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ミリしら物理探査#5 『インバージョン』

 様々な物理探査を実施すると、地下の物性値に応じた測定値が得られます。例えば、重力探査を行なえば、重力値が測定できて、多くの重力補正のあとで、重力異常が計算できます。この重力異常から、地下の密度分布を推定するのですが、この推定には2つのアプローチがあります。

 1つ目は順解析というアプローチです。地下の密度分布が決まれば、理論的な重力異常が、数値計算によって求められます。これがシミュレーションです。シミュレーションをシュミ・・・レーションと間違う人がいますが、英語のsimulationを知っていれば間違うことはありません。順解析では、地下の密度分布を少しづつ変更して何度もシミュレーションを実施して、観測値とうまく合う密度分布を試行錯誤的に求めます。

 もう一つのアプローチがインバージョンです。インバージョンはinversionのカタカナ英語で、逆解析のことを指します。インバージョンでは、野外調査で得られた測定データを用いて、最小二乗法などを使って地下構造を数学的に推定します。重力探査の3次元インバージョンでは、図のように地下を直方体のブロックに分割して、個々のブロックの密度を数学的に計算します。

 文章にすると簡単そうに思いますが、これが簡単ではありません。一般的に、未知となる地下の密度ブロックの個数は数千個から数万個になります。それに対して、地表で観測される実際の重力データは数百個程度です。このような数学的に解けない問題を、劣決定問題と言います。劣決定問題とは、求めたい未知パラメータの個数が、データ数の個数より多い状態を言います。

 劣決定問題は、そのままでは解けませんが、ある条件を付加してやると解くことができます。それは、あるブロックの密度は、周辺ブロックの密度と大きく変わらないという拘束条件です。また、パラメータのノルム全体を最小化する最小ノルム解を求めることも可能です。この辺りの説明は、数学的な知識が必要ですので、分からない人はあとで勉強して下さい。

 インバージョンは、物理探査の最終手段です。インバージョンが高精度かつ高効率で出来るかどうかが、物理探査を成功させるカギになります。

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