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ピカソの『30年と30秒』

 YouTube動画を見ていると、時々、動画視聴を邪魔をするような(?)コマーシャル動画が出てきます。いつもは、”広告をスキップ”を待って、速攻でスキップするのですが、スキップし忘れたり、興味が出てきて”惰性で”見てしまうことがあります。この話は、ビジネス書(?)の広告動画で出てくるピカソのエピソードの話です。この話が実話かどうかは知りませんが、このエピソードは色々な解釈ができるので、とても面白いと思いました。

 パブロ・ピカソは、キュビスムの創始者として知られる、フランスで活動をしたスペインの画家です。彼は、生涯におよそ1万3500点の油絵と素描、10万点の版画、3万4000点の挿絵、300点の彫刻と陶器を制作し、最も多作な芸術家として『ギネスブック』に登録されています。ピカソのことを詳しく知らなくても、ピカソの名前を一度くらいは聞いたことがあるはずです。

 ピカソのエピソードは、細部は違っているかもしれませんが、次のような話でした。既に有名だったピカソがレストランで食事をしていると、テーブル担当のウエイトレスがピカソに気付きました。ウエイトレスは、小さなメモ書きと紙ナプキンを渡しました。そのメモ書きにはこう書かれていました。「簡単な絵で構いませんので、何か描いて頂けませんか。報酬はお支払いします」。これを読んだピカソは即興で絵を描いて、次の台詞と共にウエイトレスに渡しました。「報酬は100万円だ」。ウエイトレスは余りに高額な報酬に驚いて聞き返しました。「あなたが有名な画家であることは知っていますが、30秒で描いた絵が100万円というのは高すぎます」。これを聞いたピカソはこう答えました。「30秒ではない。30年と30秒だ」。

 このエピソードを読んで、どう感じたでしょうか。ウエイトレスに同情する人なら、”ピカソは強欲だ”、”ピカソは大人げない”と感じたかもしれません。また、画商やビジネスマンなら、”100万円でも安い”、”当然の対価だ”と感じたかもしれません。もちろん、この話の感じ方に正解はありません。ただし、この広告の趣旨は『あなたは無意識に自分(の商品)の価値を低く設定していませんか?』というものだったと思います。

 このエピソードの続きがどうなったかは、描かれていません。ピカソが「冗談ですよ、お嬢さん。無料で結構です」と言って絵を手渡したのであれば、とても”親切な良い人”と印象付けられます。また、「報酬が支払えないのであれば、絵はお渡しできません」と言えば、”とてもプライドが高い人”または”守銭奴”のような印象を与えます。

 ここで重要なのは、ピカソのその時の作品の価値は、”30年以上の実績”に裏打ちされたものであるという事実です。その即興作品の価値が100万円かどうかは別として、30年以上の経験のもとにその作品が描かれたことは、変えようのない事実でした。『30年と30秒』には、大きな意味がありました。

 このエピソードと直接の関係はありませんが、大学での研究にも類似した面があります。ある分野のバックグラウンドがない人にとっては、大学の先生の研究アイディアは”何気ない思い付き”に見えるかもしれません。しかし、ひょっとすると数十年に及ぶ研究の成果に基づいたものかもしれません。誤解の無いように書きますが、年配の先生のアイディアや意見が常に正しいと言っているわけではありません。

 研究の良し悪しを判断するのは、経験を積んだ研究者にとっても難しい仕事です。最良の方法は、”良し悪しを判断せずに多様な研究を行なう”ことです。このような研究の中から、凄い成果が出てくるかもしれません。ピカソの成功の原因は、他を圧倒する多作にあったのかもしれないと、個人的には思っています。

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