映画「ミツバチのささやき」(El espiritu de la colmena, 1973, 西, 監督 Victor Erice)

名作の誉れが高い映画なのに、観たことがなかった。観てみると、かなり難しい。洞察力が要求される映画だった。

スペインの田舎にある村。そこへ移動映画がやってきた。村人たちは自分が座るための椅子を持ち、いさんで集まってきた。裏の邸宅に住む少女、アナとイサベルももちろんやってきた。そこで村人たちが観たのは、映画「フランケンシュタイン」である。ある科学者が人間の手でつくり出した生物。それがフランケンシュタインなのだ。そして映画の中でフランケンシュタインは少女と交流を持つ。

アナは夢中になった。いや、フランケンシュタインの物語と、現実がまぜこぜになった。自分の住む村にも、フランケンシュタインがいるに違いない。

村のはずれに廃屋があり、アナは姉のイサベルと遊びにいく。そこはもぬけのから。フランケンシュタインなどいない。ところがあるとき、ひとりの男がうずくまっていた。逃亡するため乗り込んだ列車から飛び降り、足に怪我をした兵士なのだ。アナはもちろん、兵士に食べ物を与え、傷の手当てをする。兵士は彼女にとってのフランケンシュタインなのだ。

しかし、兵士はいなくなった。殺されたのだ。アナはどうしてよいかわからなり、行方不明となる。そして家族や村人が捜索に出る。

父親は養蜂業をしているため、家の中にもミツバチがいる。その羽音を聞きながら家族は生活する。静かで平和な村だけれど、実は当時は1940年、スペイン内戦の真っ最中なのだ。母親のテレサは戦場の誰かに向けて手紙を書いている。そして、汽車の側面に設けられた郵便の投函口に手紙を投げ込む。恋人へか、元夫へか、兄弟へか。

内戦という非日常と静謐な村の日常、フランケンシュタインを求めるアナの非日常と家族などとの日常が入り乱れる１時間半だった。