崎浜秀男

人間は時として生きる意味を考える。過去にタイムリープしてみれば、そこに生きる意味を求め…

崎浜秀男

人間は時として生きる意味を考える。過去にタイムリープしてみれば、そこに生きる意味を求めた人間を見出すことができる。私は歴史や哲学を教えた教師であり、思春期の子どもや親に話をするプロとして研鑽を積んだ。情報に振り回されている現代人、生きる意味を見失いかけた人に読んでもらいたい。

最近の記事

美食は罪か

   わたしたちは、たくさんの生命の犠牲の上に、自己の生命を成り立たせています。殺生は戒めなければならないことですが、人間に限らず、動物の多くは、生き物を食べずには生きられない宿命を負っています。飽食は罪であるばかりか、健康を害する場合がしばしばです。ましてや無用の殺生や大量の食品ロスなどあってはなりません。  しかし、現実には、わが国の2022年度の食べられるのに捨てられた食品ロスの量は、推計で約523万tもありました。一方で、世界の食料援助量は、2022年で年間約480

    • 真実と偽りは相容れないものか

       古代ギリシャの民話に『真実と偽り』というのがあります。   ある時、「真実」と「偽り」が道で出会いました。見ると「真実」は、ボロボロの服を着て、しばらく何も食べていないといいます。「近頃では、私なんかお呼びじゃないのさ。どこへ行っても無視されるか馬鹿にされるかだ。ほとほといやになってきたよ。われながら、どうしてこんな状況に黙って耐えているのかと思うよ。」すると「偽り」が「僕と一緒においで、そうしたら、どうすれば、うまくやれるか見せてあげるよ。・・・でも、一緒にいる間は、僕に

      • 赤ちゃん誕生物語

         へそは、人間が、母親によって生命を与えられた証拠です。母親が食事をし、母親の血液にとけこんだ栄養が、へその緒を通じて、赤ちゃんの体の中へ送られます。ただし、母親の血液が赤ちゃんの方へ流れるのではなく、母親の血液から赤ちゃんの血液へ栄養だけがバトンタッチされます。このへその緒には3本の血管があって、ここから酸素も受け渡ししています。その受け渡しをする場所が胎盤といわれるところです。ですから、赤ちゃんは自分の口からは何も食べませんし、呼吸もしません。  しかし、自分の口からは何

        • 真理を求める人間のあり方

           最近では差別的だと敬遠されがちですが、「群盲象を評す」というインドに伝わる寓話が示す知恵をあえてお話します。  ある時、一頭の大きな象の周りに六人の盲人がやってきました。彼らは今まで象に出逢ったことはなく、その正体を突き止めようとします。彼らは、それぞれに象に触りながらいいました。一人目の盲人は象の鼻に触り、「象とは、蛇のように長いものだ」と言い、二人目の盲人は象の耳に触り、「象とは、大きなうちわのようなものだ」と言いました。三人目は足に触り、「象とはまるで木の幹のようだ

        美食は罪か

          幸せを求めて旅に出ますか

            メーテルリンクの有名な戯曲『青い鳥』に登場するチルチルとミチルは、幸せの「青い鳥」を探して、旅に出ましたが、結局それは身近なところにあったのです。     物事や世界を悲観的に見て、生きることを嫌悪する態度をペシミズム(厭世主義)といいますが、そこまで支配的ではないにしても、何かにつけマイナスに考える人はいます。世界には耐え切れない程の不条理が存在するのも事実です。しかし、自分の不幸の原因は、現実をどう見るかの問題であって、よく見るとそこには、「緑色の目をした怪物」(G

          幸せを求めて旅に出ますか

          チャンスはやすやすと逃げていく

           古代ギリシャのポセイディッポスの詩に「幸運の女神には前髪しかない」という一節があります。  「時」または「好機」を意味するギリシャ神話の神カイロスの容姿について述べたものといわれています。すなわちカイロスは高速で移動するため、独特の髪型をしており、出会った人が捕まえやすいように髪が前に垂らされてはいますが、後頭部には髪が無いため、後ろから捕まえることはできません。つまり、「チャンスは訪れたその時に瞬時に捕まえなければ、後から気づいて追いかけて行って捕まえることはできない」こ

          チャンスはやすやすと逃げていく

          些細な損失をいかに受けとめるか

             ある国に将棋が大好きな王がいました。王は家臣たちがいつも負けてくれるのも知らないで、自分ほど先を見通して手の打てる王は他にはいないと思っていました。傲慢な王は、政治も独断的で外敵への備えも十分ではありませんでした。しかも、種モミを蓄えることを認めず、自分の種モミを人々に高い利子で貸し付け、私腹を肥やしていました。   重臣たちは、このままでは国の存続も危ういと考え、ある日、頭のいい一人の家臣を王のもとに遣わしました。その家臣は、王に、とても美しい将棋盤を献上したいと申

          些細な損失をいかに受けとめるか

          「タイパ」で本当に幸せになれるのか

           古今東西、全地球の生きとし生けるものに、24時間という時間は平等に与えられています。しかし、現代人は、なぜ時間が足りない、一日が短いと感じるのでしょうか。  ミヒャエル・エンデの『モモ』という作品は、大切な時間をどう生きるかというのがテーマになっています。主人公で浮浪児のモモは人の話をひたすら静かに聞くだけの女の子ですが、話をした人々は、なぜか不思議と温かな気持ちになり、自分自身を取りもどしていくのでした。人々は時間にゆとりを持ち、満ち足りた時間をゆっくりと過ごしていまし

          「タイパ」で本当に幸せになれるのか

          「涙活」のすすめ

           アランは、『幸福論』の中で、こう述べています。「悲しみは心の問題ではなく、身体の問題である。ある精神分析医が、人の気分の移り変わりをいろいろと観察し分析するうちに、ひとつの法則に気づいた。 楽しい時期が終わりに近づくと赤血球の数が減り、悲しい時期が終わる頃には増えはじめるのである。悲しみは、実は赤血球の数の問題なのだとわかれば、話は早い。いらぬことに思いをめぐらすことをさっさとやめよう。悲しみは心の問題ではなく、身体の問題と考えるのだ。そうすればもう疲れや病気と同じことで、

          「涙活」のすすめ

          広島原爆投下は、なぜ、8時15分だったのか

           今年の夏も、「ヒロシマの季節」がやって来ました。それは、すべての生命に対する核の脅威を終わらせるための、人間としての責任について、改めて考え、深く思いをめぐらす時です。  広島に原爆が投下されたのは、8時15分でした。では、なぜ、8時15分だったのでしょうか。当時広島で救護活動にあたっていた、ある医師の証言によると、原爆が投下された「8時15分」には、重大な意味があるといいます。(長崎は、雲が多く目視で小倉に投下できなかったことから、やむ終えず次の予定地に投下したため、特に

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          ユダヤ人を助けたスウェーデン人外交官 ・ワレンバーグの活躍

           1939年、独ソ不可侵条約を結んだナチス・ドイツは、ポーランドを侵略し、西ヨーロッパを次々と占領していきました。侵略は、ユダヤ人迫害と表裏一体をなしてすすめられましたが、なぜ、長期にわたってホロコーストが続けられたのでしょうか。  ユダヤ人は世界に救済を呼びかけましたが、相手にされませんでした。わずかにデンマークやブルガリアがナチスの言いなりにならなかった為、一部のユダヤ人たちは迫害を免れました。デンマーク国王・クリスチャン10世と政府は、ドイツに支配されながらも従わず、

          ユダヤ人を助けたスウェーデン人外交官 ・ワレンバーグの活躍

          生きる望みを失っているあなたへ ~ヴィクトール・E・フランクルの強制収容所体験~

           1905年3月26日、オーストリアのウィーン=レオポルトシュタットに生まれたユダヤ人のヴィクトール・エーミール・フランクルは、完全主義者で正義の人だった議会速記者の父ガブリエル・フランクルと、プラハの貴族の家系で感情豊かな女性だった母エルザ・フランクルの第二子として生まれました。彼は幼い頃から質問ばかりしていたため、女性教師に「思想家さん」と呼ばれていたといいます。  フランクルは、思春期にはすでに文学少年でしたが、15歳で催眠術に興味をもち、早くも応用心理学を志していま

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          貧民教育に捧げたペスタロッチの生涯

            ペスタロッチは、不朽の名著といわれる『隠者の夕暮』の冒頭で「玉座にあっても藁(わら)ぶき屋根の伏屋(ふせや)に住んでいても同じ人間、その本質における人間とは一体何であろうか。何故賢者たちはそれが何であるかをわれわれに言ってくれないのだろうか。何故高貴な人々は、人類が何であるかに気づかないのであろうか。」と問いかけました。  地位や名誉や財産を剥ぎ取れば、みな同じ人間だというときの「人間」とはそもそもどういうものなのかと自ら問題提起し、人間は何を求め、どういうときに安らぎ

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          黒人奴隷の解放 ~エイブラハム・リンカンの決断~ シリーズ➊~➋

          ➋寛大さと不抜の志を併せ持つ男・リンカン  こうした状況の中、注目の上院議員選挙の結果は、民主党のダグラスの勝利におわりました。リンカンは、友人への手紙で、「わたしはあの論争をやったことを喜んでいる。わたしはわれわれの時代の大きな永続的な問題について、人々に自分の意見をきいてもらうことができた。そして、わたしはいま、人からみとめられないところに落ちこんで、いずれは忘れられてしまうだろうが、わたしのしたことは、死んでからずっと後になって、人民の自由のために効果をあらわすだろう

          黒人奴隷の解放 ~エイブラハム・リンカンの決断~ シリーズ➊~➋

          黒人奴隷の解放 ~エイブラハム・リンカンの決断~ シリーズ➊~➋

          ❶流血のカンザス    アメリカ合衆国という国は、独立当初から、奴隷制度を維持することを条件に、合衆国に加わった州もありました。19世紀半ばのアメリカ合衆国では、黒人奴隷制度をめぐる南部と北部の対立が深まりました。南部の人口900万人のうち、白人は550万人、黒人は350万人です。南部では、奴隷制度の上に大農園が成立しており、南部の農業が急激に発達することができたのは、ひとえに奴隷制度のおかげでした。この制度を急に止めるとなると、南部一帯の産業は大打撃を受けることになりま

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          清貧なる「昆虫の詩人」アンリ・ファーブルの探究

           文庫本で10冊にも及ぶ大著『昆虫記』を残したファーブルは、芸術的にも磨かれたセンスを持ちあわせていました。この本が長く読み継がれているのは、文学としても大変優れ、自然科学との幸福な調和を保った文理融合型の著作だともいえるからです。その愛に満ちた昆虫へのまなざしから「昆虫の詩人」と呼ばれたアンリ・ファーブルの『昆虫記』の原題は、『昆虫学的回想(Souvenirs entomologiques)』といいます。すべての生命にはみな果たすべき役割があるという生き物の持つ生命の尊厳を

          清貧なる「昆虫の詩人」アンリ・ファーブルの探究