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映画「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」(2024, 日, 監督 代島治彦)


渋谷ユーロスペースの地下の試写会で見た。いわずもがな、樋田毅さんの名著の映画化。樋田さんからもらった試写会の案内状と名刺を受付に渡した。

この映画のひとつの焦点は、1972年、中核派のスパイだと疑いをかけられた川口大三郎くんが早稲田戸山キャンパス1階の自治会室の隣りの部屋で殺されたシーンをどう再現するかだった。事前に、鴻上尚史が劇中劇にすると聞いていた。すごく違和感があったけど、見てみると見事だった。つまりはなんてことはない、いつもの映画のシーンなのだ。教室の中で川口くんがリンチされていく様子を、若者たちに演じさせ、それを撮っているということなのだ。

そのリンチシーンは壮絶だった。血が吹き出て、もちろん川口くんは死に、映画では描かれてはいないけれど、東大病院の前に放置されたわけだ。

しかしその壮絶さも、後半に時折入れ込まれたリンチシーンのメーキングビデオで和らいだ。鴻上の指示に、若者たちが試行錯誤している様子を映画に取り入れているのだ。この工夫がなかったら、この映画を見ることは相当つらいものになっただろう。

そして後半は、川口くんの同期、先輩、後輩などが当時を語っていく。やはり原作者の樋田さんの語りはとてもクリアだった。いろいろな人に取材し本を書いたことから、当時のことをすでに思い出し切っているといった感じだった。しかしその他、登場している人々にも強烈な印象が残っている様子だった。

川口くん事件の後、多くの学生の参加した集会で革マルの文学部自治会がリコールされ、臨時自治会がつくられる。その自治会の委員長になった樋田さんが革マルに襲われる。そこで、自治会がまっぷたつに別れる。武装すべきか、いや非暴力を貫くべきか。今でもインタビューに答えた人々はまっぷたつに別れていた。特に、黒ヘルと呼ばれた「行動委員会」の人々は武装やむなしというぶれない姿勢だった。武装派だったみたいだけど、川口くんの1年後輩の吉岡由美子という人はさわやかだった。大学を中退し、舞踊の世界へ行ってしまったみたいだけど。

他にも、川口くんの6年後輩の鴻上だけでなく、佐藤優、池上彰、内田樹らが当時の左翼の動きを語った。東大の駒場で教えていた石田英敬が、下宿を引っ越しするとき内ゲバに襲われて逃げ、友人2人が殺されたというのは知らなかった。

原作である本を読むだけでなく、映像で見たことで川口くん事件とその背景について理解が深まった。しかし、謎も深まってしまった気がする。結局、なぜ川口くんは殺されなければならなかったのか。なぜ当時の左翼運動は内ゲバに走ったのか。

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