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映画「それでも私は生きていく」(Un beau matin, 2022, 仏・英・独, 監督 Mia Hansen-Love)


人は老いと共に弱っていく。本人もたいへんだけど、世話をする周りもたいへん。ましてや、シングルマザーでまだ子どもが小さいとしたら。

サンドラは通訳と翻訳の仕事をしながら、小学生の娘リンを育てている。哲学の教師をしていた父親は聡明だったけど、徐々に文章が読めなくなり、身の回りのことをできなくなった。「1日3度の訪問ではケア仕切れない」とケアワーカーに言われてしまった。

そこで、父と別れた実の母親やきょうだいなどと施設を探し始める。しかし、なかなかうまくいかない。父親は自分のお気に入りのレイラはどこだといつも探し、サンドラのことは徐々にわからなくなっている。

そんなサンドラは、夫が亡くなってからもう5年。たまに会っておしゃべりする「宇宙化学者」クレマンは、あくまでも友人だった。しかし、会っているうちにお互いに自然に一線を越えてしまう。サンドラとクレマンを襲う幸せと安堵と不安と苦しみ。クレマンには、妻と子どもがいるのだ。

父親はいったんパリ市内の施設に入居できたけれど、先方の都合でまた転居を余儀なくされた。新しい施設で暮らせるだろうか。クレマンとの仲はどうなるのだろうか。母親やきょうだいと父親の本を片付けながら、サンドラは不安と悲しみに襲われてしまうう。

子どもにとって、親の介護はたいへんな仕事である。また、シングルマザーやシングルファーザーになってしまうことも、よくあるリスクである。そんな人生の難儀に対処しているサンドラを、レア・セドゥが素敵に演じている。

見覚えのあるパリの各所が出てくるのもうれしい。オーランジュリ美術館のモネの「睡蓮」が見られるとは思わなかった。サンドラとクレマンが食事をする「Kintaro」という日本料理屋は、オペラ座にほど近いところにあるらしい。


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