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二酸化炭素排出量トレースの「スコープ」

はじめに

最近、カーボンニュートラルやGX(グリーントランスフォーメーション)に関する記事を目にすることが増えてきました。それらの記事では、専門用語も多く、たとえば「スコープ」といった言葉が出てきても、果たして何の「範囲」なのか、私も最初は正直よくわかっておりませんでした。

そこで、今回はそういったことについて少し書いていこうと思います。

LCA?

これらの記事の中では、LCAという単語が登場することがあります。ここでいうLCAとは

ライフサイクルアセスメント (life-cycle assessment: LCA) とは製品やサービスに対する、環境影響評価の手法のことです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ライフサイクルアセスメント

LCAは、ISO14040/40において規格化されていますが、その詳細な手法については、各々の目的に照らし合わせて実施することとされています。

再生可能エネルギー及び水素エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドライン | 地球環境・国際環境協力 | 環境省
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/lca/index.html

とあります。「アセスメント」とあるとおり、本来は「環境への影響を定量評価する」ことを指します。

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/lca/index.html

ただし、

近年では、カーボンフットプリントなど「環境負荷の見える化」のための指標を計算するためのツールとしても用いられている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ライフサイクルアセスメント

経済活動の中で、ある商品がたどる流れは次のようになる。商品の製造計画を決め、原材料を採取して工場まで輸送し、工場で加工・包装などを行い、出荷され店頭に並び、消費され、廃棄される。これらすべての段階を製品ライフサイクル(一生)と呼ぶ。
これらすべての段階で、輸送機器や機械などを動かすことで間接的に、あるいは燃焼などにより直接的に、CO2を短時間で固定できない枯渇性エネルギー(化石燃料)を使用してCO2を発生させる。ここで出るCO2の量を、実際に測定するか科学的に証明されている方法で推定し、1製品あたりの排出量を求める。これはライフサイクルアセスメント(LCA)と呼ばれる手法の1種である(ふつう、LCAはあらゆる種類の環境負荷を対象とするが、カーボンフットプリントの場合温室効果ガスだけを対象とする)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/カーボンフットプリント#カーボンフットプリント表示の概要と目的

このように、ある対象製品の生成から廃棄まで、つまり

「ゆりかごから墓場まで」のCO2排出量(を求めること)

をLCAと呼んでいる場合があるので注意が必要です。

GHG?

さて、企業活動におけるCO2の排出はどのように調査・分析するのでしょうか? この「スコープ」について以下のように定められています。

サプライチェーン排出量とは:事業者自らの排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量を指す。つまり、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、一連の流れ全体から発生する温室効果ガス排出量のこと。

サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量
GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)のScope3基準では、Scope3を15のカテゴリに分類します。

環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html

上では、CO2の話だけをしていましたが、実際はCO2以外にも地球温暖化に影響するとみられるガスがあります。それらのことをGHG(Greenhouse Gas Protocol: 温室効果ガス)と呼びます。そして

GHGプロトコルとは、温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)の排出量を算定・報告する際の国際的な基準です。
GHGプロトコルは、オープンで包括的なプロセスを通じて、国際的に認められた温室効果ガス排出量の算定と報告の基準として、その利用の促進を図ることを目的に策定されました。2011年10月に公表され、現在、温室効果ガス排出量の算定と報告の世界共通基準となっています。

温室効果ガス(GHG)プロトコルとは? スコープ1~3をわかりやすく解説 連載:第4次産業革命のビジネス実務論|ビジネス+IT https://www.sbbit.jp/article/cont1/78027

というように、温室効果ガス排出量の算定・報告の基準として世界的に推奨されているものに「GHGプロトコル」というものがあるのです。

Scope1, 2, 3?

話を戻すと、サプライチェーンにおけるCO2の排出量は、GHGプロトコルにおいて、以下の3つのスコープに分類されています。

Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html

簡単に言うと、自社を基準として

自社の中から出たCO2がScope1/2、自社の外で出たCO2がScope3

になります。さらにScope3は15のカテゴリに分かれます。(上図の丸付き数字はScope3のカテゴリを表しています)

Scope3のトレースは実現可能か?

「カーボンニュートラルを目指し、当社はScope1,2,3のトレースはしっかりやっています!」と声高らかにうたう企業も出てきている様に感じます。しかし、実際のところ、このトレースはとても難しいことです。

カーボンニュートラルを宣言する前から、日本には地球温暖化対策推進法(地球温暖化対策の推進に関する法律)、省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)がある。また電力会社の再生エネルギー電力供給も進んできた。自社でのCO2排出については以前から対策が考えられている。しかし難しいのはScope3だ。
細かく見ると、Scope3にはまず、上流工程にかかわる社員の通勤、物流などが網羅的に入っている。合わせて、下流の製品使用や製品廃棄にかかわるCO2(あるいは同等物)の排出量も算定しなければならない。ただ、これらよりもっともややこしいのが、取引先から調達する原材料などの生産に関わる領域だ。

2022年版・脱炭素へのまじめな取り組み方~建前論脱却を目指す~ | 日経クロステック(xTECH)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01268/00063/

Scope1,2は自社の活動のことですから、自社の中で計測をすればわかるのです。具体的には、燃料代や電気代を調べれば、それらの使用量はすぐにわかるでしょう。

しかし、Scope3は社外の活動のことですから、その値は社外から貰わないといけません。また、サプライチェーン全体で考えると、

社外というのは直接取引のある会社だけではありません

その会社もさらに上流の会社を持っている場合が考えられますし、下流側もまた同様です。したがって、直接取引のある会社のさらに上流や下流から正しく値を貰えないとScope3の算出はできないのです。

実際のところ、各企業ではどのようにこの値を貰っているのでしょうか? 多くの場合は、専用のデータベースを活用し、購入した量になんらかの係数をかけて算出して求めている場合がほとんどだと考えられます。ただし、ほかにも、

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