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少女漂流 Monologue by HARUKA ψ

 乙女たちの開眼

「作られたあたし」がいるのなら
「あたしを作った存在」がいなければならないんだ。
だけど、それはどこにも見いだせない・・。
それなら「作られたあたし」も
元々そんなモノは存在していない。
だから壊すあたしも、つくりなおすあたしも、
どこにも存在しない
わけだ・・・。

 もし、あたしが「ある」とするならは、
壮大な大自然の宇宙の摂理の中に、
その構成としてあるのだと言うことだ。
・・これはもう言葉では、いい尽くせない感覚だ。

そう、この瞬間は、あたしがセンパイを想って
快感を得た瞬間と同じく言葉にできない。

言葉にできないって事は、案外こういう気づきと、
本能的に思う心の動きは同質で
区別されないモノなのではないか・・。

なんとなくそんなことを思った。

ふっと隣をみると、なんとニーチェさんが、
「阿字」を瞬き一つしないで見つめている。
それは仏像のようにものすごく荘厳な姿だった。
よく見ると、つーっと一筋涙をこぼしている。

「どうや、嬢ちゃんたち・・おお、二人ともええ顔しとるな。」

悠雲さんは、にこやかな顔で入ってきた。

「・・・・・おそるべし、東洋哲学・・。」
ニーチェさんは、「参謀」で付いてきたくせに、
たちまちのうちに「東洋哲学」に飲み込まれていた。
変わってる女だから、
このまま「出家」してもおかしくないな。

「まぁ、その顔やと、なんとなく気づいたのぉ」

悠雲さんは満足げな顔でそう言った。
なんだか悔しいけれど、うまく導かれているようだ。
やはり、この坊さんは、
ただのけちんぼではないことだけは確かだ。

隣のニーチェさんはもはや、すっかり心酔したかのような雰囲気だ。
彼女は哲学女子だから、あたしと違い素地があるから、
こういうときに「アウフヘーベン」しやすいのだろう。

「ほな、二人とも、わしについて来なはれ。」

悠雲さんは、庫裡を抜けて、回廊を寺の奥へと進んだ。
正面からは気づかなかったが、たいそうな奥行きの境内だ。

着いた先は「灌頂堂」と呼ばれるお堂だった。

「うわぁ・・・。」

あたしもニーチェさんも思わず声を上げた。
入ると「護摩行」の最中だった。

「普段は見学させんのじゃが、
止観を2時間やってきたあとやさかい、特別に見したる。」

音楽的な読経の中で、護摩壇に燃えさかる炎が、
無数の円形の中に仏像を描いた掛け軸を照らしていた。
「・・あれは曼荼羅いうもんや・・。
宇宙の真理があれに込められとる。」

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「・・まんだら・・・、聞いたことがある、二つ・・あるって。」

ニーチェさんがそうつぶやいた。
悠雲さんはそこで、感心したような目でニーチェさんを見た。

「ほぉ・・ようわかっとるなぁ・・。」
「はい、たしか金剛界と胎蔵界いうもんがある・・きいとります。」
「その違いは何やと思う?」

「わかりまへん。だから聞きたいのです」

うわ!なんと直截な女だ・・。

悠雲さんはそこでまたかかかと大笑いした。
「まぁ、護摩焚きでもゆっくり見ながら、
二人ともそこに座って観じてみなはれや。」

「たしか、両界曼荼羅、って言うのよね」
「へぇ、にっちゃんよく知ってるね。」
「とりあえず哲学女子やからね。」

悠雲さんは、それを聞きながら、

「東の方にある胎蔵界曼荼羅は、
大日さんの悟りそのものの姿なんやが、
如来から眷属に至るまで平等に配置されて、
一つの世界を構成しておるのがわかるやろ?」

そういえば真ん中にいるのが大日如来として、
ぐるっと取り巻いた持ち場が配置されている感じがした。

「西の方の金剛界曼荼羅は、大上段におるのが大日はんや。
あの一角がこの胎蔵界の姿ともとれるよの。
ほいで、そこに行き着く行の姿を現しておるが、
これもまた平等に配置されておるのがわかるやろ。」

「・・はい・・。」

「はるかちゃんのおかんに書き付けてやったお経の本旨はそれや。
静かなところで、どんなモノかちょびっと知らしたるさかい、
二人ともついておいで。」

あたしたちはまた、庫裡の書院に案内された。

「まぁ、ここは大学やあれへんから、解説は二の次にするけどな、
曼荼羅の大事なポイントは、絶対平等をまず現しておることやな。」

ニーチェさんが手を挙げた。

「絶対平等とは、どういう概念なのでしょうか?」

学校じゃないから・・・ここ・・。

「この世界におるもんは、すべからく、
何の区別もなく、あるが故にあることが
全くの真実やということじゃ」

 さすがニーチェさんはそこで切り返す。
「では、煩悩のような迷いの根源も、
あるべくしてあるいうことなんですか?」

 悠雲さんはゆっくり言った

「さよう、煩悩即菩提、お前さんがそこにおるいうことが、
もう真理の実相を具現しておる。」

・・・・あ、そうか・・・。 

あたしはパパとママの和合でこの世に生まれた・・。
その前の祖父祖母も、みなすべて・・。

 性行為を「特別」と見なすことは
逆に冒涜なんじゃないのか?
行為自体はきれいも汚いもない、
タブーでもない。だって、それがなきゃ、
あたしなんてここにいないじゃない。

 行為自体は、まったく自然の摂理なんだ。
だから、それに向かう心もこの曼荼羅のように
大事な構成要素なんだ・・・。たぶん・・・

あ、じゃあ、この「妙適」って、もしかしてセックスの事?」

悠雲さんは静かにうなずいた・・。

あたしは、もう一度自分の心に向き合ってみることにした。
お寺には二人で丁寧にお礼の言葉を言い、
あの戦意はもうすでに封印してしまった。

これでよかったと思う・・。
あたしの中で何らかの方向性が決まったんだ。
そう、元々あたしは
「作られた存在」だったわけじゃなかった
んだよ

ニーチェさんと別れて、あたしはアパートに向かった。
ほどよい快感だった。
それは、彼女も同じだろう。


うん、誘ってよかった。


To be CONTINUE


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