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測深とマーク・トウェイン

 船舶の航行や停泊には、水深の確認は不可欠です。水深を測る古典的な手法としては、ロープの先に錘(おもり)をつけた道具(hand lead)を船から垂らして海底までの距離を測定する方法がある。20世紀後半からは、超音波を利用した音響測深機による水深の測定が一般的となりました。これは魚群探知機と作動原理が同じなので、兼用になっている場合も少なくありません。また近年の海洋測量では、複数のビームで同時に走査することで、海底地形を作図できるマルチビーム音響測深機が主流となっています。

 アメリカの川を運行する蒸気船では、常に水深に気を配っていました。蒸気船の運航には最低でも二尋(約3.6m)は必要でした。この水深は、蒸気船が座礁せず安全に通航できる限界の浅さでした。なので、水深を測る人(測深手)は水先人に、大声で“by the mark, twain (二尋はあるぞ=ここは通れるぞ)”と合図を送りました。

 サミュエル・クレメンズは、蒸気船の水先人をしていたことがありました。そこで、小説を書く時のペンネームを、測深手の合図から採った「マーク・トウェイン (Mark Twain)」と決めました。『トム・ソーヤーの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』で有名なマーク・トウェインはこうして誕生しました。

 日本でも同じように掛け声(怒号)をペンネームにした人がいます。それが、二葉亭 四迷(ふたばてい しめい)です。クイズなどで良く出題されるエピソードですが、四迷の父親が小説家になることを反対していて、「物書きなんぞになるくれーなら、くたばってしめぇ」と言ったので、それをモジって”ふたばてい しめい”にしたことになっています。

 しかし実際は、処女作『浮雲』を坪内逍遥の名を借りて出版したことに対して、自分自身に腹を立て、「くたばってしめぇ」と自分を罵った(鼓舞した?)ことによるらしいです。今では、文学に理解のなかった父に言われたという俗説の方が通説として語られています。面白いですね。

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