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自慢の一冊#2 『地球科学における諸問題』

 一定の年齢層以上の人たちには、タイトル図の顔に見覚えばあるかもしれません。この人は竹内ひとし先生で、日本の地球物理学者および科学啓蒙家でした。現在も人気の科学雑誌、『Newton』の初代編集長でもありました。独特の黄色いフチのメガネがトレードマークで、裏声のような独特な口調も特徴的で、タモリさんには「歩くヨーデル」と評されれいました。竹内先生は東大の教授でしたが、偉ぶらず、時にユーモアを交えながらの落ち着いた話しぶりから、NHKの科学番組にもよく出ていました。

 Wiki情報によると、竹内先生が科学者を目指したのは、寺田寅彦に憧れてのことであったと書かれています。大学に東京大学を選んだ理由に、寺田寅彦の弟子筋にあたる人物(坪井忠二先生?)がいたことをテレビ番組の対談で述べていました。竹内先生の業績は地磁気の発生に関するダイナモ理論の提唱ですが、我々がよく知る竹内先生の活躍は、東大退職後から始まっています。竹内先生は、日本の科学、特に地学への国民の関心の低さを憂い、啓蒙活動を始めたのででした。この科学の啓蒙活動は、ライフワークとして死去直前まで続けられました。

 その竹内先生が、東大時代に著された代表作が『地球科学における諸問題』です。この本では、測地学、地震学、地球潮汐・地球振動、地球内部物性論、地球電磁気学、粘性流体力学などの、当時の”地球科学の諸問題”が取り上げられています。この本では、各分野から総計100の例題を集め、問題集の形式をとりながら、各分野における基礎知識を詳細に解説しています。これらの問題は、独立したものではなく、時には関連しています。この本は出版されたからほぼ半世紀が経過しているので、最先端の地球科学的知見はアップデートされていますが、その基礎となる問題は今でも同じです。

 この本では、各問題の地球科学的な意味が概説されたのちに、演習問題が始まります。演習問題の答えは、基礎となる支配方程式を導き、さらにその方程式を解析的に解くことで、地球物理学的な現象を数式で記述していきます。Amazonの解説に書かれていますが、問題と照らし合わせながら解答をじっくりと読み進めることで、地球科学に対する理解がより一層深まるはずです。しかし、これを読みこなすためには、かなりの地球物理学の知識と数学力が必要です。地球物理学と数学が好きな人には、垂涎モノの一冊です。

 私が持っているのは昭和47年の初版本です。今ならまだ、復刻版がAmazonで購入できるようです。この本には、拙著『はじめの一歩 物理探査学入門』の原稿執筆中にお世話になりました。自分で本を書いてみて、この本の偉大さが良くわかりました。


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