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薬価改定に関して

薬価改定とは、医療用医薬品の公定価格である薬価を見直すことです。原則として、2年に1回、4月の診療報酬改定にあわせて行われます。ここで決まった薬価は、次の改定まで変わりません。

市場実勢価格にあわせて薬価を引き下げる

薬価改定が行われると、大半の薬は改定前に比べて薬価が下がります。なぜかというと、医薬品卸売業者と医療機関・薬局の間では、薬は薬価よりも低い価格で売買されており、これに合わせて薬価を引き下げるのが、薬価改定の基本だからです。

医療用医薬品の市場は、表向きは公定価格の形をとりながら、その裏では一般の消費財と同じように自由な価格競争が行われているところに大きな特徴があります。医療機関や薬局は公定価格である薬価に基づいて薬の費用を請求する一方、製薬企業から卸、卸から医療機関・薬局に販売される価格は、当事者間で自由に設定することができるのです。

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薬価差益とは

医療機関・薬局にとっては、卸からの仕入れ値と公定価格である薬価の差額はそのまま利益になります(これを薬価差益という)。このため、医療機関や薬局は卸と交渉し、可能な限り安い価格で薬を仕入れようとします。生活習慣病領域などのように、競合品が多ければ価格競争も激しくなり、実際に市場で流通する価格は下がりやすくなります。

薬価改定は、実際の流通価格(卸から医療機関・薬局に販売された価格=市場実勢価格)に合わせて薬価を引き下げる目的で行われます。このため、薬価改定はずっとマイナス。最近は改定のたびに全医薬品で平均5~6%薬価が引き下げられてきました。18年度は薬価制度の大幅な見直しが行われたため、引き下げ率は7.48%と大きくなりました。

市場実勢価格は「薬価調査」で調べる
薬価改定は市場実勢価格に合わせて公定価格を引き下げるのが基本ですので、改定を行うには、まず市場実勢価格を把握しなければなりません。そのために行われるのが、薬価調査と呼ばれる調査です。

薬価調査のしくみ

薬価調査は、薬価改定の基礎資料を得る目的で厚生労働省が薬価改定の前の年に行う調査。販売側(主に医薬品卸)への調査と購入側(病院・診療所・薬局)への調査からなり、薬価基準に収載されている医薬品の品目ごとの販売(購入)価格と販売(購入)数量を、販売側と購入側それぞれに回答してもらいます。

2018年度改定に向けた薬価調査は、前年の17年9月取引分を対象に同年10~11月に行われ、

【販売サイド調査】
医薬品卸の営業所など6291カ所(全数)

【購入サイド調査】
病院約864カ所(抽出)
診療所1036カ所(抽出)
薬局1926カ所(抽出)

が対象となりました。

厚労省は薬価調査で集めた個々の取引価格から、品目ごとに加重平均値を算出。これを市場実勢価格とし、消費税と、流通コストを担保するための調整幅(改定前薬価の2%)を足した額が改定後の新たな薬価となります。

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乖離率とは

薬価改定の時期になると、乖離率という言葉をよく耳にするようになります。乖離率とは、医薬品の市場実勢価格(加重平均値)と薬価の差をパーセンテージで表した数値のことです。例えば、薬価100円の薬の市場実勢価格が90円だった場合、乖離率は10%。乖離率から調整幅2%を差し引いた分が、薬価改定での引き下げ幅となります。

2017年に行われた薬価調査によると、薬価収載されている全医薬品の平均乖離率は9.1%でした。

薬の市場実勢価格は、生活習慣病など競合が多く価格競争の激しい領域で下がりやすくなります。17年の薬価調査から薬効群ごとの乖離率を見てみると、血圧降下剤(13.3%)や消化性潰瘍剤(13.1%)、高脂血症用剤(12.7%)などが平均を上回った一方、内用の腫瘍用薬(6.6%)、注射の腫瘍用薬(6.0%)、抗ウイルス薬(5.8%)などは平均を下回りました。

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平均乖離率は1997年まで10%を超えていましたが、03年にはいったん6.3%まで下がり、その後はだいたい8%台で推移しています。17年に9.1%と高い値になったのは、価格競争が激しく乖離率も大きい後発医薬品の使用が広がったことが背景にあると考えられます。

2021年度からの毎年度薬価改定に向け

市場実勢価格に迅速に薬価を合わせ、医療保険財政の健全化を狙う

2018年度には、「国民皆保険の持続性確保」と「イノベーションの推進」を両立しながら、「国民負担の軽減」「医療の質の向上」の実現を目指した「薬価制度の抜本改革」が行われました(2020年度改定でもさらなる改革を推進)。抜本改革では、
▼新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象品目の限定(真に医療上必要な医薬品について価格の下支えを行う)
▼長期収載品から後発医薬品への置き換えを促進するための新ルールの創設
▼費用対効果評価に基づく価格調整ルールの導入など―のほか、「毎年度の薬価改定の実施」が盛り込まれています。

「市場実勢価格を適時に薬価に反映して国民負担を抑制する」ために、従前「2年に1度」であった薬価改定について、中間年度においても必要な薬価の見直しを行うものです。毎年度改定は2021年度から実施されることとなっており、このためには、まず2020年度に薬価調査(医療機関等と卸業者との間の取引価格(実勢価格)を調べる)が必要となります。

もっとも薬価調査には大きなコスト(調査対象となる卸業者や医療機関等の負担)がかかるため、「全ての医薬品卸から、大手事業者を含め調査対象を抽出して実施する」こととなっています。

薬価調査は「改定前年の9月取引分」を対象に行うこととなりますが、調査の制度設計等(総務省による審査などもある)の時間を考慮し「6月中に調査実施方法等を固める」必要があります。早急に「どういった卸業者を抽出するのか」などを詰める必要があります。

診療側委員や卸業者・製薬メーカーは「薬価調査を実施できる状況にない」と慎重姿勢
ところで、現在、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっており、
▼卸業者は「医薬品供給に限定する」などの業務縮小を行っている
▼医療機関等は極めて多忙であり、また感染防止のために「価格交渉」が進んでない(つまり取引価格が確定していない)
▼医療機関等、卸業者とも極めて多忙である―などの状況にあり、「調査に協力が得られるのか、調査結果の信頼性を確保できるのか」という課題もあります。

そこで厚労省医政局経済課の林俊宏課長と、厚労省保険局医療課の田宮憲一薬剤管理官は5月27日の薬価専門部会に、2020年度の薬価調査に向けて次のような論点を提示しました。調査実施は決定していませんが、「調査実施に向けて準備を進めておく」必要があるためです。

(1)新型コロナウイルス感染症の発生への対応により、例年と同様の価格交渉や医薬品流通が出来ていないと考えられるが、「現在の価格交渉の状況」や「今後の見通し」「新型コロナウイルス感染症の対応の影響」などに関して、関係団体から意見聴取をしてはどうか
(2)実施する場合、通常改定と同様のスケジュールを踏襲(9月取引分を対象とする)してはどうか
(3)卸業者の抽出率をどう考えるか
(4)購入側(医療機関)を対象とする調査をどう考えるか
(5)談合疑いが指摘されたJCHO(地域医療機能推進機構)病院については、改善が進められているが、今回は調査対象から除外してはどうか

この点、「非常に厳しい状況であり、2020年度の調査は実施しない」という結論を出せるのか否かがまず注目されます。

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