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小説の中の地球科学#5 『真夏の方程式』

 拙著『はじめの一歩 物理探査学入門』中のコラムにも書いているのは、東野圭吾さんの小説『真夏の方程式』です。この小説の中では、本筋ではありませんが、環境保護や資源開発に関する話が出てきます。本中のコラム(下記のリンク参照)では、小説中に出てくる電磁探査機に焦点を当てたコラムを書いています。小説も面白いし、映画も面白かったのですが、ここでは映画中で最も気になったシーンのことを書きます。

 映画の中では、主人公・湯川学と、メインのミステリー部分と関連が無い”少年・恭平”との交流が描かれています。私は映画の中で、この部分が最も印象的でした。恭平は、夏休みを玻璃ヶ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになります。その宿には、仕事で訪れた”天才・湯川”が偶然宿泊することになります。詳細は忘れてしまいましたが、恭平が「キレイな玻璃ヶ浦の海中が見てみたい」と言ったのを聞いた湯川が、「それなら見てみよう」と言って、”夏休みの自由学習”のように、ペットボトルとスマホを使った”ロケット&潜水艦&水中カメラ”のような装置を、二人で協力しながら開発します。

 このシーンが、理系の実験系研究者である私にとって、”琴線に触れる”シーンになりました。天才物理学者・湯川は、数々の難問も頭の中(脳内)だけで、数式や論理を組み立てて解決していきます。天才・湯川はイケメンで頭の良い主人公ですから、いつもは泥臭い/汗臭い仕事はほとんどしません。しかし、この映画では”泥臭く努力する湯川”が描かれています。”海底の映像を見る装置”は、ペットボトル内にスマホを入れた簡単な構造になっています。しかし、目的地まで飛ばして海中に沈めるために、汗だくになりながら、基礎実験を含めて、何度も何度も実験を繰り返します。

 これがまさしく、理系の実験です。映画では最終的に成功して、”キレイな海中”を見ることができますが、実際の研究ではそう簡単には行きません。成功までに長い時間がかかる場合や、場合によっては失敗に終わることさえあります。この記事を書いていて、マンタ型の海中探査ロボットの開発の夢が、再び沸き上がってきました。

 この映画は恭平と同い年くらいの息子(当時)と一緒に見に行ったので、よく覚えています。その息子も今ではオッサンになりましたが・・・。この小説は、累計1320万部突破の人気シリーズで、福山雅治さん主演のこの映画は2013年度の邦画興行収入第1位でした。蛇足ですが、この時はまだ独身だったもう一人の主人公(ヒロイン)役の杏さんが、実生活で結婚・出産・離婚を経験されたことには感慨深いものがあります。


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