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MT法の先駆者たち

 地磁気地電流法(magnetotelluric method; MT法)は、1950年にロシアの地球物理学者Andrey Nikolayevich Tikhonov、1953年にフランスの地球物理学者Louis Cagniardによって、それぞれ独自に研究されました。 当初は、探査理論や測定の難しさから実用化に時間がかかりましたが、測定装置、データ処理、数値モデリングの進歩などにより、MT法は地球深部の研究における最も重要なツールの1つとなっています。

 Tikhonovは、位相幾何学、関数解析、数理物理学、非一様問題などへの重要な貢献で知られるソビエト・ロシアの数学者・地球物理学者です。

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 Cagniardは、フランスの地球物理学者であり、数学的地球物理学の様々な分野で重要な業績を残したことで知られています。代表的な著作であるReflection and refraction of progressive seismic waves(1938年)では、フーリエ・ラプラス領域での巧妙な変換を導入し、多層媒体の波動方程式の厳密な解を解析的に得ることに成功しました。 また、1953年にMT法を導入した論文でも知られています。この論文は、ロシアのTikhonovの研究をベースにしたものです。

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 しかし、これらの研究に先行する1940年代に、日本人科学者の平山操による先駆的な研究があること知りました。MT法は、地電位差及び地磁気の変化の観測から、地球内部の電気伝導度を求める方法です。

 この方法は、先に述べたようにTikhonovやCagniardが始めたと考えられてきました。ところがその原型が平山の研究にあるようなのです。昭和9年(1934年)に出版された氣象集誌という日本語の論文集に、その研究が書かれています。この論文の中で平山は、サハリンにあった豊原地磁気観測所における地磁気地電流の解析を通じて、MT法の理論を展開しています。これは世界初のMT法理論の論文と言えます。

 平山は論文中で、電場と磁場の比であるインピーダンスに着目しています。このインピーダンスの式から、電磁場の観測値を用いて電気伝導度を求めることができたはずで、もしそうしていれば、名実ともにMTへの最初の一歩を踏み出したことになったことでしょう。しかし、平山は電磁場の周波数(周期)に関心があったようで、今日のような導電率(比抵抗)に着目した考え方をしていませんでした。

 MT 法の探査理論の構築は、一つの体系をより詳細に、より深く、正確に解明したTikhonovやCagniard の貢献であることには異論はありません。しかし、例え荒削りでも、新しい探査法の切り口を発見した平山の研究の意義は、それに劣らず重要だと思います。


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