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愛読書 『数理のめがね』

 坪井忠二つぼいちゅうじ先生は、日本の物理学者(地球物理学)で随筆家です。生前は、東京大学理学部の教授で、東京大学名誉教授でした。坪井忠二先生は、前回の記事に書いた寺田寅彦先生の弟子としても知られています。坪井先生は、地震や重力の研究が専門で、『地殻の物理的性状に関する研究』で日本学士院賞を受賞しているエライ先生です。残念ながら、今から40年前に鬼籍に入られていますので、直接お会いしたことはありません。

 坪井先生は、師の寺田先生と同様に軽妙なエッセイを数多く残しています。その中でも私が好きなのは、『数理とめがね』というエッセイ集です。文章が洒脱で読みやすく、文理問わずに読める内容になっています。ただし、理系の人なら納得度がさらに高いはずです。野球が好きだった坪井先生ならではの『王と江藤』というエッセイは、当時の強打者である王選手と江藤選手の打率に関する話です。私も含めて今の野球ファンには”江藤選手”がピンと来ないかもしれませんが、その当時は王選手と並ぶ強打者でした。

 私が一番好きなのは『ストロボとバーニア』という話です。この話は、”差分や微分の効用”をわかりやすく説明したエッセイで、ストロボやバーニアの原理をわかりやすく説明しています。バーニヤというのは、モノを挟んで正確な長さを測定するノギスに付いている、最小目盛以下の数値を読取る補助目盛です。バーニアは、発明者のフランス人数学者ピエール・ヴェルニエの英語読みに由来しています。

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 私はバーニアに関する文章がなぜか大好きで、何度も読み返しています。なお、私が読み返しているのは、岩波書店が出した1968年のオリジナル本です。今では、紙面のヤケが激しく、本全体が茶色になっていますが、愛着があって捨てることができません。最近、『数理のめがね』が2020年に”ちくま学芸文庫”から復刻版がでたことを知りました。

 エッセイの中には、その当時の時代背景を色濃く残しているものもありますが、その内容は未だに色褪せていません。この本には続編の『続 数理のめがね』もあります。でもやっぱりオシのエッセイは、『ストロボとバーニア』です。このエッセイの面白さが判れば、”ガチ理系”です。


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