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美の概念を変えた女優➂

~オードリー・ヘプバーンの生涯~ シリーズ➊~➌

➌恵まれない子どもたちのために


▲ユニセフ親善大使として

 オードリーは女優を引退後、ユニセフの親善大使となり、エチオピア、トルコ、ベネズエラ、エクアドル、ホンジュラス、スーダン、バングラデシュ、ベトナム、ソマリアなど、戦争や貧困の深刻な地域を訪ね、飢えや病気に苦しむ多くの子どもたちの現状に接し、彼らを励まし、食料、薬品などの支援やその広報活動にはげみ各地の悲惨な状況を世界の人々に訴えました。
 
 1988年、エチオピアはエリトリアの独立をめぐる内戦と干ばつと飢えに苦しんでいました。難民センターには伝染病が広がり、命の保証はありませんでした。戦後ユニセフの前身「アンラ」の救援物資で生きのびた経験を持つ女性としてエチオピアの大地に立ったのです。「私がここに来たのは、この悲惨な状況を人々に知らせるためなのよ。そして多くの人々の目を、この状況の中で生きていかざるを得ない子どもたちに注がせるため。そのためなら、どんな宣伝塔にもなるし、キャンペーンにも出る。そう決めたのよ。女優であることがその宣伝に有利に働くのなら、それをとことん利用して、すべての人々の関心をひきつけてみせる。」
 
 内戦が続くソマリアの難民キャンプは、餓死寸前の人々であふれ返り、集団虐殺も行われていました。「40万人のソマリア人がキャンプにいます。それは本当の地獄です。なぜなら、そこにはあまりにも助けが少ないからです。」それまで誰も目を向けなかったソマリアの惨状を、メディアを通じて世界に訴えたのです。アメリカ軍がソマリアに入ったのはそれからまもなくのことです。「オードリーがアメリカ軍を動かした」と言われました。
 1992年、国際連合はソマリア暫定政権のモハメド大統領の要請を受けたという形で、まずは安保理がPKO(国連平和維持活動)を実行することを決定し、次いでアメリカのクリントン大統領がアメリカ軍をこれに参加させました。
 しかし、アメリカ兵を主力とする多国籍軍がソマリアに派遣されると、反政府側のアイディード派は態度を硬化させ、国連に宣戦布告し、国連部隊を攻撃し、パキスタン兵士24名が殺害されるという事態となりました。

 1992年9月の終わりころ、オードリーはソマリアで身体の異常に気づき、スイスの自宅に帰りましたが、激しい腹痛に悩まされました。

 1993年10月、アメカ軍はソマリアの首都モガディシュを急襲し、アイディード将軍の副官らを拉致しようとしましたが、ヘリコプターが撃墜され、地上でもアメリカ兵18名、マレーシア平1名がソマリア民兵に殺害され、73名が負傷するなど、作戦に失敗しました。 この「モガディシュの戦闘」に衝撃を受けたアメリカ政府は、制圧は困難と判断して主力部隊を撤退させました。さらに国連PKO部隊も95年3月には撤退し、国連・アメリカの介入は失敗に終わってしまうのでした。

 これより前の1992年10月末にオードリーは、ロサンゼルスの病院に緊急入院し、精密検査の結果、悪性腫瘍が発見され、手術しましたが、余命3カ月の診断がくだり、翌年ついに結腸の末期ガンのため63歳でこの世を去りました。
 子どもたちに献身するヘプバーンの姿が、まだ瞼に焼きついて離れないのですが、このキラ星のような女優を失った悲しみは、ひとつの時代の終わりを感じさせずにはいませんでした。一日500キロカロリーという窮乏生活のなかで、戦火をくぐり抜けたやせっぽちの彼女だからこそ、その大きな瞳で世界中に希望を与えてくれたのではないでしょうか。
 
 1993年に亡くなったオードリーの遺志を継いで、その翌年に息子のショーンとルカによって「オードリー・ヘプバーン児童基金」が設立されました。オードリーの遺志とは、世界中の恵まれない子どもたちを助けたいという信念です。この基金はオードリーが亡くなる前にユニセフに設立した、「オードリー・ヘプバーン・メモリアルファンド」がもとになっています。この基金によって行われている主な活動は、虐待を受けている子どもたちを助けること、アフリカの子どもたちが学校に行けるように支援することです。
 
 オードリーの友人のレスリー・キャロンは「オードリーの人生は二部に分けられるわ。第一部では、望みうるすべての栄光を手に入れた。第二部では、手に入れたものをすべて還元したのよ。」と述べています。オードリーの、戦時においては平和の実現のために命を賭けて闘い、平和な時代にあっては、その平和を実感できるような夢や喜びを映画という文化活動を通じて献身し、その知名度と利益を世界の恵まれないこどもたちのために使ったヘプバーンの業績を称えるとともに、平和とはそういう文化を受け取れる状態をいうのだということを確認したいと思います。そしてこの文化の領域には、いかなる権力も立ち入ることを許してはならないと思います。

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