マガジンのカバー画像

ミリしら物理探査

39
物理探査を1ミリも知らない人に、物理探査に関する専門用語を解説します。
運営しているクリエイター

2021年11月の記事一覧

ミリしら物理探査#16 シューマン共振

 地磁気地電流法(MT法)では、自然の電磁場変動を利用して、地下深部の構造を解明できます。自然の電磁場のうちで低周波なものは、太陽からのプラズマ流である太陽風と地球磁場との相互作用が原因です。一方、高周波な自然電磁場の原因は、シューマン共振あるいはシューマン共鳴(Schumann resonance)と呼ばれる現象が原因です。  シューマン共振は、地球の地表と電離層との間で極極超長波 (ELF波) が反射をして、その波長が地球一周の距離の整数分の一に一致することをいいます。

ミリしら物理探査#15 放射能と放射線

 放射能ほど、間違って使われる物理現象はありません。よく「原子炉から放射能が漏れている」と表現したりしますが、厳密に言えば間違っています。放射能とは、放射線を出す能力なので、原子炉から出ているのは放射線です。”放射能漏れ”はよく使われる言葉ですが、本当は”放射線漏れ”です。放射能と放射線の関係は、タイトル図のように熱源(焚火)と熱を考えると、分かりやすいかもしれません。熱源は熱を出す能力を持っていますが、熱源自体は移動しません。熱源から出てくるのは赤外線(電磁波)として届く熱

ミリしら物理探査#14 優決定と劣決定

 物理探査の最終的な目的は、観測値から地下構造を推定することです。このデータ解析のことを、インバージョン(逆解析)と読んでいます。観測値と地下構造のパラメータ(比抵抗分布や密度分布など)の関係は、様々な仮定を考慮して、最終的にはy=Axのような線型方程式に帰着します。ここで、yは観測値ベクトル、xは地下構造パラメータ、Aはヤコビアン(感度行列)となります。大変申し訳ありませんが、この辺りの文章の意味が理解できない人は、線形代数や最小二乗法を勉強してからお読みくださいm(_ _

ミリしら物理探査#13 オームの法則

 オームの法則(Ohm's law)は、電気回路に流れる電流(I)と抵抗(R)、その抵抗の両端の電位差(V)の関係を表わす法則です。オームの法則を式で書くと、V=IRと非常にシンプルな式になります。オームの法則は、クーロンの法則とともに電気工学で最も重要な関係式の一つです。  ドイツのオームによって発見されたオームの法則は、実はオーム以前(1781年)に、イギリスのキャヴェンディッシュが発見していました。キャベンディッシュは裕福な貴族でしたから、財力に物を言わせて、邸宅内に

ミリしら物理探査#12 順解析と逆解析

 物理的な現象(物理モデル)は複雑ですが、適切な仮定を設定すると、比較的きれいな数理モデルに落とし込むことができます。多くの場合、この数理モデルは微分方程式や偏微分方程式になります。  この微分方程式/偏微分方程式を、解析的に解けるのは、簡単なモデルに限定されます。「解析的に解ける」というのは、「数式で表せる」ということと同義です。解析的に解ける問題も重要ですが、もっと重要なのは解析的に解けない複雑な問題です。  解析的に解けない数理モデルは、数値的に解く必要があります。

ミリしら物理探査#11 『サーミスタ』

 地温探査では、温度計を使って地面の温度を測定します。温度の測定方法は数種類あります。かなり昔は、アナログの水銀温度計を使っていました。1m深地温探査用に、長さが1m近くある特殊な水銀温度計が、研究室に何本もありました。ただし、水銀は危険なので、現在は使用が禁止されています。研究室にあった水銀温度計は、伊都キャンパスの移転の際にすべて廃棄しました。  現在は、温度センサを使ったデジタル方式の温度測定が主流です。例えば、金属の抵抗は温度の上昇に応じて大きくなるので、この電気抵