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クリニカルパスとは

 最近、医療現場で「クリニカルパス」という言葉が使われています。工業関係に詳しい方だと聞いたことがあると思われたかもしれません。では、この「クリニカルパス」とは一体何のことなのか、今からご説明いたしましょう。

 クリニカルパスの原型はクリティカルパスに由来しています。このクリティカルパスというのは、多くの契約者が複雑に関わって1つの作業を行うコンピュータ関係・建築関係などの産業界で、1950年代に工程管理のツールとして開発されたと言われています。医療界では1980年代に、アメリカで診断群別定額支払い方式(DGR/PPS)の対応策としてカレンザンダー氏が導入したことに始まっているとされています。

クリニカルパスとは?

病院では、医師、看護師だけでなく、薬剤師、栄養士、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、放射線技師、臨床工学技士、医療事務職員などコ・メディカルスタッフを含めた様々な職種が連携を取り合い、それぞれの専門性を生かして患者さんの治療や検査・処置にあたっています。

クリニカルパスとは、医療チーム(医師、看護師、コ・メディカルスタッフ)が、特定の疾患、手術、検査ごとに、共同で実践する治療・検査・看護・処置・指導などを、時間軸に沿ってまとめた治療計画書です。クリニカルパス、あるいは単にパスとも呼ばれています。

クリニカルパスは、元来産業現場の工程管理を効率よく行なうための手法でしたが、近年この手法は、医療界においても医療の効率化や質の管理、チーム医療の推進、インフォームドコンセントの充実、医療事故の防止などにおいても有用であることが認知され、多くの医療施設において導入されています。

 一般には、クリニカルパスは作業(病院では初診から検査、治療といった一連の行為)を各段階に分解し、時間の流れの中で順次行うものや同時に行うものを並べていき、フローチャートと呼ばれる図(図1)に表します。各々の作業にかかる時間や作業の順番を検討して、全体の工程を規定しているラインをクリニカルな経路として発見と改善を繰り返すことで、無駄を省き、効率の良い、適正な作業を実施することができます。

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たとえば、順番を間違えていったん行った作業をやり直すことや、ある作業が終了するまで別の作業が待たされるというような無駄を減らすことが可能になります。また、一連の作業工程全体の流れを、作業に関わる人全員が理解して情報を共有することで、無駄な動きもなくなり、他分野からのアイデアや提案などのコミュニケーションも可能になります。


 クリニカルパスは、各医療施設でも標準的な治療計画や検査計画をたてるためのツールとして使われてきましたが、当初は「クリティカルパス」と呼ばれていました。しかし数年前から学会設立などを契機に「医療に関わる」という意味から「クリニカル」になり経路をパスウェイということから併せて「クリニカルパス」と呼ぶようになったようです。現在は「クリニカルパス」という言葉が一般的に使われています。各医療施設でも、と述べましたがいずれはそれが、ある地域や日本全体といった規模で標準化されるかもしれません。そうなれば、診断群別定額支払い方式(DGR/PPS)の日本版が行われるのでしょうか。

 では次に、クリニカルパスのメリットを具体的にご説明いたしましょう。

 クリニカルパスには「標準化」というものが基本にあります。従来の医療行為は、ある意味では、前近代的に各医師の経験によるものが多くありました。例えば、同じ病気でも、ある医師はあらゆる検査をしてから治療を考える一方で、別の医師はあまり検査をせずに治療に取り掛かるということもあり得ました。そして、使う薬の選択も各医師に任されることが多くありました。もちろん、同じ医師でも同じ病気でも、患者様の年齢や体力などの条件の違いから患者様に対する手順は違うものになりますし、各医師ごとに検査や治療の技術に差(経験年数や得手不得手など)があるために、一概に「同じに」とはいかないのは当然なのですが、医学が科学と言われる反面で前近代的であると言われる原因でもある、いわば「流儀」ともいえるやり方が残っているという事実の証でもありました。

クリニカルパスにより患者さん中心の医療が行われます

パスは原則として、医療者用と患者さん用の2種類が作成されています。患者さん用パスは、医療者用パスに対応したもので、わかりやすい言葉を用いたりイラストを挿入したりして患者さんが理解しやすいように工夫して作成したものです。(パスの種類によっては、患者さんの理解を助けるために患者さん用パス以外に当院オリジナルの説明用パンフレットを作成しているものもあります。)

この患者さん用パスにより、患者さんに多くの利点があります。

入院中に受ける検査や治療の予定がわかる。
あらかじめ退院日がわかるため、退院後の予定がたてられる。
自己管理の手助けとなる。
パス表に示される標準的な経過と自分の経過を比較することにより、患者さん自身で経過が順調であるかどうかが確認でき、また異常の早期発見も可能となる。
事前に入院費用の概算がわかる。
医療スタッフとコミュニケーションが増え、信頼関係を構築しやすい。
などですが、さらに、患者さんがある疾患に対する治療を受けられる場合、複数の病院のその疾患に対するパスを比較することにより、ご自身の希望にあった医療を提供してもらえる病院を選択することも可能となります。

また、パスは定期的に見直してよりよいものへ改定していくものですが、この際には患者さんの声を反映させるように心がけています。そのため、しばしば患者さんにはアンケート調査にご協力をお願いしています。

このように、パスは、主治医が一方的に患者さんに医療を押し付けるためではなく、患者さんに医療内容を十分にご理解していただいた上で、安心して、安全で確実な医療を受けていただくために活用されています。

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