を救った実業家、濱口梧陵の業績を紹介し、現代におけるリーダーシップと防災への教訓を説いています。濱口梧陵は1820年に生まれ、ヤマサ醤油の経営と地元の振興に尽力。特に安政南海地震の際には「稲むらの火」を用いて村人を救助し、その後堤防を造築するなど、防災面での傑出した功績を残しました。

 和久氏は、2024年新年早々に起きた能登半島地震を早速例に挙げ、想定外の災害への対応と、被害の最小限化の重要性を強調しています。この地震では、家屋の焼失や道路の寸断など大きな被害が発生しましたが、津波による犠牲者数は東日本大震災より抑えられたことが、過去の教訓が生かされた一例です。

 しかし、同時に、避難所の劣悪な環境やプライバシーの確保など、解決すべき課題も山積していると指摘。日本では大災害ごとに教訓が叫ばれるものの、根本的な解決には至っていないと述べています。この点から、濱口梧陵のような、困難な時代に適切な判断と行動ができるリーダーシップが求められているとしています。

 また和久氏自身の経歴も紹介されており、防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊や首相秘書などを経て、防災教育研究センター長に就任。現在は「稲むらの火の館」の客員研究員としても活動しています。これらの経験を生かし、濱口氏は「丹田常充実」の気概に目覚め、常に危機に備える姿勢が重要であると強調しています。

 記事は、日本が直面している国難とその対応について、歴史上の人物、濱口梧陵の生き方と功績を通じて語られています。濱口梧陵は、商人でありながら多くの公共事業に財を注ぎ、地域社会の発展に大きく寄与しました。彼は、農兵制の提案や、郵政大臣や和歌山県の初代県議会議長など、多岐にわたる役割を果たしています。

 特に重要視されるのは、濱口梧陵の防災・防衛・教育・防疫の4つの分野への貢献です。具体的には、安政南海地震の際の「稲むらの火」の逸話で知られるように、彼は広村での津波対策や堤防建設、民間防衛組織の設立、教育機関の創設、さらには天然痘根絶のための西洋医学の導入といった先進的な取り組みを行いました。

 この記事では、現代においても、濱口梧陵のようなリーダーシップが求められているとしています。国難として、能登半島地震のような自然災害だけでなく、病気や外部からの脅威にも言及しています。そうした国難に対し、一人一人が自助・共助を心掛け、地域や国全体で協力して対応することの重要性を強調しています。

大地震があれば、まず自分の命、そして家族を守るだろう。これが自助である。一歩家を出れば隣近所があり、助け合いが必要だ。 これが共助である。

『致知』2024年3月号 p36より引用

 また、濱口梧陵の教訓を現代に生かし、リーダーが示すべき胆力や、学びによる備え、そして社会変化に強い指針を持つことの大切さも説いています。そして、それらは日本の神話や古典、また濱口梧陵のような歴史上の人物から学ぶべきであり、教訓をただ覚えるのではなく、行動に移す契機として捉えるべきだと主張しています。国難の時代における適切なリーダーシップとは、想定外の事態にも対応できるよう、日常から準備し、人材を備えることだと訴えています。

いまリーダーに求められるのは、第一に胆力である。それをいかにうかと言えば、学びによる他はない。日本の神話や古典、また梧陵のような偉人に学ぶことだ。日本はなぜ存在しているのか、そうした歴史と先人の歩みをしっかり自分で学ぶことが、政治家に限らずこの国で事業を行う経営者にとっても、予期せぬ社会変化に直面した際の揺るがぬ指針となる。

『致知』2024年3月号 p36より引用

<人事としての応用>
 
私は人事として、災害対応や危機管理において重要なポイントがあると感じました。ちょうど能登半島沖地震が起きた折でもあり、改めて考えさせられる内容です。濱口梧陵の事例は、現代の組織運営や人材育成においても有効な教訓を与えています。ここでは、濱口梧陵の行動原則を現代の人事管理に応用する方法について論じます。

危機管理とリーダーシップ
 
濱口梧陵は、安政南海地震という危機に際し、迅速かつ大胆な行動を取りました。これは、現代の組織においても重要な教訓です。危機管理は、予測不能な状況においても、迅速に対応し、対策を講じる能力を要求します。人事管理の観点からは、危機管理能力を持つリーダーの育成が不可欠です。このためには、例えば、日頃からリーダーシップ研修を実施し、緊急時のシミュレーション訓練を積むことが重要です。

人材の備蓄と教育
 濱口梧陵は、人材の備蓄と教育に力を注ぎました。備蓄というと緊急物資ばかりを思い浮かべてしまいますがそれだけではありません。現代の組織においても、人材は最も重要な資源です。特に、災害対応や危機管理においては、多様なスキルと高い専門知識を持つ人材が不可欠です。人事部門は、従業員の能力開発を促進し、継続的な学習機会を提供することで、組織のレジリエンスを高めることができます。また、サクセッションプランニングを通じて、将来のリーダーを育成し、キーとなるポジションに適切な人材を確保することも重要です。

「備蓄」が欠かせない。災害時に必要な水や食料はその代表だ。ただ、備蓄にはもう一つある。人材の備蓄である。梧陵が身を以て示したように、危機管理の根本は人だ。だが人材は、一朝一夕には育たない。だから備蓄が必要なのだ。
これこそがいま日本の危機管理に最も必要な視点であり、あらゆる国難に応じていく鍵だと言える。

『致知』2024年3月号 p33より引用

コミュニティとの連携
 
濱口梧陵は、地域コミュニティとの強い連携によって、大規模な復興プロジェクトを成功させました。企業においても、地域社会との連携は重要です。CSR(企業の社会的責任)活動を通じて、地域社会との関係を強化し、災害時には地域と協力して迅速な対応を行う体制を整えることが大切です。人事部門は、社員のボランティア活動を奨励し、地域社会への貢献と企業イメージの向上を図ることができます。

全体主義の防災・危機管理
 濱口梧陵の取り組みは、個人の力を超えた全体主義に基づくものでした。現代の組織においても、個々の社員だけでなく、組織全体としての危機管理体制を整えることが求められます。これには、組織文化の醸成が不可欠です。危機に際して組織全体として一丸となって対応できるよう、日頃から組織内コミュニケーションを強化し、チームワークを促進する必要があります。まさに、今号のテーマである「丹田常充実」といえるでしょう。

人間、想定外には対応できないものと思いがちだ。しかし歴史を振り返れば明らかなように、世間を揺るがす災害はすべて想定外だったはずだ。想定外が起きることを想定し、被害を最小限に留めること、人材の備蓄は十分にできる。それを常日頃積み重ねておくことが、この国難の時代のリーダー、もとい私たち国民一人ひとりに求められる「丹田常充実」のあり方なのではないだろうか。

『致知』2024年3月号 p36より引用

 濱口梧陵の事例は、現代の企業における人事管理に多くの示唆を与えます。危機管理と人材育成は、組織の持続可能性とレジリエンスに直接関わる重要な要素です。これらの原則を現代の組織運営に取り入れることで、変化に強く、持続可能な組織を築くことができるでしょう。


徳川260年 松平家の教えに学ぶ日本の心 松平洋史子さんp38

 松平洋史子さんは、水戸徳川家の流れを汲む讃岐国高松藩松平家の末裔として生まれ、日本の心と文化伝統の素晴らしさを伝え続けています。彼女は、現代の日本において、自分らしく、美しく優しく逞しく生きるヒントを松平家の教えから紐解きます。日本の心や礼儀作法、覚悟などが失われつつある現状に危機感を抱き、それらを家庭教育から学び、実践してきた自身の経験を共有しています。

 松平家では子供の教育・躾を家庭で行うことが重視され、姿勢や挨拶、掃除などの日常の行動を通じて心を養うことが大切にされてきました。例えば、姿勢を正すことで心も正され、美しい挨拶をすることで相手を尊重し、掃除をすることで物事の裏表を理解するなど、形式ではなく、その行動の背後にある意味や哲学を重んじています。

 松平さんは、丹田を鍛えることの重要性や、おもてなしの心を「残心」として教え、これらを日常生活に取り入れることで、人としての深みを持ち、相手に対する思いやりを形にすることの大切さを説いています。さらに、彼女は茶道を通じて日本の心や美しさを伝え、文武両道を実践することで、真のリーダーシップや人生の充実を目指すべきだと訴えています。

 この記事から、私たちが現代において忘れがちな「日本の心」というものの重要性とその根底にある教えや価値観を再認識することの大切さが見て取れます。特に、松平家の例を通じて示された生き方や考え方は、単に日本文化の伝統を守るということを越え、現代社会における人としてのあり方やコミュニティ内での役割について深く考えさせられる内容が含まれています。

日本の心の重要性
 松平洋史子さんが松平家として受け継いできた「日本の心」を、現代社会においても重要な価値として伝えることの大切さを語っています。特に、「自分はこう生きるのだ」「日本人ならかくあるべきだ」という生き方の核となるもの、品格や覚悟を備えた人が少なくなっている現状に対する危機感を表明しています。これは、単に伝統や文化を継承するということだけではなく、その根底にある人間としての尊厳や倫理観、社会における責任感など、普遍的な価値を現代においても大切にするべきであるというメッセージを含んでいます。

松平家の教えから学ぶ
 
松平家の教えは、礼儀作法や挨拶、姿勢の正しさなど、日々の行動の中に深い意味を持たせ、それを通じて人としての内面を磨くことに重きを置いています。例えば、挨拶一つをとっても、単なる形式ではなく、相手を自分の懐にお迎えする心遣いが重要であるとされています。また、姿勢を正すことが心を正すことにつながり、美しい姿勢が心をつくると教えられています。これらは、形式を超えた心の持ち方や、相手への配慮、自己の内面と向き合う姿勢など、現代社会においても非常に重要な教訓を提供しているといえるでしょう。

現代社会との関連
 現代社会は情報化が進み、忙しなさの中で人としての基本的な価値観や振る舞いがおろそかになりがちです。しかし、松平家の教えは、そうした現代の生活の中でも、人としての根本を見失わないように、また、社会の一員としての自覚と責任を持つことの重要性を教えています。特に、礼儀や挨拶、感謝の気持ちを表すことの大切さは、人と人とのつながりを深め、社会全体の質を高める上で欠かせない要素です。

まとめ
 松平家の教えを現代に生かすことは、日本の伝統文化を尊重し、それを通じて人としての尊厳や倫理観を高め、より良い社会を築くためのヒントを提供しています。これらの教えは、個人の成長はもちろん、組織や社会全体の発展にも寄与する普遍的な価値を持っています。私たちは、これらの教訓を日々の生活や仕事の中で意識し、実践することで、自分自身だけでなく、周りの人々や社会全体に良い影響を与えることができるのです。


「なにくそ、負けてたまるか」その精神が僕の魂に火をつけた豊島雅信さん p54

 東京の下町にある人気焼き肉店「スタミナ苑」を日本一の名店に育て上げた豊島雅信氏の人生と哲学に焦点を当てています。豊島氏は15歳から家族経営の焼き肉店に関わり、ホルモンひと筋で50年以上を費やし、数々の賞を受賞しました。彼は、どのような立場の人でも予約を受け付けず、行列を作る等身大のサービスを貫いています。若い頃に事故で右手の指を失った経験から、「なにくそ、負けてたまるか」という精神で多くの困難を乗り越えてきました。

 彼の成功の秘訣は、誰にも負けない自信を持ったホルモンの仕込みにあり、それには彼ならではの試行錯誤と努力があります。彼は常に「一所懸命」を大切にし、「一歩先に進むか」を重視してきました。また、ハンディキャップを乗り越えて技術を磨くことの重要性を語っています。家族や従業員に対する思いやりも彼の人間性を表しており、難病を患う娘さんへの愛情深い言葉が印象的でもあります。

 豊島氏の話からは、逆境を乗り越え、夢を追い続ける強い意志と、人生や仕事に対する熱い情熱が伝わってきます。彼は、人生において「人事を尽くして天命を待つ」姿勢を持ち、焼き肉業界での成功に悔いはないと語っています。最後には、体が許す限り店に立ち続け、本物の料理を提供し続けることを望んでいます。

 人事管理の観点から見ても多くの洞察を提供します。一所懸命の姿勢、チャンスを掴む大切さ、努力と自己超越、そして「人事を尽くして天命を待つ」という心構えは、人事担当者が組織と従業員の成長を支援する上で非常に重要な考え方です。豊島氏の経験と哲学は、人事管理においても大きなヒントとなり、多くのビジネスパーソンにとって有益な教訓を提供しています。豊島氏の経験と哲学は、人事管理においても大きなヒントとなり、多くのビジネスパーソンにとって有益な教訓を提供しています。

それで、「前進あるのみ」と思っていたのが、最近では「人事を尽くして天命を待つ」に変わってきた。すべて神様にお任せ。 「おまえはもうダメだ」と言われたら辞めるまでだし、「もっと続けなさい」と言われたら続けるだけ。こうやって額の汗を拭いたら血が出ているんじゃないかというくらいの思いで働いてきたけど、ありがたいことに焼き肉業界で天下を取ることはできたからどっちにこ転ぼうと人生に悔いはないね。れからも体の続く限り、店に立ち続けて本物の料理を提供していきたいと思っています。

『致知』2024年3月号 p57より引用

森信三先生の教えを貫いてー福永道子さん(実践人の家元副理事長) p58

 教育者・森信三師に長年師事し、その教えを実践してきた福永道子氏は、森信三先生の「人生二度なし」という言葉の重みを強く感じています。この言葉は、一度きりの人生を真剣に生きる重要性を、短く力強いメッセージで伝えています。福永氏は、森先生の最後の講演で、先生が自らの人生を振り返り、「他人様にお世話になるばかりで、何一つ恩返しができない一生でした」と述べられたことに感動し、涙を止めることができなかったと語ります。それほどまでに、森先生の人間性と教えは、福永氏にとって深い影響を与えたのです。

 福永氏は、昭和46年に玉川大学の通信教育部で小学校教師を目指していた際、76歳の森先生と出会い、以降、半世紀にわたり先生の教育哲学に従い教育の現場で実践してきました。その後、小学校教師を退いた福永氏は、自らの資金を投じて保育園を設立し、森信三師の教育哲学に基づいて30年間運営を続けてきました。福永氏の森先生への一途な思いが、彼女の生き方や教育への取り組み方に深く反映されていることが伝わってきます。森信三師の教育の神髄は、没後30年以上経った今もなお、福永氏のような弟子を通じて多くの人々に影響を与え続けています。

 本文は、教育者である福永氏が、彼女の教育哲学と実践、特に彼女に大きな影響を与えた森信三先生の教えについて語った内容です。福永氏は、森信三先生の「立腰教育」や子育ての三原則など、人を育てる上での重要な指針を実践してきました。彼女は小学校教師としての経験を経て、あゆみ保育園を設立し、子供たちへの教育において、森信三先生の教えを根幹として取り入れています。

 彼女は「あゆみ教育」と呼ばれる一連の約束事を毎朝の集いで子供たちとともに朗誦し、これを園長だより『あゆむもの』として記録に残しました。また、福永氏は森先生から学んだ「成形の功徳」の教えを実践し、学級通信『つぶやき』を発行し続け、保育園でもこれらの教育哲学を継承しました。

 森先生の教えは、実践に裏打ちされた言葉として、多くの人々に影響を与えています。福永氏は特に「人生二度なし」と「真理は現実の只中にあり」という言葉を強調しており、これらの言葉が彼女自身の教育活動や日々の生活におけるガイドラインとなっています。

 死んだら二度と生まれてこられないこと、真剣に生きなければやり直しが利かないことは、誰もが何となく理解したつもりになっていることでしょう。先生はそれを、「人生二度なし」という短い言葉でズバリと言い切られているため、聞く人の心に強烈に突き刺さり、内省を促すのです。
 「真理は現実の只中にあり」という言葉もそうです。
 日々の生活においては、嫌なこと腹立たしいことを避けて通るわけにはいきません。私はそうし意に沿わないことに直面する度に、「これこそまさに真理だ」と先生の言葉を思い起こしては心を立て直し、乗り越えてきました。その上でよくよく考えてみると、すべての原因は自分にあることに思い至るのです。

『致知』2024年3月号 p61より引用

 また、福永氏は森先生の「立腰教育」の重要性を説き、腰骨を立てることで丹田が充実し、生命力が湧いてくると述べています。これは彼女が保育園での教育にも取り入れており、子供たちが自然と身につけるように指導しています。

 福永氏は、森信三先生との出逢いがなければ今日の彼女は存在しないとし、先生から受けた教えを次世代に熱心に伝えることが、森先生への最大の恩返しだと考えています。彼女はこれからも腰骨を立て、丹田を充実させながら、森先生の教えを広めていくことを志しています。

<人事としての応用>
 人材育成と個人の成長を深く理解することの重要性が強調されます。人事の立場から考えると、このような原則や価値観は、企業文化や個々の従業員の成長において重要な役割を果たします。特に、「丹田常充実」や「立腰教育」のような概念は、自己管理と自己啓発の重要性を示唆しており、これらは労働者の生産性や職場での満足度に直接影響を与える要素です。

個々の成長の重視
 個々の従業員に対する注意深い配慮
は、その人の能力を最大限に引き出します。個人の成長と組織の成長は相互に関連しており、教育分野での「一人ひとりに合わせた教育」は、企業の人材開発プログラムにおいてカスタマイズされたトレーニングやメンタリングを提供することの重要性を示しています。

基本に忠実な姿勢の育成
 
「丹田常充実」や「立腰教育」は、身体的なポーズを通じて精神的な姿勢を整えることを教えています。これは職場においても同様に重要で、自信と自己管理の態度はプロフェッショナルな振る舞いや高いパフォーマンスへと繋がります。

コミュニケーションの価値の理解
 
明確で効果的なコミュニケーションは、あらゆるレベルの職場関係において不可欠です。教育分野での「朗誦」や「集い」は、チームの一体感を醸成し、共有価値観を強化する方法として応用できます。企業内のミーティングやチームビルディングのセッションでは、こうした概念を取り入れることで、チームの結束力を高めることができます。

継続的な学びと成長の文化の促進
 「学級通信『つぶやき』」や「あゆむもの」のように、継続的な学びと成長を記録し、共有することは、個人の成長を促し、チーム全体のモチベーションを高めます。
企業においても、プロジェクトの成功事例や個人の達成を社内で共有することにより、知識の伝達と刺激を促進できます。

感謝と謙虚さの価値の強調
 「いつもありがとうの言える子に」「いつもすみません、ごめんなさいの言える子に」という教育は、感謝と謙虚さの重要性を教えます。職場においても、同僚や上司、そして部下に対して感謝の意を表すことは、ポジティブな職場文化の醸成に不可欠です。

 日々の生活においては、嫌なこと腹立たしいことを避けて通るわけにはいきません。私はそうし意に沿わないことに直面する度に、「これこそまさに真理だ」と先生の言葉を思い起こしては心を立て直し、乗り越えてきました。その上でよくよく考えてみると、すべての原因は自分にあることに思い至るのです。

『致知』2024年3月号 p61より引用

 企業における人材開発と職場文化の改善に多大な影響を与えることができます。個々の従業員の自己啓発の支援、基本に忠実な姿勢の育成、効果的なコミュニケーションの促進、継続的な学びと成長の文化の促進、そして感謝と謙虚さの価値の強調は、どの組織にとっても重要な要素です。


人生、仕事の根本は「氣」にあり 廣岡達朗さん、藤平信一さん p62

 野球評論家の廣岡達朗氏と心身統一合氣道会会長である藤平信一氏の対談は、人間の成長、指導者の役割、そして「氣」の力に関する深い洞察を提供します。廣岡氏は、野球界において長年にわたり指導者として活動し、特にヤクルトスワローズや西武ライオンズの監督として成功を収めました。彼の指導法は、「管理野球」と一部で評されることもありますが、その本質は、選手個々の潜在能力を最大限に引き出し、チーム全体を強化することにあります。
 廣岡氏の指導哲学の中心には、「氣」の概念があります。これは心身統一合氣道から学んだもので、人間の精神と身体の統一を重視します。廣岡氏は、選手が自己の内面と向き合い、精神的なバランスを保ちながら物理的な技能を磨くことの重要性を説きます。彼によれば、選手が自分自身に真摯に取り組むことで、最高のパフォーマンスを発揮することが可能になると言います。

 藤平信一氏もまた、人生における「氣」の重要性を語っています。「氣」を通じて、人は自己の能力を最大限に引き出し、日常生活やあらゆる活動において高いパフォーマンスを実現することができます。彼は、「氣」が出ている状態では、人は自然と集中力が増し、効率よく物事に取り組むことができると語ります。特に、スポーツ選手やビジネスパーソンなど、高いパフォーマンスが求められる状況において、「氣」の管理は成功の鍵となります。

 廣岡氏と藤平氏は、人を育てる上での指導者の役割についても深く掘り下げます。彼らは、指導者が選手や生徒に対して真剣に取り組むことの重要性を強調し、指導者自身が模範を示し、一貫性を持って指導に当たることの大切さを説きます。廣岡氏は特に、自身の指導経験から、選手が困難に直面した時、指導者がどのように対応するかが、その選手の成長に大きな影響を与えると指摘します。彼は、選手一人ひとりの個性と能力を理解し、それぞれに合ったアプローチで指導することが、長期的な成長に繋がると語ります。

 対談全体を通じて、廣岡氏と藤平氏は、人間が直面する挑戦や困難を乗り越え、自己の可能性を最大限に引き出すためには、「氣」の理解と適切な心の持ち方が不可欠であるというメッセージを強く伝えています。彼らの言葉からは、人生のあらゆる面で成功を収めるための智慧とインスピレーションを得ることができます。

 例えば、人財育成などにも役立てることができるでしょう。この対談から、人材育成においては、「氣」や心の持ち方が成果に大きく影響するという点が明らかになります。具体的には、以下の要素が人材育成の成功に不可欠であると言えるでしょう。

持続性と忍耐力
廣岡氏は、選手を育成する過程で厳しい管理と継続的な指導を行いましたが、これは人材育成において一貫性と忍耐が必要であることを示しています。成長には時間がかかるため、指導者は長期的な視点でコミットメントを持ち続ける必要があります。

基礎からの徹底
廣岡氏が選手の生活習慣から技術指導に至るまで、全面的に改善を図ったことは、成功への道は基礎にあるということを強調しています。人材育成においても、基本的なスキルや価値観の教育が重要です。

心の状態の調整
藤平氏は、「氣」を通じて心の状態をコントロールすることの重要性を説いています。心が安定し、集中力が高まることで、個人のパフォーマンスは大きく向上します。人材育成では、このような心理的側面のサポートも欠かせません。

指導者の信念と献身
廣岡氏が示したように、指導者が本気で選手や部下の成長を信じ、自らも努力を惜しまない姿勢が、育成する側とされる側の双方にポジティブな影響を与えます。

実践とデモンストレーション
藤平氏がドジャースで行った「氣」のデモンストレーションは、言葉だけでなく実践を通じて学びを深めることの効果を示しています。人材育成においても、実際に体験し、体で覚える機会を提供することが大切です。

 まさにスポーツの世界だけでなく、ビジネスや教育などあらゆる分野の人材育成においても応用できる普遍的な教訓を提供しています。心の持ち方を重視し、基礎に忠実であること、そして何よりも指導者自身が献身的であることが、成功への鍵であると言えるでしょう。

廣岡 そうですね。生きていると、いろいろな逆境や試練に見舞われますよ。僕なんかいまなお逆境だ。だけど、僕に言わせたら苦しいと思うこと自体が間違い。 脳卒中などいくつかの病気も体験しましたが、それは誰が悪いのでもない。病気になるような間違った生活をしているからだと自分に言い聞かせてきました。逆境とか何とか言うのは本当は贅沢な悩みなんです。

藤平 天地が大事なことを教えてくれていると。

廣岡 宇宙には言葉がないから、宇宙の応援は感じ取る他ない。怪我をしたのは体の使い方が違っているから、病気をしたのは生活習慣がよくないからと考えると、いろいろなことが分かってきます。脳卒中を起こしてから、僕は酒をピタッとやめた。いま食事は野菜や果物を中心にして肉類はほとんど食べない。それで病気になるはずがないと思っているからならない。何事も考え方一つですよ。

藤平 人生を主体的に生きることによって「氣」が出る。悲運を嘆くことなかれ、ということですね。

『致知』2024年3月号 p69より引用


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