Hideki Tarumoto

Hideki Tarumoto

最近の記事

映画「いちご白書」(The Strawberry Statement, 1970, 米, 監督 Stuart Hagmann)

いわずもがなの有名作。でも、いままで見たことがなかった。 時は1968年、日本だけでなく合衆国の大学でも学生運動が盛り上がっていた。ふだんはボート部でボートを漕いでいるサイモンは、ヒマでヒマでしかたがない。大学が下士官養成のコースをつくろうとしていたので、学生がストライキを打って授業がなかったのだ。運動部の寮を抜けて、大学へ向かう。そこでは、50人ぐらいの学生が学長室を占拠し、立てこもっていた。 単なる物見遊山でいったサイモンだったのに、突然「食料パトロール係」を拝命する

    • 展覧会「モネ 睡蓮のとき」(於 国立西洋美術館)

      クロード・モネは日本ですごく人気である。頻繁に作品がやってきて、人々が集う。今回は、パリのモネ・マルモッタン美術館などから睡蓮の作品群が東京へやってきた。パリに住んでた頃、この美術館へももちろん行った。「印象・日の出」を見つけたときの感動は忘れられない。 会期が始まって間もないのに、早くも美術館は多くの人で賑わっていた。初期から中期に至る絵画たちはほんとうにすばらしい。松方幸次郎のおかげで睡蓮だけでなくポプラ並木の絵など何点かを国立西洋美術館が所有していて、目を楽しませてく

      • トークライブ「多和田葉子と高瀬アキ トークライブ『海外で創作/演奏すること』」(於 小野記念講堂)

        早稲田の学内にある国際文学館、いわゆる村上春樹ライブラリーが3周年を迎えた。前夜のパフォーマンスに続いて、記念のイベントが開催された。前夜と同じく小説家 多和田葉子とピアニスト 高瀬アキが登場したけれども、今回はトークライブである。 テーマは「海外で創作や演奏することはどういうことか」である。松永美穂教授の司会に従い、ふたりが語っていく。ふたりとも現在はドイツのベルリンに居住し芸術活動をしているのだ。そしてふたりでのコラボはかれこれ25年ほどになるという。ふたりとも能力があ

        • パフォーマンス「多和田葉子と高瀬アキ パフォーマンス『機械仕掛けの歌姫』」(於 小野記念講堂)

          早稲田の学内にある国際文学館、いわゆる村上春樹ライブラリーが3周年を迎え、記念のイベントを開催していた。そのなかのひとつが、小説家 多和田葉子とピアニスト 高瀬アキのパフォーマンス。フランスの作曲家ジャック・オッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』に基づいて、多和田が創作文を朗読し、高瀬がピアノを奏でる。そこにはオペラ歌手が入る予定だったのだが、急遽、ボーカル(というか、声出す役)として赤い日ル女という方が参加した。 なかなかおもしろい。芸術活動として、こういう組み合わせも

          映画「セールス・ガールの考現学」(Khudaldagch ohin, 2021, モンゴル, 監督 Janchivdorj Sengedorj)

          この街並みはどこだろう。中国の地方都市か。それともロシア極東の都市か。見慣れているようで異国情緒のあるこの場所は、モンゴルだった。ここで大学生をしているサロールは、骨折した友人のかわりに店番と配達をすることになった。 一見、どこにでもある大学生のアルバイトのように見えるけど、売っているものが変わっている。アダルトグッズなのだ。それを、幼く見えるサロールは売り、毎日売り上げをオーナーのカティアのもとへ届ける。 高級マンションに住み、着飾ったカティアと、庶民の家庭出身で原子力

          映画「セールス・ガールの考現学」(Khudaldagch ohin, 2021, モンゴル, 監督 Janchivdorj Sengedorj)

          書籍 川本三郎『マイ・バック・ページ』平凡社.

          なんて数奇な運命なんだろう。著者の川本さんは、学生運動にシンパシーを感じながらも、直接参加はせず、東大安田講堂事件のすぐ後、朝日新聞社に入った。配属されたのは週刊紙の『週刊朝日』。普通の新入社員は『朝日新聞』に回してもらいたいのだけど、川本さんはうれしかった。学生運動がらみの記事が書けると思ったのだ。 しかし、『週刊朝日』は中高年サラリーマン向けの穏やかな週刊紙。硬派で左翼系の『朝日ジャーナル』とは違うのだ。最初のうちは、政治色のない記事を書き、表紙モデルの女の子に慕われ、

          書籍 川本三郎『マイ・バック・ページ』平凡社.

          映画「マイ・バック・ページ」(2011, 日, 監督 山下淳弘)

          また、学生運動時代の映画を見てしまった。しかし主役は学生ではない。学生たちを見ている新聞社の記者である。 1969年1月、東大安田講堂が機動隊導入で陥落した。その数か月後、沢田は朝日新聞社に入社した。通常、新入社員は新聞に行きたがるけれども、沢田は週刊紙に配属され喜んだ。希望したのは学生運動などを支援する『朝日ジャーナル』ではなく、中高年向けマイルド路線の『週刊朝日』ではあったけれども。 後に『朝日ジャーナル』に異動するものの、沢田の仕事はまずは『週刊朝日』向けのマイルド

          映画「マイ・バック・ページ」(2011, 日, 監督 山下淳弘)

          展覧会「デ・キリコ展」(於 東京都美術館)

          【写真の絵は、すべてレプリカ】 ジョルジョ・デ・キリコはとても有名な画家だけど、ずっとノーマークだった。ときおり目にする絵も「変わってる」と思うだけだった。その作品群をまとめてみてみたら、、とてもおもしろい。そのおもしろさを言葉すると、「居心地の悪さ」、いや「不安をかき立てる」となるだろうか。 なぜ居心地悪かったり、不安にさせられたりするのだろうか。 いくつかの絵が歪んで見える。なぜだろうと思ってよく見ると、ひとつの絵の部分部分が遠近法で描かれていない。なんか空間が歪ん

          展覧会「デ・キリコ展」(於 東京都美術館)

          展覧会「Trio パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(於 東京国立近代美術館)

          絵画を始め様々なアート作品が東京にやってきて展覧会が催されるけれども、3つの美術館の所蔵展というのは珍しい。さらに、テーマを立てて3館それぞれから1点ずつを出して並べるという。さながら、「アートの対決」である。美術館は、パリ、東京、大阪にあるので、「都市間の対決」とも言える。さあ、この対決、どこが勝つだろうか。 ざっと見てみると、あまりにも作風や対象がかけ離れて、あまり対決が成立していないように見えるテーマもあった。また、最後のコーナーの現代アートでは、ビデオ作品3つが並ん

          展覧会「Trio パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(於 東京国立近代美術館)

          映画「それでも私は生きていく」(Un beau matin, 2022, 仏・英・独, 監督 Mia Hansen-Love)

          人は老いと共に弱っていく。本人もたいへんだけど、世話をする周りもたいへん。ましてや、シングルマザーでまだ子どもが小さいとしたら。 サンドラは通訳と翻訳の仕事をしながら、小学生の娘リンを育てている。哲学の教師をしていた父親は聡明だったけど、徐々に文章が読めなくなり、身の回りのことをできなくなった。「1日3度の訪問ではケア仕切れない」とケアワーカーに言われてしまった。 そこで、父と別れた実の母親やきょうだいなどと施設を探し始める。しかし、なかなかうまくいかない。父親は自分のお

          映画「それでも私は生きていく」(Un beau matin, 2022, 仏・英・独, 監督 Mia Hansen-Love)

          映画「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」(Missing Link, 2019, 米, 監督 Chris Butler)

          いやはやおもしろかった。アメリカのアニメも侮れない。 19世紀、英国の探検家ライオネルは、なんとしても誉れ高い探検家クラブへ入りたかった。しかしクラブの会長はまったくとりつく島がない。そこでライオネルは、なんとしても「ビックフット」を見つけて捕まえ、クラブへの入会を認めてもらわねばならない。 探検先はアメリカ北部のワシントン州。そこでライオネルは「ビックフット」を見つけたのだ。なんと、なぜか「ビックフット」はユーモアあふれた流ちょうな英語を話す。ライオネルは、人間と類人猿

          映画「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」(Missing Link, 2019, 米, 監督 Chris Butler)

          映画「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」(Les heritiers, 2014, 仏, 監督 Marie-Castille Mention-Schaar)

          どこの国でも高校生を教えるのはたいへん。ちゃんと席について教室の中にいればまだよいとはいえ、授業中に私語するし、スマホをいじり始めるし、喧嘩するし、先生の言うことなんか聴きゃあしない。 あまり恵まれていないフランス郊外の高校生も同じらしい。歴史と地理を教えるゲゲン先生は自分のクラスの生徒たちに手を焼いていた。あるとき、上司の教員に言われる。あなたのクラスは1年生の他のクラスより荒れていて、問題を起こしていると。 あるとき、ゲゲン先生は思いついた。全国歴史コンクールにクラス

          映画「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」(Les heritiers, 2014, 仏, 監督 Marie-Castille Mention-Schaar)

          映画「フューリー」(Fury, 2013, 米, 監督 David Ayer)

          ブラッド・ピットが制作総指揮をした戦争映画だと聞いた。 時は1945年4月。形勢が危うくなったナチスドイツは、連合軍に総反撃を企てようとしていた。そこに、北アフリカ戦線で活躍をしたウォーダディー率いる4人組が投入された。ウォーダディーはナチスの親衛隊に憎しみを感じ、戦車の大砲に「憎しみ」という名を書いていた。 ひとり欠いていたウォーダディーのグループに派遣されたのが、入隊してわずか8週間の若者ノーマンである。戦車で隊列を組み、進んでいるとノーマンは、ヒトラーユーゲントによ

          映画「フューリー」(Fury, 2013, 米, 監督 David Ayer)

          映画「生きる」(1952, 日, 監督 黒澤 明)

          もちろん、日本映画の超名作のひとつ。カズオ・イシグロが脚本を書いた英国リーメーク版を見たのに、こちらの元のバージョンを見ていないというひどい状態なので、急いで観てみた。予想に違わず、見事な物語だった。 役所の市民課課長渡辺は、30年無欠勤の超真面目な公務員。ところが、その真面目さは公務員としては、というただし書き。なぜなら役所では、何も仕事をしないことがモットーとされていて、それを渡辺も30年実践してきたのだ。町内のおかあさんたちが、下水のあふれた土地を直し、公園をつくって

          映画「生きる」(1952, 日, 監督 黒澤 明)

          映画「ミツバチのささやき」(El espiritu de la colmena, 1973, 西, 監督 Victor Erice)

          名作の誉れが高い映画なのに、観たことがなかった。観てみると、かなり難しい。洞察力が要求される映画だった。 スペインの田舎にある村。そこへ移動映画がやってきた。村人たちは自分が座るための椅子を持ち、いさんで集まってきた。裏の邸宅に住む少女、アナとイサベルももちろんやってきた。そこで村人たちが観たのは、映画「フランケンシュタイン」である。ある科学者が人間の手でつくり出した生物。それがフランケンシュタインなのだ。そして映画の中でフランケンシュタインは少女と交流を持つ。 アナは夢

          映画「ミツバチのささやき」(El espiritu de la colmena, 1973, 西, 監督 Victor Erice)

          映画「ラストタンゴ・イン・パリ」(Last Tango in Paris, 1972, 仏・伊, 監督 Bernardo Bertolucci)

          超有名な映画で見たことがあった気もしたけど、どんな映画か確かめたくて急いで観た。字幕や吹き替えはないけど、まあしかたない。 パリで男がアパートの部屋を探している。たまたま道で追い抜かれ、カフェのトイレですれ違った女もたまたま同じ物件を見に行った。そこでふたりは鉢合わせする。そこにかかってきた謎の電話。その電話をきっかけとして、男は女をレイプした。 ふつうならそこで女は怒り悲しみ、二度とその男とは会わないだろう。または警察沙汰や裁判沙汰になることだろう。ところが、ふたりはそ

          映画「ラストタンゴ・イン・パリ」(Last Tango in Paris, 1972, 仏・伊, 監督 Bernardo Bertolucci)