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人工知能と群知能

 人工知能AI(Artificial Intelligence)は、人間の脳細胞を模したニューラルネットワークを基礎にしていますが、それとは全く異なる方式の群知能SI(Swarm Intelligence)と呼ばれるものがあります。群知能とは、分権化し自己組織化されたシステムの集合的ふるまいの研究に基づいた一種の人工知能技術です。

 SIシステムは、相互に接続されたニューロンではなく、独立した単純な個体群から構成され、各個体(エージェント)はローカルおよびグローバルな環境と対話することで次の行動を決定します。個々のエージェントが次にどう行動すべきかを決める集中的な制御構造は通常存在しませんが、そのような個体間の局所相互作用が、全体の”行動の創発”をもたらすようになります。このようなシステムの自然界の例として、アリの巣、鳥の群れ、魚の群れ、動物の群れ、細菌のコロニーなどがあります。

 例えば、魚の群れなどはリーダーが決まっているわけではありませんが、個々の魚が周囲の魚の行動を見て次の行動を決めるので、結果として統率のとれた集団行動のような動きをします。このような生物の群れを使って、最小二乗法のような最適化を行なうことができます。生物の群れを応用したアルゴリズムには、コロニー最適化、人工コロニーアルゴリズム、カッコウ探索、ホタルアルゴリズム、粒子群最適化などがあります。粒子群最適化には動物の名前が入っていませんが、鳥や魚の群れを模擬しています。

 これらの手法は、メタヒューリスティックスと呼ばれる発見的方法に分類されます。発見的方法では、必ずしも最適解を得られませんが、多くの場合に最適解が得られる経験的な方法です。ちなみにヒューリスティックス(heuristics)の語源は、アルキメデスが”アルキメデスの法則”を発見した時に叫んだ"Eureka!(わかった)"です。

 数年前、卒論や修論のテーマに”粒子群最適化を使ったMT法のインバージョン”を選んで研究したことがあります。通常のインバージョンでは、計算時間がかかる未知パラメータに関するヤコビアン(感度行列)の計算が必要ですが、粒子群最適化では必要ありません。粒子群最適化には、フォワード計算だけが必要ですが、複雑なモデルでは粒子群を構成する個体数を多くしないといけないので、一長一短があります。

 『帯に短し、襷に長し』で、”計算時間が短くて、しかも高精度”な万能な方法はありません。もしご存知の方がいたら、教えて下さい。

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