ももこ先生の願い

「さーお友だちのみんな! 今日はクリスマスイブですよ! 元気にお歌を歌いましょう」
「はーい」
♪じんぐっべーじんぐべーくりすーますー♪
 園児たちの可愛い歌声が教室に響く。
 私が勤める保育園はシーズンごとにイベントが開催されるが、中でもクリスマスは盛大だ。
 園児たちの父兄も参加し、歌や踊りなどの出し物が披露される。それと園児たちのサンタさんへのお願いもとても微笑ましい。リカちゃん人形が欲しいとか普通に子どもっぽいことを書いている子もいれば、ポルシェが欲しいとか、○○くんのお嫁さんになりたいとか、サンタさんにはとても難しい願い事もあったりする。
 ももこ先生うちに来て。って書いている子もいた。ふふ、いつも会ってるじゃないの。っていうか、クリスマスの朝に私が枕元に立っていたらそれはそれでホラーでしょ。ふふ。
準備はそれなりに大変ではあるけれど、園児たちの元気な歌や踊りを観ていると、そしてそれを見守る父兄の笑顔を観ていると、なんだかこっちまでとっても幸せな気持ちになる。保母さんになって良かったと素直に思える瞬間だ。
 仕事が終わり、今日は実家に向かう。
 私が幼い頃母が亡くなり、父と二人暮らしだったのだけれど、私が実家を出てからも毎年年末は大掃除の手伝いで実家に泊まり込みだ。
「ただいまー」
 玄関のドアをあけるが照明が消えている。父の姿は見えない。
 私はリビングのソファに座り、テレビをつける。華やかな芸能人たちによるクリスマスの特番が放送されていた。ふう。ため息一つ。
片づけの途中だったのか、リビングにはいくつかの段ボールがある。私の部屋にあった不用品が多かった。時々帰ってくるんだから何も捨てなくても良いじゃんね、って少し思ったけれど、父も年だから荷物を減らしたいのだろう。
するとその箱の奥から見覚えあるクッキーの缶が出てきた。これは確か私が小さい頃の写真とかが入っているやつだったろうか。
 蓋を開けてみると果たしてそれは、私の写真や、保育園や小学校のイベントなどで配られた印刷物や手作りの肩たたき券などだった。
うっわー懐かしい。肩たたき券、ママは結局一回も使わなかったな。そしてその下から出てきたのは、クレヨンや色鉛筆で彩られた一枚のクリスマスカード。
そこには『サンタさんへ。クリスマスのプレゼントいらないからママに会わせてください』と書かれていた。
 色々と思い出される母との思い出。申し訳ないけど何故か父の顔はうかばない。
 私が幼い頃から母は病弱だったから、あんまり遠くへ旅行とかは行ったこともないけれど、それでも元気な時には遊園地や動物園に連れて行ってくれた。急にセンチメンタルな気持ち。
ママに会いたい。サンタさんママに会わせて。
 それからしばらくウトウトしていたのだろうか。ガチャっと玄関のドアの開く音に気が付いて目が覚める。
 あ、パパだ。右手にケーキの箱を抱えている。すると父の後ろから一人の女性が着いてくるのが見えた。お、やるわね、パパ。
とよく見るとその女性は母だった。亡くなった時の年齢のままの母だった。
「え! ママ! 会いたかった!」
「ももこ。あなたこないだ事故で亡くなってから今日で四十九日よ。私と一緒にあっちへ行きましょう」眩い光と共に、母に優しく包まれた。
 父が仏壇にケーキを供え、静かに泣いているのが見えた。
 了

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