見出し画像

ミリしら物理探査#28 自発分極と強制分極

 まずは分極の説明をします。電気などの分極とは、正の電荷と負の電荷が、何らかの原因で物質中で偏ることを指します。通常の状態では、物質中では正の電荷と負の電荷が均等に混ざっているので、”電気的に中性”になっています。ただし、この電荷の偏り、つまり分極が生じると電気的に中性ではなくなります。

 自発分極(spontaneous polarization)というのは、何も手を加えなくても勝手に分極をしている電気的な状態を指します。身近なもので説明すると、自発分極の代表選手が電池です。電池は常に分極した状態なので、正負の電極から電荷の流れである電流を取り出すことができます。ただし、電池の正負を短絡(ショート)させると、電池が瞬間で消費されて壊れますし、最悪の場合は電池が破裂/爆発しますので、絶対にやってはいけません。その昔、野外実験で使う12Vバッテリーを短絡して、壊してしまった学生さんがいました。短絡に使った電線は焼け焦げ、バッテリーも一部が焼けただれていました。すぐに気が付いたので、その程度で済みましたが、そのまま放置すると大変なことになっていたかもしれません。その学生さんは、今や立派な社会人(会社のエライ人)になっています。

 それに対して、強制分極(induced polarization)というのは、電圧が加えられた時だけ分極する状態を指します。高校の物理では静電分極と教わります。強制分極の代表選手は、コンデンサです。コンデンサは、電圧がかかった時だけ分極が生じますが、電圧が無くなると元の状態に戻ります。ただし、非分極⇒分極(分極⇒非分極)の状態が瞬間的に変わるのではなく、時間をかけて変わります。この時間的な変化を過渡応答と呼びます。

 最近、電池と同じ用途で使われるキャパシタと呼ばれるものがあります。キャパシタは、コンデンサを応用したもので、電圧がかかった時に電荷を貯めて、電圧が無くなってもその分極を維持します。つまり、電池と同じように分極しているので、必要な時に電流が取り出せます。電荷を大量に貯められるキャパシタは、スーパーキャパシタと呼ばれて次世代蓄電池として注目を集めています。キャパシタの一番の特徴は、大電流を一気に利用できることです。

 ここで説明した自発分極と強制分極を利用した電気探査法が存在します。ある種の硫化物鉱床は、自然の状態で電池のように分極しています。そのため、鉱体電池とも呼ばれています。この鉱体電池によって、地中には常に電流が流れているので、この電流によって生じる電位差を測定すれば、この硫化物鉱床の位置がわかります。この方法は、自然電位法(Self Potential method)と呼ばれていて、しばしばSP法と省略して呼ばれます。

 強制分極現象を利用した探査法が、強制分極法(Induced Polarization method)です。この方法も省略名称の方が浸透していて、IP法と呼ばれます。金属鉱床のように、鉱床中に金属粒子を含むものは、地下に電流を流すとその電圧によってコンデンサのように分極します。この分極の状態を、充電率と呼ばれるパラメータで評価します。IP法では、比抵抗情報と共に充電率情報が得られるので、より確度の高い探査が期待できます。

 このように、物理探査では身近な物理現象を利用して地下の探査を行なっています。少しでも、物理探査を身近に感じて頂けたでしょうか。物理探査をもっと知りたい方は、拙著『はじめの一歩 物理探査学入門』がお薦めです。ちゃっかり宣伝してスミマセン。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?